ナノサイズの表層微小管の可視化技術を開発 -高分解能電界放出型走査電子顕微鏡法による凍結割断した植物細胞の観察-
2026年4月14日
ナノサイズの表層微小管の可視化技術を開発
-高分解能電界放出型走査電子顕微鏡法による凍結割断した植物細胞の観察-
波多野 友博客員准教授、農学研究院環境資源物質科学部門の半 智史教授と堀川 祥生教授、船田 良名誉教授・客員教授らは、原形質膜中に存在しセルロース合成酵素の動く方向や局在を制御することにより、植物の形態や細胞壁構造を決定する表層微小管を広範囲かつ高分解能で可視化する方法を開発しました。本研究で確立した、植物細胞の原形質膜を凍結割断した試料の高分解能の電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)法によりインタクトな状態で観察する方法は、表層微小管の配向や立体配置を明らかにし、植物の形態制御機構の解明を可能にします。本研究成果は、植物科学や木質科学の発展に貢献する重要な基礎的要素技術の開発といえます。
本研究成果は、Plant Methods誌に掲載されました(2026年3月4日にオンライン公表)
論文タイトル:FE-SEM visualization of cortical microtubules in plant cells using freeze-fracture techniques
著者:Tomohiro Hatano, Satoshi Nakaba, Hikaru Nagata, Iwao Doi, Yoshiki Horikawa, Satoshi Kimura & Ryo Funada
URL:https://doi.org/10.1186/s13007-026-01510-z
現状
植物細胞の特徴は、原形質膜の外側に厚い細胞壁を形成することです。細胞壁に堆積するセルロースミクロフィブリルの方向や局在は、細胞壁の物理的な性質を決定するため、植物細胞の形態とサイズや細胞壁階層構造を制御し、植物体が成長する方向や樹木などが生産するバイオマスの性質を決定します。セルロースは、原形質膜内に存在するセルロース合成酵素複合体により生合成され、セルロースミクロフィブリルという引張強度が高い集合体を形成します。セルロース合成酵素複合体は、原形質膜直下に存在する細胞骨格の一種の表層微小管というレールに沿って動くと考えられています(図1)。従って、表層微小管の方向や局在の動的な変化が、セルロースの堆積方向や局在を制御し、植物細胞の形態や細胞壁階層構造を決定するといえます。直径約25nmというナノレベルサイズの表層微小管は、超薄切片を用いた透過電子顕微鏡法、蛍光抗体染色した試料や表層微小管を構成するチューブリンまたは微小管付随タンパク質にGFPなど蛍光タンパク質を融合させた試料の蛍光顕微鏡法または共焦点レーザ走査顕微鏡法により可視化されてきました。本研究では、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて表層微小管を広範囲かつ高分解能で直接可視化しており、植物細胞の形態形成制御機構を解明する上で重要な要素技術を確立したといえます。
研究体制
本研究は、波多野 友博客員准教授(日本電子株式会社研究員)、農学研究院環境資源物質科学部門の半 智史教授と堀川祥生教授、船田 良名誉教授・客員教授(静岡県立農林環境専門職大学学長)、東京大学大学院農学生命科学研究科技術基盤センターの木村 聡技術専門職員らから構成される研究グループにより行われました。本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金(JP18H02251、JP20K21327、JP21H02253、JP23K26966、JP24K01822)により行われました。
研究成果
本研究では、急速凍結固定したイチョウ(Ginkgo biloba)の若枝、交雑ポプラ(Populus sieboldii × P. grandidentata)の葉由来の培養細胞、アズキ(Vigna angularis)の芽生えの根端などの試料を「フリーズナイフ割断法」または「フリーズ引張割断法」を用いて原形質膜の脂質二重層間で凍結割断しました(図2)。割断した試料を、凍結状態のまま低温電界放出型走査電子顕微鏡(Cryo-FE-SEM)での直接観察もしくは凍結置換処理または臨界点乾燥処理後に常温でのFE-SEM観察を行ったところ、束状の表層微小管が細胞質側に貼り付いて残った原形質膜の半膜(P half)を通して観察できました(図3)。FE-SEMを用いた広範囲における観察から、表層微小管が植物細胞の伸長・拡大方向と直行して配列していることが明らかになりました。本方法は、試料の染色や化学固定が不要であり、またSEMを用いることから、植物組織の深部の表層微小管の高分解能イメージング観察に有効です。
今後の展開
本研究グループが開発した、植物細胞を凍結割断した試料を高分解能の走査電子顕微鏡で観察する手法は、表層微小管のナノレベルでの構造解析を可能にしました。今後、本技術は、表層微小管、微小管付随タンパク質、セルロース合成酵素、セルロースミクロフィブリルの立体的な配置を明らかにし、生合成されたセルロースの堆積方向や局在が制御する植物細胞の形態形成過程を可視化することで、植物の環境適応性や樹木が生産する木材の材質特性の発現機構の解明に貢献することが期待されます。
図1 セルロースミクロフィブリル、原形質膜、表層微小管の立体配置モデル図
(セルロース合成酵素複合体や微小管付随タンパク質は図から除いています)
図2 急速凍結した植物試料における原形質膜の凍結割断法
図3 凍結割断を行った植物細胞における表層微小管の低温電界放出型走査電子顕微鏡(Cryo-FE-SEM)像
a; アズキ(Vigna angularis)の芽生えの根端 、b; イチョウ(Ginkgo biloba)の若枝、赤矢印; 表層微小管
◆研究に関する問い合わせ◆
農学研究院環境資源物質科学部門
教授 半 智史
E-mail:nakaba(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
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