• 共同獣医学科 Cooperative Department of Veterinary Medicine
  • 共同獣医学専攻 Cooperative Division of Veterinary Sciences

学科の特色

東京農工大学農学部獣医学科は東京都に位置し、首都圏を中心とする伴侶動物獣医療の実践的な教育を行っています。伴侶動物の高度先端獣医療を実施・教育するための施設として先進獣医療機器を備えた「動物医療センター」を設置し、動物に対する最善の治療を提供する体制を整えています。これは、学部学生や大学院生、研修医の臨床教育に加えて、近隣/近県の伴侶動物臨床獣医師のための卒後教育の場としても、大きな役割を果たしています。東京農工大学農学部獣医学科は、過去5年間184名の卒業生のうち、78名(43%)の小動物診療(動物病院)に関わる獣医師を輩出した実績を持っています。また、同獣医学科は製薬等の企業に就職する学生が多いという特徴もあります。

一方、岩手大学農学部獣医学課程では、臨床部門に伴侶動物内科・外科として4研究室の配置と、生産獣医療学など産業動物臨床のみを教育・研究対象とする3研究室に計6名の教員を配置してきました。これらにより、他の獣医科系国立大学では数少ない、産業動物に対する高度獣医療教育体制を構築していますが、伴侶動物の高度獣医療に関しては地域環境の特徴から十分な症例を集めることは困難な状況にあります。岩手大学農学部獣医学課程は、過去5年間171名の卒業生のうち、25名(15%)の産業動物臨床、49名(29%)の家畜衛生や公衆衛生分野の公務員獣医師を輩出している実績があります。

これらの特色は、附属動物病院での動物の診療件数に明確に表れています。平成21年度の診療頭数は、東京農工大学では伴侶動物6,900頭、産業動物は15頭に対して、岩手大学が伴侶動物2,400頭、産業動物1,020頭となっています。

獣医学教育での講義科目や実効性のある実習を通じて、学生教育の質の向上を図ることは、国内外の情勢を見ても必至となってきています。獣医学生が行う診療行為については、「獣医学生の臨床実習における獣医師法第17条の適用について」(農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課長通知、平成22年6月30日付け22消安第1514号)によって通達がなされ、獣医学生が臨床実習において他者が所有する飼育動物に対して行う診療行為が、獣医学教育の一環として新規獣医師の資質向上に資するものであって、それが指導教員の指導・監督のもとに行われる場合には、少なくとも獣医師法上の違法性はないとされています。
この通達によって、獣医学教育における実習は、従来の見学型実習から参加型実習の実践へと大きく展開したと言えます。このような参加型実習を実施するためには、産業動物高度獣医療および先端的伴侶動物臨床実習に関わる設備、備品類などを整備する必要があります。これらを両大学がそれぞれ役割分担して整備することによって、学生教育の質の向上に寄与できるとともに、両大学がおかれている地域の特性に応えることも可能になります。

昨今、「食の安全確保」は世界的にも重要な問題となっています。動物性食品に由来する食中毒・感染症を制御するためには、獣医学の知識と技術を活用することが必要とされていますが、動物性食品の流通はグローバル化しているので、その輸出入に関しては安全性を担保する国際基準を満たす獣医師が必要であるとOIE(国際獣疫事務局)は指摘しています。また、口蹄疫をはじめとする家畜伝染性疾病は、家畜の健康にとどまらず、社会全体を揺るがす事態を引き起こしている状況です。

このような事態を打破するため、東京農工大学は平成23年4月に「農学部附属国際家畜感染症防疫研究教育センター」を新たに設立し、以下の4部門を設置しました。

1. 国内外の研究プロジェクトと教育プログラムの企画調整を担う「企画調整部門」
2. 口蹄疫等重要家畜伝染病の発生状況調査および常在地での共同研究を担う「重要家畜伝染病研究部門」
3. 口蹄疫等重要家畜伝染病発生国における感染ルートの調査・研究を担う「伝染病疫学解明部門」
4. 国内外の畜産形態の調査および家畜伝染病発生時における被害額予測および対処方法を担う「家畜感染症経済分析学研究部門」
共同獣医学科各研究室との密接な連携の下、国内外における重要伝染病や一般感染症の防疫に関する研究・教育を遂行しています。同センターでは、専任教員2名と国際コーディネーターとして1名の専門官を新たに配置することにしています。2名の専任教員は共同獣医学科の兼担教員として、微生物学総論・同実習、動物感染症学、疫学、動物衛生学・同実習、食品衛生学・同実習、公衆衛生学総論・同実習、国際感染症制御学をそれぞれ分担します。

一方、岩手大学では平成18年度に「農学部附属動物医学食品安全教育研究センター」を設立しています。

東京農工大学の「農学部附属国際家畜感染症防疫研究教育センター」の重要家畜伝染病研究部門などの3部門と、岩手大学の「農学部附属動物医学食品安全教育研究センター」の実地疫学部門、および両大学の公衆衛生と伝染病に関わる教育資源をここに結集します。これにより、フードチェーンシステムに基づく食品の安全確保、大規模な家畜伝染病発生時の防疫活動を実現するための、体系的かつ実践的な獣医公衆衛生学教育・実習を構築することが可能になります。
本共同獣医学科は、今後供給が不足する、産業動物に関わる家畜衛生や公衆衛生分野における獣医師養成の強化と、伴侶動物等に関わる高度獣医療技術の習得の強化を目指して、ともに東日本に位置する岩手大学と東京農工大学がこれまでの実績を活かしながら、同地方における獣医学教育の拠点となって獣医師の養成に努めていきます。また、東日本における卒後教育の場として「動物病院」、「動物医療センター」、「動物医学食品安全教育研究センター」および「国際家畜感染症防疫研究教育センター」の専任教員を活用し、獣医師の技術力と獣医学教育における専門知識の高度化を図っていきます。