タイワンカモシカはまるでキリン?台湾における森林性有蹄類3種の独特な食い分け
タイワンカモシカはまるでキリン?
台湾における森林性有蹄類3種の独特な食い分け
ポイント
- 台湾の雲霧林に生息するタイワンカモシカ(体重30㎏)、キョン(同12㎏)、サンバー(同180kg)の食性を糞の顕微鏡分析により調べ、食べ物をめぐる種間関係を検討しました。
- タイワンカモシカは柔らかくて消化しやすい木本などの葉を、サンバーは消化しにくいイネ科などの葉を主に食べ、キョンはその両方を同程度食べることにより、食い分けをしていることがわかりました。
- キョンよりも2倍以上大きいタイワンカモシカが消化しやすい木本類を採食したことは、体サイズが小さい草食獣ほど消化しやすい食べ物を好むというこれまでの学説と異なる発見です。
- タイワンカモシカは木登りをして樹上で採食することが知られ、キリンのように他の草食獣が利用できない樹上の良質な植物の葉を独り占めできた可能性が考えられます。
本研究成果は、オランダの動物学雑誌「Contributions to Zoology」(2025年12月15日付)オンライン版に掲載されました。
論文名:Unique dietary partitioning among three sympatric forest-dwelling ungulates in Taiwan deviates from the Jarman–Bell principle
著者名:Hayato Takada*, Yu‑Jen Liang, Nick Ching‑Min Sun, Kurtis Jai‑Chyi Pei*
URL:https://doi.org/10.1163/18759866-bja10087
研究体制
本研究は、国立大学法人東京農工大学農学部附属野生動物管理教育研究センターの髙田隼人特任准教授と国立屏東科技大学(台湾)のNick Ching-Min Sun助教授、台湾野生動物学会のYu-Jen Liang博士およびKurtis Jai-Chyi Pei会長らの共同研究チームによって実施されました。なお、本研究は、JSPS科研費JP22K14909、JP23KK0277の助成を受けて行われたものです。
研究背景
草食獣である有蹄類(注1)の食性(注2)はその種の体サイズから強い影響を受けることが知られています。具体的には、体サイズの大きい有蹄類ほど消化しづらいグラミノイド(注3)を食べるのに対し、小さい有蹄類ほど消化しやすい木本や草本を好んで食べる傾向にあります。この法則は発見者の名前にちなんで「ジャーマン・ベル原理」と呼ばれ、世界中の有蹄類に広くあてはまることから、高い一般性を持つことが知られます。ただし、キリンのように長い首を持つことによって、大きい体でも消化しやすい木本の葉を食べる一部の例外もあります。ジャーマン・ベル原理は同じ場所に生息する複数種の有蹄類にも当てはまることが多く、体サイズに応じてそれぞれの種が異なる植物を食べること(「食い分け」(注4))により共存を可能にしていることが知られています(2023年6月30日 本学プレスリリース)。しかし、このような研究はサバンナなどの熱帯草原や比較的寒い地域の森林に限られており、木々の生い茂る熱帯や亜熱帯の森林でもこの原理が当てはまるかどうかは調べられていませんでした。
亜熱帯気候に位置する台湾の雲霧林(注5)には、タイワンカモシカ、キョン、サンバーが同所的に生息しています(図1)。3種の体サイズは顕著に異なり、キョン(メス9㎏、オス12㎏)、タイワンカモシカ(両性ともに21-30㎏)、サンバー(メス90㎏、オス180㎏)の順に大きいです。ジャーマン・ベル原理からは、大きいサンバーが消化しにくいイネ科を、小さいキョンが消化しやすい木本の葉をより多く採食し、タイワンカモシカがこれら2種の中間的な食性を持つと予測されます。
一方最近の研究では、タイワンカモシカが有蹄類の中では非常に珍しい木登りを行ない、樹上の木本の葉を採食することが報告されました(2024年7月31日 本学プレスリリース)。そのため、タイワンカモシカはキリンのように、他の有蹄類が利用できない木本の葉を主に食べているかもしれません。つまり、ジャーマン・ベル原理に反して、体サイズの小さいキョンよりもタイワンカモシカが木本の葉を最も利用しているかもしれないと考えました。そこで、同所的に生息するこれら3種の食性を調べました。
研究成果
調査は台湾の中央部に位置する玉山国立公園の約2.4㎢の調査地で実施しました(図2)。調査地の標高は2450mから2862mで、温帯気候の日本であれば高山帯にあたりますが、亜熱帯気候の調査地は雲霧針葉樹林に覆われています。林床はササなどのグラミノイドが優占しており、有蹄類3種が地上から食べられる高さに消化しやすい木本類はほとんどありません。ただし、タイワンカモシカが登ることが出来る2~4mの高さには広葉樹が葉をつけています(図2)。2023年1月から2024年11月にかけての2カ月に1回(合計6回)、調査地を満遍なく歩き回り、3種の糞を60個採取しました(6回の合計で360個採取)。採取した糞は実験室に持ち帰り、ザルを用いて洗浄したのち、顕微鏡で糞内容物を観察し、何の植物がどのくらい含まれているかを評価しました。
その結果、全ての季節でサンバーはグラミノイドを、タイワンカモシカは木本類を主食とし、キョンは2種の中間的な食性を持つことが示されました(図3)。体の最も大きいサンバーがグラミノイドを主食にしたことはジャーマン・ベル原理に従いましたが、キョンに比べて二倍以上も大きいタイワンカモシカが木本類を最も採食したことは、ジャーマン・ベル原理では説明がつきません。タイワンカモシカが地上から食べられる高さには木本類の葉がほとんどなかったことから、木登りによって樹上の葉を採食している可能性が高いと考えられました。さらに、3種の食性の重複を評価したところ、有意に異なること、つまり明確に食い分けが起きていることが示されました。これは、キリンが長い首により他の草食獣と食い分けをするように、木登りというタイワンカモシカの特殊な行動がもたらした食い分けであることが示唆されました(図4)。タイワンカモシカは木登り行動により、他の草食獣が利用できない樹上の良質な植物の葉を独り占めできている可能性があります。言い換えると、他の有蹄類との種間競争(注6)の回避が、木登り行動の大きなメリットのひとつであることが示唆されました。
今後の展開
本研究は台湾の亜熱帯地域の森林に生息する有蹄類の独特な食い分けを示した世界で初めての研究です。さらに、世界でも稀な有蹄類の木登り行動の具体的なメリットを提示した初めての研究でもあります。しかし、種間競争の回避が木登り行動のメリットだとしたら、なぜほんの限られた有蹄類にしか木登り行動が観察されないのでしょうか(有蹄類全体の2%のみ:2024年7月31日 本学プレスリリース)?この謎が今後の大きな研究課題です。また、タイワンカモシカの木登り行動はまだほとんど詳細が明らかになっていません。この行動の進化を理解するためには、誰が、いつ、どこで、どうやって木登りするのかを今後調べていく必要があります。
一方で、サンバーやキョンは個体数の増加と分布拡大が台湾各地で確認されているものの、タイワンカモシカはいくつかの地域で個体数が減少していると考えられています。本研究では、タイワンカモシカの食物資源として、林床の植生だけでなく、比較的背の高い樹木の存在が重要であることを示すことができました。タイワンカモシカの保全対策のためには、こうした食べ物になる食物資源の維持と増殖が重要であると考えられます。
用語解説
注1)蹄を持つ動物群のこと。偶蹄目(牛や羊)と奇蹄目(馬やサイ)が含まれる。
注2)動物がどのような食物を食べるかの習性のこと。
注3)イネ科、カヤツリグサ科、イグサ科の総称。細胞壁にシリカを蓄積し、繊維質が多いため、動物にとって消化しにくい性質を持つ。
注4)同じ場所に生息する複数の動物種がそれぞれ異なる食物を利用すること。
注5)熱帯・亜熱帯地域の山地に多く見られる、霧や雲に覆われた湿度の高い森林のこと。
注6)ある種の存在がもう一方の種の繁殖や生存を低下させる関係のこと。
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学 農学部附属野生動物管理教育研究センター
特任准教授
髙田 隼人(たかだ はやと)
TEL:042-367-5826
E-mail:takadah(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
関連リンク(別ウィンドウで開きます)
- 東京農工大学 髙田隼人特任准教授 研究者プロフィール
- 東京農工大学 髙田隼人特任准教授 研究室WEBサイト
- 髙田隼人特任准教授が所属する 東京農工大学農学部地域生態システム学科