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わたしの講義(FOLENS E-News No.6/ 2012年3月):地球環境化学特論

農学部附属広域都市圏フィールドサイエンス教育研究センター 教授 原 宏

 担当教員は1976年以来、酸性雨の種々のスケール、全国、アジア、そして地球規模それぞれの、測定網についてその企画・運営およびデータの解析に解釈に長く関わっている。この一連の講義はそれらを通して自分が経験したり考えたりしたことに基づいている。 いまでこそ「環境科学」は科学にしっかりと根を張った科学の一分科であるように思われるが、担当教員が大気汚染の化学の研究分野に入ったときは、「環境科学」などはまともな科学者がやるものではないと思われていた。確かにきちんとした科学とはかなり異なるアプローチをとっているとの批判は当たっている。しかし、この状況がきっかけで、科学とは何なのか、その歴史は、哲学は、そして社会とのつながりは何だろうかと考るようになった。  今だと“環境問題”を自分の考えではっきりと定義することができる:環境問題とは、人間活動が物質循環サイクルを変化させるので人間生存そのものが脅かされる問題である。したがって環境科学、あるいは科学と環境の研究は3つのポイントを内包していなければならない:(1)環境科学の興味・関心がどこにあろうとも影響と対策ということが心のどこかで必ず意識していること、(2)環境問題の現場に何らかの形で接していること、(3)環境問題は、環境への理解・認識が不十分であっても、その範囲で、常に最善の判断をしなくてはならない問題であること  授業での考察は解析を深めるために科学の哲学にまで及ぶべきである。穀物の生産のように科学も生産者と消費者がある。これはトーマス・クーンの科学革命と通常科学と対応するかもしれない。アカデミズムにおいては伝統的な分科に比べ環境科学は歴史も浅く、規模も小さい。しかし、先に説明した3つのポイントを考えると、環境科学は本質的に生産者の科学である。この意味で環境科学は基礎科学にしっかりと根ざし、一般公衆や政策決定者と科学的に健全で、誰もが理解できるような意思疎通を可能にするものでなくてはならない。  環境科学についてのこういう哲学に立って、この一連の講義は、環境問題の認識から始め、科学の哲学の考察までをカバーする。もちろん地球大気環境化学の重要な話題も重点的に取り上げ、その背後にある基礎化学から説き起こしていく。

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