「住み心地」よりも「食べ物」が大事?―小さな水たまりの昆虫群集において、餌資源が種の共存を左右することを解明―

「住み心地」よりも「食べ物」が大事?
―小さな水たまりの昆虫群集において、餌資源が種の共存を左右することを解明―

 国立大学法人東京農工大学大学院連合農学研究科博士課程の新川颯輝氏と同大学大学院農学府共同獣医学専攻博士課程の井上哉太氏、同大学農学部附属広域都市圏フィールドサイエンス教育研究センターの吉田智弘准教授の研究グループは、森林内の水たまり(滞水樹洞)に生息するボウフラなどの水生昆虫群集において、種の共存を促進するメカニズムを解明しました。
 生物が共存するためには、利用する資源や場所を使い分ける「ニッチ分化」が重要です。本研究では、人工の樹洞を用いた野外操作実験により、昆虫たちにとって「生息場所の物理的な構造(条件ニッチ)」よりも「餌となる有機物(資源ニッチ)」の違いの方が、種ごとの住み分けを決定づける上で重要であることを突き止めました。この成果は、生物多様性が維持される仕組みの理解を深めるものであり、本研究成果は、2026年1月9日付水域生物学の国際誌『Freshwater Biology』に掲載されました。

本研究成果は、Freshwater Biology(1月9日付)に掲載されました。
論文タイトル:Relative Importance of Resource and Condition Niche for Invertebrates in Water-Filled Treeholes
URL:https://doi.org/10.1111/fwb.70161

背景
 同じ場所に住む生物たちが、競争を避けながら共存できるのはなぜでしょうか。生態学では、それぞれの種が異なる資源や環境を利用する「ニッチ分化」が鍵であると考えられています。ニッチには、消費して減ってしまう「資源(餌など)」と、消費されない「条件(温度や隠れ家となる構造など)」の2つの側面があります。しかし、自然界ではこれらが複雑に絡み合っています。例えば、水たまりに落ちる「落ち葉」は、昆虫にとって「餌」であると同時に「隠れ家」でもあります。そのため、どちらの機能がより重要なのかを厳密に区別して評価することは困難でした。

研究体制
 本研究は、JST SPRING JPMJSP2116の助成を受けて行われたものです。

研究成果
 東京農工大学の演習林であるフィールドミュージアム唐沢山(栃木県佐野市)に、プラスチック容器を用いた「人工樹洞」(図1)を40個設置しました。「落ち葉の役割」を分解するために、以下の工夫を行いました。
1.資源(餌)だけの役割: 微細なコットンパウダーを投入(構造としての機能を持たない純粋な餌)。
2.条件(構造)だけの役割: プラスチック製の人工葉を投入(餌にならず、隠れ家としての構造のみを提供)。
これらを組み合わせた4つの実験区(コントロール、資源のみ、条件のみ、両方投入)を設定し、3か月後にどのような昆虫が定着しているかを調査しました(図2)。
 実験の結果、以下の3点が明らかになりました(図3)。
1.資源の重要性: 種ごとの反応の違い(ニッチ分化)は、物理的な構造の変化(条件)よりも、餌の有無(資源)に対してより顕著に現れました。これは、限られた空間では「住み心地」よりも「食べ物をめぐる競争」が群集構造を強く決定づけていることを示唆しています。
2.体サイズ依存性: 体の小さな種(ヌカカ科.spなど)は、資源や構造の追加に対して個体数を大きく増やしました。一方、体の大きな種(キンパラナガハシカなど)は環境の変化にあまり左右されませんでしたが、資源と構造の両方が増えると、逆に個体数が減少するケースが見られました。これは、環境が良くなったことで小型種が増え、競争が激化したためと考えられます。
3.相乗効果: 資源と条件を同時に操作すると、それぞれ単独の効果を足し合わせた以上の変化が生まれ、両者の相互作用が重要であることが分かりました。

今後の展開
 本研究は、小さな水たまりという閉じた生態系を用いることで、生物群集の成り立ちにおける「資源」と「環境条件」の相対的な重要性を実証的に示しました。この発見は、生物多様性の維持機構の理解に貢献するだけでなく、環境変化が生物群集に与える影響を予測する上での基礎的な知見となります。

図1:人工樹洞の設置状況。
図2:実験デザインの模式図(FWB (2026) DOI 10.1111/fwb.70161を基に作成)。

図3:種別の処理区に対する反応率の違い(FWB (2026) DOI 10.1111/fwb.70161を基に作成)。縦軸の「反応率」は、何も加えない「対照区(コントロール)」を基準(0)とした際の個体数の増減を表しています。値がプラスであれば個体数が増加し、マイナスであれば減少したことを意味します。グラフの動きが種によってバラバラであることは、それぞれの種が資源(餌)や条件(構造)の変化に対して異なる反応を示しており、同じ場所の中でうまく棲み分け(ニッチ分化)をしていることを示唆しています。

 

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学農学部附属広域都市圏フィールドサイエンス教育研究センター
  准教授 吉田 智弘(よしだ ともひろ)
   TEL:042-367-5813
   E-mail:yoshitom(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

 

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