合成が難しいナノポア形成ベータシートペプチドを無細胞タンパク質合成系によって簡便に合成することに成功 ―1分子をラベルフリーに検出可能なバイオセンシング技術への応用に期待―
合成が難しいナノポア形成ベータシートペプチドを無細胞タンパク質合成系によって簡便に合成することに成功
―1分子をラベルフリーに検出可能なバイオセンシング技術への応用に期待―
本研究のポイント
- リポソームを添加した再構成型無細胞合成系を用いて、凝集性が高く化学合成が難しいナノポア形成ペプチドを簡便に合成することに成功しました。
- リポソームの脂質組成と測定条件を最適化し、無細胞合成したペプチドナノポアでポリペプチドなどの分子を検出することに成功しました。
- 複数の配列に本手法を適用し、凝集性膜ペプチドナノポアの合成および機能測定を簡便に行う新たなプラットフォームを開発しました。
概要
東京農工大学大学院工学研究院生命工学部門の藤田祥子助教、同大学大学院工学府大学院生の佐藤茉奈、同大学大学院工学研究院生命工学部門の川野竜司教授らのグループは、リポソーム(注1)を添加した再構成型無細胞合成系(注2)を用いて、人工設計したナノポア(注3)を形成するベータシートペプチド(注4)を合成し、ポリペプチド(注5)などの検出に成功しました。本技術は、1分子をラベルフリー(非標識)に検出可能なバイオセンシング技術であるナノポアセンシングへの応用が期待されます。
本研究成果は、American Chemical Societyが発行するACS Nanoのオンライン版に9月15日付で掲載されます。
研究の背景
ナノポアセンシングは、ナノポアを通過した分子を1分子レベルで電気的に検出し、分子のサイズなどによってラベルフリーに識別する技術として注目されています。ナノポア計測を用いてDNAの配列を解読するDNAナノポアシーケンサーが実用化され、次のターゲットとしてナノポアを用いたペプチドやタンパク質のアミノ酸配列の解読が期待されています。アミノ酸の複雑な構造のシーケンシングに適したナノポアを自在設計するため、当グループはナノポアを形成するベータシートペプチドSVG28(注6)の新規設計を報告しました(注7)。しかし、このSVG28は凝集性が高いため複雑かつ時間のかかる化学合成法(注8)を用いる必要があり、SVG28配列の改善を行う上で課題となっていました。
研究成果
本研究では、化学合成法より簡単で時間のかからない合成方法として、再構成型無細胞合成系に着目しました。この合成系は、大腸菌を使うより膜ペプチドを発現しやすく、また大腸菌破砕液を用いた無細胞合成系と比較して収量が多いという特徴を持っています。ただし、この合成系ではSVG28のような疎水性や凝集性が高い配列の液相合成は困難でした。以前に親水性変異導入によってこのペプチドが合成可能となることを報告しましたが(注9)、その際にはこの凝集性の配列は合成できませんでした。今回は再構成型無細胞合成系に脂質成分であるリポソームを添加することで、この凝集性配列を合成することに成功しました。
凝集性のペプチドを合成するにあたり、脂質の二分子膜からなるリポソームを添加することで、膜タンパク質の合成が可能となることが過去に報告されています。本研究では、添加するリポソームの脂質組成を最適化することで、ナノポア計測に十分な量のSVG28を取り込むことに成功しました(図1右上)。また、測定条件を最適化することでナノポア計測の頻度を向上させ、このナノポアを用いてポリペプチドを検出することに成功しました(図1右下)。この合成法がSVG28以外の配列にも応用可能なことを確認し、化学合成困難な凝集性ペプチドナノポアを簡便に合成・測定する新たなプラットフォームを開発しました。
今後の展開
本研究では、化学合成困難な凝集性ベータシートペプチドをリポソーム添加無細胞合成によって合成し、ナノポア測定に成功しました。本成果により、様々な凝集性膜ペプチドの合成と、それらを用いた新規ナノポア構造の構築が可能となり、検出ターゲット分子やナノポア構造のスクリーニングが加速することが期待されます。今後は、本技術を用いてより凝集性の高いナノポア配列や、より複雑な構造のナノポアを合成し、ナノポア計測に応用することを目指しています。
図1:本研究の概要。ナノポア形成ベータシートペプチドを、リポソームを添加した再構成型無細胞合成系を用いて合成した(左)。脂質組成の最適化によりナノポア形成に成功し、この無細胞合成により合成したSVG28ナノポアにポリペプチドを添加すると、通過するポリペプチドに由来する電流値の減少が観察された(右)。
謝辞
本研究は、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST「原子・分子の自在配列・配向技術と分子システム機能」JPMJCR21B2、JSPS 科研費 学術変革領域研究(A)「超越分子システム」JP21H05229、基盤研究(S)JP25H00416、特別研究員奨励費JP24KJ1026の助成を受けたものです。
用語解説
注1)リポソーム
脂質二分子膜が球状に閉じた小胞。細胞膜に似た膜構造を持ち、膜タンパク質や膜ペプチドを膜内に取り込むことができる。
注2)再構成型無細胞合成系
大腸菌における転写・翻訳に関与するタンパク質を個別に抽出し、これを用いてペプチドやタンパク質を試験管内で合成する手法。
注3)ナノポア
膜タンパク質やイオンチャネルによって、脂質二分子膜中に形成されるナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)サイズの微細な孔(ポア)。
注4)ベータシートペプチド
アミノ酸の主鎖の水素結合により形成されたシート状の構造を有するペプチド。
注5)ポリペプチド
多数のアミノ酸が鎖状に繋がったタンパク質。
注6) ベータシートペプチドSVG28
28個のアミノ酸からなり、セリン(S)、バリン(V)、グリシン(G)を特徴的な配列として有するナノポアを形成するベータシートペプチド。
注7)K. Shimizu, B. Mijiddorj, M. Usami, I. Mizoguchi, S. Yoshida, S. Akayama, Y. Hamada, A. Ohyama, K. Usui, I. Kawamura, R. Kawano
De novo design of a nanopore for single-molecule detection that incorporates a β-hairpin peptide.
Nature Nanotechnology 2022, 17, 67-75, DOI: 10.1038/s41565-021-01008-w
ナノポアを形成するベータシートペプチドであるSVG28を人工的に設計した研究。人工設計したナノポアで初めてタンパク質の1分子検出に成功した。
参照プレスリリース:ナノポアを形成する新規ベータシートペプチドを設計しDNAおよびタンパク質1分子を検出することに成功(2021年11月24日リリース)
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2021/20211124_02.html
注8)化学合成法
化学反応により試験管内でアミノ酸を連結し、ペプチドやタンパク質を合成する手法。これまで疎水性の高いペプチドを合成するためにO-アシルイソペプチド法を用いていた。
注9)S. Fujita, I. Kawamura, R. Kawano
Cell-free expression of de novo designed peptides that form β-barrel nanopores.
ACS Nano 2023, 17, 3358–3367, DOI: 10.1021/acsnano.2c07970
再構成型無細胞合成系を用いてベータシートペプチドSVG28を合成した研究。親水性変異を導入することでSVG28の無細胞合成に成功した。無細胞合成したペプチドナノポアで初めて1分子検出応用に成功した。
参照プレスリリース:ナノポアを形成する新規ベータシートペプチドを無細胞合成しオリゴペプチドの検出と識別に成功 ~1分子をラベルフリーに検出可能なバイオセンシング技術への応用に期待~(2023年2月3日リリース)
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2022/20230203_01.html
論文情報
タイトル:Liposome-supplemented cell-free synthesis of a peptide that forms β-barrel nanopores
著者: Shoko Fujita, Mana Sato, and Ryuji Kawano
掲載誌:ACS Nano
掲載日:2026年9月15日(米国東部時間)
DOI:10.1021/acsnano.5c15163
URL:https://doi.org/10.1021/acsnano.5c15163
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学 大学院工学研究院生命工学部門
教授 川野 竜司(かわの りゅうじ)
TEL:042-388-7187
E-mail:rjkawano(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
◆報道に関する問い合わせ◆
東京農工大学 総務課広報室
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科学技術振興機構 広報課
TEL:03-5214-8404
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