次世代通信技術を支える「テラヘルツ波」を鋭いビームにする薄型レンズ技術を開発 -東京農工大とローム、小型発振器に載せられる平面型レンズを開発-
次世代通信技術を支える「テラヘルツ波」を鋭いビームにする薄型レンズ技術を開発
-東京農工大とローム、小型発振器に載せられる平面型レンズを開発-
国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院知能情報システム工学部門の鈴木健仁准教授・JST創発研究者、同大学大学院工学府知能情報システム工学専攻の齊藤祐希氏(2026年3月修士課程修了)、同大学工学府大学院工学府電気電子工学専攻の佐藤建都氏(2022年3月修士課程修了)、ローム株式会社は、次世代の高速通信(6G/7G通信)で使用が期待されるテラヘルツ波を、51マイクロメートル(1マイクロメートル=1000分の1ミリメートル)の薄い人工レンズで狙った方向へ届ける技術を開発しました。
従来、次世代通信技術やX線に代わる安心・安全なイメージング技術の実現に重要な数ミリメートル程度の小型のテラヘルツ発振器から出る電波は広がりやすく、遠くまで効率良く届けることが難しいという課題がありました。今回、本研究グループは、メタサーフェスの技術を用いて独自に開発した薄い平面型レンズで、0.3テラヘルツで動作する共鳴トンネルダイオード(RTD)発振器からの放射指向性制御に成功しました。その結果、指向性(電波を拡散せず、平面波として目的の方向に届ける性質)が最大3.1倍(4.9 dB)向上することを実証しました。
本成果は、小型のテラヘルツ発振器の実用化を加速する基盤技術です。将来的には、6G/7G通信、センサ機器、イメージングなどへの応用が期待されます。
本研究成果は、IEEE Photonics Technology Letters(4月27日付)に掲載されました。
論文タイトル:GRIN Polarization-Independent Collimating Metalens for Directivity Enhancement of a 0.3-THz RTD
URL:https://ieeexplore.ieee.org/document/11495201
本研究成果に関係する内容の一部を、2026年8月26日(木)、27日(金)に東京ビックサイトで開催される大学見本市2026~イノベーションジャパンで出展予定です。
URL:https://innovationjapan.jst.go.jp/j0101/
研究背景
テラヘルツ波は、5G通信で使用されているミリ波よりさらに高い周波数で、6G通信やその先の7G通信での利用が期待されています。通信だけでなく、センサ機器やイメージングへの応用も見込まれています。
一方で、テラヘルツ波を実用化するには課題があります。室温で動作する小型のテラヘルツ発振器は、装置の小型化に有利ですが、一般に出力が大きくありません。そのため、発振器から出た電波が広がってしまうと、遠くに届くころには弱くなってしまいます(図1(a))。
これまでは、テラヘルツ波を遠くに届けるために、シリコンなど自然材料で作られた厚みのあるレンズが使われてきました。しかし、厚いレンズは小型発振器に組み込みにくく、将来の通信機器やセンサ機器に搭載するには課題がありました。
そこで本研究グループは、薄い平面上に微細な金属構造を並べることで電波の進み方を制御するメタサーフェス(注1)に着目しました。メタサーフェスを使えば、自然材料だけでは難しい性質を人工的に設計でき、発振器に載せやすい薄型のレンズを作ることができます(図1(b))。
研究体制
本研究は、東京農工大学大学院工学研究院知能情報システム工学部門の鈴木健仁准教授、同大学院工学府知能情報システム工学専攻の斎藤祐希氏(2026年3月修士課程修了)、同大学院工学府電気電子工学専攻の佐藤建都氏(2022年3月修士課程修了)、ローム株式会社により行われました。また、本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR222I)、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤(B)(JP24K01376)、挑戦的萌芽(萌芽)(JP24K21617)などの支援により行われました。
研究成果
本研究グループは、テラヘルツ波の広がりを抑えるため、厚さ51マイクロメートルの独自のGRIN無偏光コリメーティングメタレンズ(注2)を開発しました(図2)。
GRINとは、レンズの場所によって屈折率が変わる構造のことです。今回のレンズでは、外側から中心に向かって屈折率が高くなるように設計しました。これにより、発振器から放射状に広がるテラヘルツ波を、正面方向に進みやすいビームに変えることができます。
開発したレンズは、シクロオレフィンポリマーという薄い樹脂基板の表と裏の両面に、91個の円形銅パターンを配置して作られています。円形銅パターンの大きさや間隔を変えることで、レンズ内の屈折率の分布を設計しました。
中心部では、0.312テラヘルツにおいて、屈折率6.2、反射率1.1%、透過率94.3%を実現しました。これは、テラヘルツ波の進み方を大きく変えながら、反射による損失を小さく抑えられることを示しています。
実験では、作製したメタレンズを共鳴トンネルダイオード(RTD)(注2)の前方10 mmの位置に配置し、放射されるテラヘルツ波の向きを測定しました。その結果、同レンズを用いることで、テラヘルツ波が正面方向に進み、ビームの広がりが抑えられていることを確認しました。指向性は最大で4.9dB(3.1倍)向上しました(図3(a))。
さらに、レンズを90度回転させても同様の効果が得られました(図3(b))。これは今回開発したレンズがテラヘルツ波の振動する向き、すなわち偏光方向に左右されにくいことを示しています。偏光方向に依存するレンズでは、レンズを発振器に対して正確な角度で合わせる必要がありますが、今回のレンズでは主に上下左右の位置合わせだけで機能します。そのため、実際の装置に組み込む際の調整を簡単にできる利点があります。
今後の展開
今回の成果は、GRIN無偏光コリメーティングメタレンズをRTDに適用し、小型のテラヘルツ発振器から鋭い指向性が得られることを実証したものです。これは、厚みのある従来レンズでは難しかった小型化・集積化に向けた重要な前進です。
今後は、RTDだけでなく各種の連続発振テラヘルツ光源への搭載や、さらに高指向性なアンテナ、光渦生成素子、Airyビーム生成素子など、さまざまな平面型光学素子への展開が期待されます。6G/7G通信、センシング、イメージングなどの実用システムへの応用が見込まれます。
(b)独自のGRIN無偏光コリメーティングメタレンズを搭載したRTDの指向性
用語説明
注1 メタサーフェス
原子より大きいが電磁波の波長に対しては小さなサイズの構造体のメタアトムを原子や分子に見立てて配列することで、自然界には存在しない電磁的性質(誘電率、透磁率)を実現できるスーパー材料(メタは"超"の意味)のこと。
注2 GRIN無偏光コリメーティングメタレンズ
薄い樹脂の両面に異なるパラメータの円形銅パターンを配置することで、レンズの場所によって屈折率が変えたレンズのこと。日本特許第6596748号、米国特許第10686255号、日本特許第7315983号、他
注3 共鳴トンネルダイオード(RTD)
テラヘルツ波を室温で発振できる光源のこと。6G/7G超高速無線通信、各種センサ機器、X 線に代わる安心安全なイメージングなどでの展開が期待されている。
関係する研究内容紹介動画
2025年10月17日にプレスリリースした際の研究内容紹介動画
https://www.youtube.com/watch?v=a_X_pxA3c_k
2023年9月10日にBSフジで放送されたガリレオX
https://www.youtube.com/watch?v=Ee3jgybA00g
◆研究に関する問い合わせ◆
東京農工大学 大学院工学研究院
先端電気電子部門 准教授・JST創発研究者
鈴木 健仁(すずき たけひと)
TEL/FAX:042-388-7108
E-mail:takehito(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
◆報道に関する問い合わせ◆
東京農工大学 総務課広報室
TEL:042-367-5930
E-mail:koho2(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
関連リンク(別ウィンドウで開きます)
- 東京農工大学 鈴木健仁准教授 研究者プロフィール
- 東京農工大学 鈴木健仁准教授 研究室WEBサイト
- 鈴木健仁准教授が所属する 東京農工大学工学部知能情報システム工学科