DNA-ペプチド複合型ナノポアの創出と一分子センシングの実証に成功
DNA-ペプチド複合型ナノポアの創出と一分子センシングの実証に成功
東京農工大学大学院工学研究院生命工学部門の川野竜司教授、同大学院GIR研究院のPENG ZUGUI特任助教(現 東京科学大学工学院機械系助教)、北海道大学遺伝子病制御研究所の能代大輔助教、京都大学大学院薬学研究科の二木史朗特任教授らからなる研究グループは、DNAとペプチドを原材料とした新たなナノポア注1)の作製に成功し、このナノポアを用いて分子を1つずつ検出することに成功しました。本成果は、DNAやタンパク質を高精度に解析するバイオセンサーや次世代医療診断ツールへの応用に加え、人工細胞やナノスケールで精密に制御された運動を実現する分子機械技術の基盤となることが期待されます。
本研究成果は、Angewandte Chemie International Edition(5月22日付)に掲載されました。
論文タイトル:Large-Diameter DNA-Scaffolded Nanopores Enabled by Loosely Packed Peptides for Single-Molecule Sensing
URL:https://doi.org/10.1002/ange.3311099
背景
近年、ナノポア計測は一分子レベルで分子を解析可能な手法として急速に発展しています。ナノポアとは細胞膜に形成されるナノサイズの孔(あな)であり、分子が通過する際に生じる電流変化を読み取ることで、その性質を高精度に捉えることができます。これまで主に天然タンパク質由来のナノポアが用いられてきましたが、その種類は限られており、用途が限られるという課題がありました。こうした背景から、人工的にナノポアを設計・構築する研究が盛んに進められています。
ナノポア材料としては、化学合成により柔軟な分子設計が可能である点から、ペプチドが有望視されてきました。しかし、膜中でペプチドを会合させて安定な孔構造を形成させることは、アミノ酸配列設計のみでは依然として困難です。そこで本研究では、DNAナノテクノロジーに着目し、DNAからなるナノスケールの足場とペプチドを複合化することで、ペプチドの配置を制御し、安定なナノポアを構築する手法を考案しました。電気生理測定の結果、得られたDNA–ペプチド複合ナノポアは、ペプチドやDNAなどの分子が通過可能な十分なポア径を有することが確認され、一分子センサーとして有望であることが示されました。
研究体制
東京農工大学大学院工学研究院生命工学部門の川野竜司教授、同大学院GIR研究院のPENG ZUGUI特任助教(現 東京科学大学工学院機械系助教)、北海道大学遺伝子病制御研究所の能代大輔助教、京都大学大学院薬学研究科の二木史朗特任教授らによって実施されました。本研究はJSPS若手研究(JP24K17705、JP26K17875)、JST 戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR21B2)の助成を受けたものです。
研究成果
本研究では、十分に大きな内径を有する孔を形成するという要件を満たすため、比較的ゆるやかな集合構造をとるペプチドであるalamethicin(ALM)に着目しました。ALMは非天然アミノ酸注2)である2-アミノイソ酪酸(Aib)を含んでおり、このAibの存在により、ペプチド同士が密に詰まりにくくなり、互いの結合が弱く保たれます。その結果、ALMは硬く密集した構造ではなく、ゆとりのある集合構造を形成しやすいため、より大きな孔を作ることが可能になります。。結果として、ゆるやかなパッキング注3)構造が形成されやすく、大口径の孔を形成しやすいと考えられます。本研究では、この特性を利用してDNAとALMを複合化し、大口径ナノポアの構築を試みました(図1)。電気生理測定の結果、形成されたDNA–ペプチド複合型ナノポアは、天然ナノポアタンパク質に匹敵する孔径と安定性を有することが明らかとなりました。さらに、DNA、長鎖アミノ酸であるポリリジン、および短鎖ペプチドを、電圧を印加することでナノポア内部へ通過させ、その際のイオン電流変化を計測した。その結果、これらの分子がナノポアに侵入すると電流が一時的に減少し、その変化量(阻害電流値)は分子量に応じて増加することが示された。これらの結果から、本研究で提案するナノポアは、分子質量のセンシングに有用であることが示唆されます(図2)。
今後の展開
今回の成果は、DNA–ペプチド複合型ナノポアによる一分子検出を実証した初めての例です。今後は、ペプチドの高い分子設計性を活かし、ターゲット分子と選択的に相互作用するようナノポアを設計することで、多様な分子を識別可能な高性能ナノポアの実現が期待されます。さらに将来的には、DNAやタンパク質の高精度解析に資するバイオセンサーや次世代医療診断ツールへの応用に加え、人工細胞や分子機械の基盤技術として発展することが期待されます。
用語解説
注1)ナノポア
膜タンパク質やイオンチャネルによって、脂質二分子膜中に形成されるナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)サイズの微細な孔(ポア)。
注2)非天然アミノ酸
自然界のタンパク質を構成する標準的な20種類には含まれない、人工的または特殊な構造をもつアミノ酸。
注3)パッキング
複数のペプチド分子が、どのような密度・配置で互いに並び、集合体を形成しているかを指す。
(Z.Peng et al., Angewandte Chemie, 2026より引用)
(Z.Peng et al., Angewandte Chemie, 2026より引用)
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生命工学部門 教授
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TEL/FAX:042-388-7187
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