夫婦呼称語「主人・家内」は字義から想定されるほど男女差別的ではないことを潜在イメージの計測によって検証

夫婦呼称語「主人・家内」は字義から想定されるほど男女差別的ではないことを潜在イメージの計測によって検証

 国立大学法人東京農工大学大学院工学研究院言語文化科学部門の任 利准教授と守 一雄名誉教授は、「男女差別的である」とされる「主人・家内」という夫婦呼称語が「より中立的」な「夫・妻」と同様の潜在イメージであることを調査で確認しました。調査には守名誉教授らが開発したFUMIEテストという潜在イメージ測定技法が用いられ、従来の社会言語学的研究手法ではアプローチできなかった問題に新たな知見を見出しました。

本研究成果は、米国の非営利学術出版社 Public Library of Science(PLoS)が発行するオープンアクセスジャーナル『PLoS ONE』(6月3日付)に掲載されました。
論文タイトル:Are Japanese spousal terms as gender-biased as they seem? An examination using implicit association measures
URL:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0330816

背景
 東京農工大学大学院工学研究院言語文化科学部門の任 利准教授は、共通の歴史的背景を持つ中国、韓国、日本の夫婦呼称語を調査することで、男尊女卑思想が夫婦呼称語にどの程度反映されているかを研究してきました。その中で、日本における夫婦呼称語が中国や韓国よりも男性中心主義的であることを見出しました。いち早く西洋化と近代化を進めてきたにもかかわらず、なぜ日本では「主人・家内」のような男性優位を示す用語が使われ続けてきているのでしょうか。

研究体制
 本研究は、東京農工大学大学院工学研究院言語文化科学部門の任 利准教授と応用認知心理学を専門とする守名誉教授で実施されました。なお本研究は、JSPS科研費JP25K06689の助成を受けて行われました。

研究成果
 従来の社会言語学的な研究手法では解明が難しいことから、言語使用者の潜在意識を探る心理学的な手法の活用を考え、潜在連想テスト注1)を改良したFUMIEテスト注2)を実施し、「主人・家内」と中立的な言い換え語である「夫・妻」との潜在イメージの比較をすることで問題の解明の手がかりが得られると考えました。
 本学学生(工学部・農学部)246名(男子162名、女子84名)の協力を得て、FUMIEテストによって「主人・家内」と「夫・妻」の潜在イメージを比較した結果、字義的には差別的とされる「主人・家内」と中立的とされる「夫・妻」との潜在連想パターンが同様であることがわかりました。一方で男子学生は女子学生に比べて、「主人・家内」「夫・妻」どちらの用語の場合でも、男性を指す用語に対して良い潜在イメージを有する傾向がみられました(図2)。これらの結果から以下の2点が確認できます。

  • 「主人・家内」が元々の字義を喪失して「夫・妻」と同様の潜在イメージになっている。
  • 男子学生はどちらの用語を用いていても、女子学生に比べて男性優位的な潜在イメージを持っている。

 この結果は差別的と思われる用語の言い換えをしても、潜在イメージに対する問題が解決するわけではないことも示しています。

今後の展開
 本研究では20歳前後の学生を対象に夫婦呼称語の潜在イメージを調査しました。同じ日本人であっても、世代の違いによって夫婦呼称語の潜在イメージに違いが見られる可能性があるため、異なる世代での同様の調査を開始しています。また、FUMIEテストの中国語版や韓国語版を作成し、中国語や韓国語の夫婦呼称語についても、潜在イメージの測定研究を行うことを計画しています。

 

図1:FUMIEテスト
夫婦呼称語が含まれない1行目で練習した後、2行目以降は「主人」に○「家内」に×をつける行と逆に「主人」に×「家内」に○をつける行を交互に実施する
図2:「主人・家内」と「夫・妻」の潜在連想指数 IAQ100注3)
値が大きいほど「主人」「夫」の方が良い潜在イメージであることを示す
(図はPLoS ONE(2026), DOI: 10.1371/journal.pone.0330816より改変)

用語解説
注1)潜在連想テスト(Implicit Association Test)
 アメリカの社会心理学者Greenwaldらによって開発された潜在連想構造を探るための心理テスト。パソコンの画面に提示した種々の単語や写真をできるだけ早く「良い」か「悪い」かに分類をさせる作業を課し、その反応時間を計測することで分類がどの程度「自動的(無意識的)」になされるかを調べる。普段から良いものと考えている単語や写真は、「良い」に分類する方が「悪い」に分類するよりも素早くできるという原理に基づく。研究対象となる人種差別や男女差別など、アンケート調査では回答者が「本心」を回答しないという問題点を克服した手法として心理学の研究で広く活用されている。

注2)FUMIE(Filtering Unconscious Matching of Implicit Emotions)テスト
 パソコンを使わずに紙と鉛筆だけで簡易に潜在連想構造が探れるように改良された心理テスト。図1のようにA3用紙に印刷された単語リストを1分間にどれだけ分類できるかを計測する。本研究では、「主人・家内」を「良い・悪い」と分類する課題と、逆に「主人・家内」を「悪い・良い」と分類する課題が使われた。普段から前者のように考えている回答者は、前者の課題の方がより多くできる。そこで、2つの課題の差を調べることで、回答者の潜在連想構造を探ることができる。FUMIEテストは潜在連想テストの原理を活用しつつ、アンケートと同様に集団で一斉に実施できる利点がある。

注3)IAQ100
 FUMIEテストで「主人・家内」を「良い・悪い」と分類する課題が逆の課題よりも「100語あたりどれだけ多くできるか」を指数化したもの。男子学生は「主人」や「夫」を「良い」と分類する方が100語あたり4語程度多くできる一方で、女子学生ではほとんど差がないことがわかった。

 
◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学大学院工学研究院
  言語文化科学部門 准教授
  任 利(にん り)
   TEL/FAX:042-388-7859
   E-mail:ninri(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

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