密林ではみんなひとりぼっちが好き? 台湾における森林性有蹄類3種の群れ行動

密林ではみんなひとりぼっちが好き?
台湾における森林性有蹄類3種の群れ行動

ポイント

  • 台湾の亜熱帯雲霧林に生息する大型のサンバー(180kg)と小型のタイワンカモシカ(30 kg)とキョン(12 kg)の群れ行動を夜間の直接観察により調べました。
  • 3種の群れサイズは乾期・雨季を通じて小さく、67%以上が単独で観察されました。
  • 体サイズが大きく主にイネ科植物を採食するサンバーが、小型で主に木本植物を採食するタイワンカモシカやキョンと同様に単独性であったことは、体サイズが大きくイネ科植物を主な餌とする有蹄類ほど群れサイズが大きくなるというこれまでの学説と異なる発見です。
  • 亜熱帯の密林では捕食者から隠れられる環境が多くあるため、体サイズや食べ物の好みとは関係なく、単独でいることが捕食を逃れるために重要なのかもしれません。

本研究成果は、ドイツの動物行動学雑誌「Acta Ethologica」(7月4日付)オンライン版に掲載されました。
論文名:An evaluation of Jarman’s hypothesis using grouping behaviour of three sympatric forest-dwelling ungulates in a subtropical cloud forest in Taiwan
著者名:Hayato Takada*, Yu‑Jen Liang, Nick Ching‑Min Sun, Hikaru Naruse, Kurtis Jai‑Chyi Pei*
URL:https://doi.org/10.1007/s10211-026-00500-7

研究体制
 本研究は、国立大学法人東京農工大学 農学部附属野生動物管理教育研究センターの髙田隼人特任准教授と修士課程の成瀬光氏、国立屏東科技大学(台湾)のNick Ching-Min Sun助教授、台湾野生動物学会のYu-Jen Liang博士およびKurtis Jai-Chyi Pei会長らの共同研究チームによって実施されました。なお、本研究は、JSPS科研費JP22K14909、 JP23KK0277の助成を受けて行われたものです。

研究背景
 草食獣である有蹄類(注1)の群れ行動は体サイズや食性(注2)から強い影響を受けることが知られています。具体的には体サイズが大きく、イネ科植物を主食とするグレイザー(注3)は群れサイズが大きいのに対し、小型で木本植物を主食とするブラウザー(注4)は群れサイズが小さく、単独で生活する傾向にあります。イネ科植物は有蹄類にとって消化しづらい食物であるものの、環境中にまとまってたくさん存在するため、他個体と共有することが容易であり、群れの形成を可能にすると考えられています。一方、木本植物は量が少なく、散らばって分布する傾向にあるため、他個体と共有することが難しく、小群もしくは単独で生息する傾向にあると考えられています。この法則は発見者の名前にちなんで「ジャーマン仮説」と呼ばれ、世界中の有蹄類に広くあてはまることから、高い一般性を持つことが知られます。ただし、これまでの研究の多くは動物の観察がしやすい草原などの開放的環境で実施されており、木々の生い茂る熱帯や亜熱帯の森林でもこの法則が当てはまるかどうかは調べられていませんでした。
 亜熱帯気候に位置する台湾の雲霧林(注5)には、タイワンカモシカ、キョン、サンバーが同所的に生息しています(図1)。3種の体サイズは顕著に異なり、キョン(メス9㎏、オス12㎏)、タイワンカモシカ(両性ともに21-30㎏)、サンバー(メス90㎏、オス180㎏)の順に大きく、小型のキョンとタイワンカモシカはブラウザーであるのに対し、大型のサンバーはグレイザーであることが知られます(2026年1月5日 本学プレスリリース)。そのため、大型のグレイザーであるサンバーは小型のブラウザーであるキョンとタイワンカモシカに比べて大きな群れを形成すると予想されます。一方で、見通しの良い草原では群れることにより効率よく捕食者から逃れられるという利益がありますが、見通しの悪い亜熱帯林ではその利益はほとんど得られないため、群れサイズは3種間でほとんど変わらないかもしれないと考えられました。そこで、同所的に生息するこれら3種の群れ行動を調べました。

研究成果
 調査は台湾中央部に位置する玉山国立公園内の登山道(約15.9㎞)で実施しました(図2)。調査地の標高は1700mから2800mで、温帯気候の日本であれば亜高山帯や高山帯にあたりますが、亜熱帯気候の調査地は雲霧広葉樹林および雲霧針葉樹林に覆われ、ほとんどが見通しの悪い環境条件です(図2)。2024年8月(雨季)と12月(乾期)の各5日間、合計で54.4㎞を夜間に歩き回り、登山道の両脇に出現する3種を捜索しました。捜索には強力なライトとサーマルスコープを用い、発見した種の群れサイズと群れ構成を記録しました。
 その結果、合計で197回群れと遭遇し(サンバー83回、キョン66回、タイワンカモシカ48回)、各種の平均群れサイズは1.4以下でした(サンバー1.39頭(範囲:1-5頭)、キョン1.18頭(範囲:1-3頭)、タイワンカモシカ1.10頭(範囲:1-2頭))。群れサイズは種間や季節間で違いがなく、3種すべてが年間通じて主に単独性であることが示されました(図3)。これは、体サイズの大きいグレイザーほど群れサイズが大きくなるというこれまでの学説と異なる発見です。開放的な草原環境では、群れることにより、捕食者を早期に発見したり、自らが捕食される確率を低下させたりする利点が得られます。一方、見通しの悪い亜熱帯林では体サイズや食性に関わらず、群れるよりも単独で身を隠す戦略をとることで、捕食されるリスクを低下させている可能性があります。言い換えると、見通しの悪い森林環境では体サイズや食性は群れサイズを増加させる直接的な要因でないことが示唆されました。
 一方、群れ構成には明確な種間差が確認されました。具体的には、キョンとタイワンカモシカでは雌雄ペア(オス-メス)と母子ペア(メス-子ども)、もしくは雌雄とその子から成る群れ構成(オス-メス-子ども)しか観察されなかったのに対し、サンバーではこれらに加えて複数のメスから構成されるメス群や、これに1頭のオスが加わったハレム群が確認されました。サンバーで観察されたメス群の形成は複雑な群れ社会の基盤となると考えられています(2023年3月7日 本学プレスリリース)。キョンとタイワンカモシカで観察されなかったメス群がサンバーで確認されたことは、複数個体で共有することが容易なイネ科植物の採食がメス群の形成を可能にしたことを示唆しています。

今後の展開
 本研究は台湾の亜熱帯地域の森林に生息する有蹄類3種の群れ行動を明らかにした世界で初めての研究です。しかし、群れ行動以外の3種の社会システム(注6)については、依然として不明な点が多く残されています。例えば、なわばり(注7)を形成するのか、またオスとメスがどのような婚姻形態をとるのかといった点は解明されていません。群れ行動と同様に、これらの社会システムに関する研究は草原などの開放的環境に生息する種に大きく偏っており、密林に生息する種では新たな社会システムの発見が期待されます。さらに、サンバーやタイワンカモシカは台湾国内もしくは国際的な保護動物であり、その基礎的な生態の理解は、保全対策を進めるうえで重要な情報源となります。そのため、謎に包まれた亜熱帯林に生息する有蹄類の生態研究が今後も求められます。

用語解説
注1)蹄を持つ動物群のこと。偶蹄目(牛や羊)と奇蹄目(馬やサイ)が含まれる。
注2)動物がどのような食物を食べるかの習性のこと。
注3)イネ科、カヤツリグサ科、イグサ科などを主な食物とする草食動物のこと。
注4)木本の葉や広葉草などを主な食物とする草食動物のこと。
注5)熱帯・亜熱帯地域の山地に多く見られる、霧や雲に覆われた湿度の高い森林のこと。
注6)動物の個体同士の関係性のこと。例えば、単独で生活するか群れで生活するか、群れで生活する場合にはどのような個体同士で群れるのか、オスとメスのつがい関係のあり方など。
注7)他の個体に対して防衛する場所・空間のこと

 

図1:サンバー(左)、タイワンカモシカ(中央)、キョン(右)
図2:調査地とその景観(DOI 10.1007/s10211-026-00500-7を基に作成)A:雲霧針葉樹林、B雲霧広葉樹林

       

図3:3種の群れサイズ(DOI 10.1007/s10211-026-00500-7を基に作成)

 

◆研究に関する問い合わせ◆
 東京農工大学農学部附属野生動物管理教育研究センター
  特任准教授 
  髙田 隼人(たかだ はやと)
   TEL:042-367-5826
   E-mail:takadah(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp



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