平成16年度
2581 病原微生物学授業情報

Modified: Feb 02, 2005

質問に対する回答など


10月 5日クラス

質問と回答

植物が病気に罹ったとき、直す手段として農薬の散布以外に方法があるのか?
植物が病気に罹ることを防ぐ、あるいは罹ってしまった病気が進展しないようにする方法の一つが化学農薬(殺菌剤)の施用であり、現在最も良く使われている手段です。しかしながら、よくご存じのように、化学農薬の効果が期待ほど得られないことや、予期せぬ副次的効果が出てしまうこともあります。そのため、化学農薬以外の方法で病気に対処することも行われてきていますし、最近も盛んに研究が進められています。これらの方法については、講義の後半でご紹介します。「病気を防ぐ方法を考えるには、病原を知らなくてはならない」ため、本講義では、病原について解説し、より良い病気の防ぎ方を考えることに結びつけたいと考えています。

畑に病原が発生してしまうと農作物を変更する以外に方法はないのか?病原を退治することは不可能なのか?
「スリランカのコーヒーさび病による産地の移動」の話などから、このようなご質問をいただいたと思います。確かに、作物を変更するのは病気の回避のための一つのオプションですが、現在の農業経営からはなかなか不可能な場合も多くなっています。もちろん、同じ作物を作り続けるために、様々な対処法をとることが近年は可能になっていますので、病害による産地の移動も最近はあまり見られなくなってきています。対処法については、講義の後半でご紹介します。また、「病原を退治する」とのことについて、「病原を皆殺しにする」のか、「病原と上手くつきあっていく」のか、どちらが良いのか考察する材料を講義の中でご紹介していきますので、考えてください。

病原は発病前に防ぐことができるのか?
講義の後半でご紹介する予定ですが、発病前に病原を防ぐことが植物の病気への対処の基本です。「予防的防除」といいます。何故か、また、その弊害などについても講義でご紹介する予定です。

動物と植物で共通する病原はあるか?
10月12日にご紹介するように、植物の病原には菌類が多く、動物の病原には細菌が多いのが特徴です。共通な病原は殆どありません。これは、動物も植物もどちらも外敵から自らを守るメカニズムを持っており、これを突破出来るもののみが病原と成り得るからと考えられています。ただし、免疫の落ちた人(エイズや治療のため)には、植物病原を初め環境中に沢山存在する菌や細菌が感染して病気を起こす場合が有りますが、これは例外と考えています。

耕地生態系(栽培時)に起こる病気で病害と認識されないものはあるのか?
講義でご紹介したように、ヒトにとって不都合な病気を病害と考えますが、しかるに、人によってその判断は分かれる場合もあります。収穫などに影響のない軽微な病気については対処もしませんので、病害とは考えないのが一般的です。

「コッホの原則」がわからない
10月19日にご紹介します。プリント(テキスト版)は、講義数回分の予定です。


10月12日クラス

質問と回答

病原、宿主、環境のバランスがどうなると発病に至るのか?
これら、「主因、素因、副因が、病気の発生に好適なバランスになった時に発病する」という概念です。したがって、どれかが変化してバランスが崩れると病気が発生しにくくなります。

条件的腐生、条件的寄生の「条件」とは何か?
上の質問に対する回答ににてしまいますが、「2つの生物の関係において、ある条件が満たされた場合」、とご理解ください。例えば、条件的寄生とは、有機物(腐った植物体や培地)上で生育する能力を持っており、実際にその上で良く生活しているが、宿主植物が植えられ、環境条件が整うと、植物に寄生するということになります。この場合、植物体上で胞子を産生して、伝染することなどよく見られます。

絶対寄生者は寄主特異性が高いか?
絶対寄生者には寄主特異性が高いものが多いですが、条件的寄生者にも特異性が高いものがいます。

通常は共生をしているが、時として植物に害を与えるような生物もいるか?
植物病原の中には、潜在感染といって、病気を起こさずに植物の表面や内部に潜んでおり、何かの加減(環境の変化や植物の生理的変化)に伴って病気を引き起こすものが数多く知られています。潜在感染をしている間の植物との相互関係については良く解っていない場合が多く、共生関係と呼べるかは疑問です。

グリーンアイランドの周りの組織は死んでいるのか?
主に絶対寄生の病原が感染すると、感染部のごく周囲だけが緑色で、周囲が壊死していくことが見られ、これをグリーンアイランド現象と呼びます。これは、病原が感染部の周囲をうまく生かして、栄養分を得るための現象であると理解されています。その周囲の細胞は、病原の病原性因子によって、あるいは、病原を認識した植物の抵抗性反応の結果、死んでいくことが多く、その結果組織が壊死したように見えます。

生物の系統を解析するときのツールにはrDNA ITS領域以外にどのようなものがあるのか?
ゲノムDNAにコードされている領域としては、rDNA IGS領域、チューブリン遺伝子、その他遺伝子(ペクチン質分解酵素遺伝子)等が使用されています。ミトコンドリアDNAも利用されています。また、染色体を制限酵素で切断したパターンを数値化したもの、その他、脂肪酸組成などを数値化したものも指標として使用されています。一般的には、選択圧がかかりにくい指標(変化すると生物が死んでしまうものや、変異があまりにも多く起こる指標は使いにくい)を使用することが多くなります。生物の進化の速度と、これらの指標の変化の速度の関係から、系統の分離を見たい生物群に応じて、指標を使い分けます。


10月19日クラス

質問と回答

植物寄生性線虫で動物に媒介されるものは無いのか?
植物寄生性線虫の多くは土壌中に生息しており、自ら根へ到達し、植物寄生性線虫に特徴的な(後日紹介します)口針を差し込むこと等によって植物に寄生します。この場合、線虫を媒介する動物の報告例は私は知りません。ただし、線虫に感染した植物を摂食した動物の糞中に線虫が生存していることがわかっていますので、直接的では有りませんが動物が媒介する可能性があります。マツノザイセンチュウ(線虫体内に生息する細菌の毒素が松枯れを引き起こします)は、昆虫であるカミキリムシによって媒介されます(簡単に紹介しました、また、後日詳しく紹介します)ので、動物に媒介される例です。

種子で伝搬される病原は種子のどこにいるのか?また、感染している種子も発芽するのか?
講義で紹介したように、種子には様々な病原を含む微生物が生息します。この生息場所は、植物の種、病原の種、感染程度などによって異なるようです。現在私たちの研究室では、蛍光ラベルした病原菌を用いて、F. oxyporumの種子伝染動態を解析していますが、種皮の表面や、種皮の内側など、様々な場所から菌が観察されます。また、感染している病原によっては、種子の発芽に影響を与える場合があります。F. oxyporumが感染した種子では、発芽率が低下したり、発芽してすぐに立ち枯れてしまう場合もあります。馬鹿苗病菌(Gibberella moniliforme)では、発芽時にイネ組織中に侵入し、後に病気を引き起こすことが知られています。

菌類でもDNA塩基配列に基づく系統解析が行われているか?
盛んに行われています。私どもの研究室でも、Fusarium oxysporumの分子系統解析を行っています。

「かび」、「きのこ」、「酵母」は、分類学上の菌類などと別のものか?
「かび」、「きのこ」、「酵母」はすべて菌類です。練習問題として関連する問題を提示してありますので、回答してみてください。なお、回答のヒントは昨年の講義HPにあります。

Candida sp.などは、1つの種が酵母状と菌糸状の2形態をもつのか?
上の質問と関連しますが、そのとおりです。条件によって形態を変化させます。

菌が持つ2つの学名はどのように使い分けるのか?
菌が持つ2つの学名は、完全世代名(teleomorph)と不完全世代名(anamorph)です。完全世代が見いだされていない菌に、完全世代名を与えることは困難ですので、菌糸や分生子、菌核の性状などに基づいて、不完全世代名があたえられてきました。しかしながら、不完全菌類として過去に認識されてきた群は、講義でも紹介したように、分類できない菌の「未決箱」的なものです。基本的には、菌の学名は完全世代名1つであるべきでしょうが、完全世代が見いだされていない菌に名前を付けられないことになります。そのため、完全世代名を持つ菌においても、菌糸や分生子、菌核の性状などに基づいた、不完全世代名を併用することで、完全世代が見いだされていない菌との関係を説明できるようにしています。菌が2つの学名を持つことを知っていれば、実際には困ることはあまりありません。

「完全世代が無い」と確認された菌はあるのか?
ありません。現時点では「完全世代がまだ発見されていない」としか言いようがありません。私どもの研究室では、子のう菌の完全世代形成のメカニズムの解析を行っています。これは、完全世代が観察されたことが無い子のう菌(Fusarium oxysporumのような、いわゆる不完全菌)が何故完全世代を形成しないのかを知りたいためです。完全世代を形成しない理由と原因をメカニズム面および生物の進化面から解析しています。以下は、私の推測ですが、子のう菌はもともとはすべて完全世代をつくる能力を持っていたが、分生子という無性胞子および菌糸伸長によってクローン的に増殖する方が容易なため、完全世代を形成する能力が不全になってしまっているのではないかと考えています。現に、日本でイネから分離されるいもち病菌(Magnaporthe grisea)は完全世代を形成しませんが、中国南部やベトナムなどのいもち病菌は完全世代形成能をもっています。

完全世代を持たない(有性生殖しない)菌は、突然変異だけで形質の変化が起きるのか?
次週ご紹介しますが、菌類は偽有性生殖 parasexual cycle という特殊な遺伝子組換えの場をもっています。


10月26日クラス

質問と回答

菌糸の隔壁孔を通じて核や細胞小器官などがとなりの細胞に移動する目的は?
残念ながら、お答えできるだけの情報を持ち合わせていません。2002年度にいただいた質問に対する回答もご参考になさってください。

菌は、菌糸内の糖の輸送(転流糖)になぜトレハロースを使うのか?
「野菜・果樹の細菌性病害、武田薬品工業 2002」(農工大図書館にもあります)のp. 38には、「(イネに)侵入した(イネ紋枯病菌の)菌糸は吸器を形成し、植物から栄養源を吸収する。イネ紋枯病菌の場合、吸器で吸収された植物の糖は、そのほとんどがトレハロースに変換されることが明らかになった。トレハロースは菌糸内を(略)菌糸生育部位まで移動し、トレハラーゼによってグルコースに分解され、エネルギー源として利用される」とあります。菌糸内を転流するのにトレハロースが適しているのでしょうか。

菌の核分裂の際に核膜が消えないのはなぜか?
細胞分裂の際に核膜が消えるのは、紡錘糸の形成を妨げないためと理解されているようです。菌の細胞分裂の際にも紡錘糸は形成されますので、なぜ菌では核膜が消えないのか、あるいは完全な核膜では無いのか、興味深く思います。

無性胞子(分生子)は種によって大きさや形が決まっているのか
分生子は、配布プリントにあるように様々な形やサイズを示しますが、種毎によって特徴を示します。いわゆる不完全世代の分類は、分生子の形やサイズ、作り方を元に行われた経緯があります。

分生子の形成方法で、外生出芽型と断片化(葉状型)はどう違うのか?
外生出芽型は、親細胞(菌糸)の先端などが膨潤するなどによって胞子の形になり、その後親細胞から分離されで分生子を生じます。一方、断片化は、親の細胞自体が断片化(ばらばらになること)して胞子が生じます。

組換え酵母を利用して酵素などを生産するのは、酵母がタンパク質を分泌するからか?
生産性の向上を目指して組換え酵母を使用するわけですが、酵母はすべてのタンパク質を分泌するわけではありません。分泌されるタンパク質には、一般的に分泌シグナルと呼ばれるペプチドがN末端についています。

異核共存状態の場合、形質はどのように決定されるのか?
2003年度にいただいた質問に対する回答をごご参照ください。

菌の交配型の違いはどのようにして決まるのか?
菌株の交配型は、ゲノム上の交配型遺伝子領域で決定されます。一般的に、子のう菌はゲノム上に1つの交配型遺伝子座(MAT1)をもち、座乗する交配型遺伝子2種類のうちどちらを持つか(例、MAT1-1またはMAT1-2)を持つかで、その菌株の交配型(MAT1-1あるいはMAT1-2)が決定されます。「化学と生物」41:710-712 (2003)などをご参照ください。

子のう菌は1つの株の中に、異なる交配型をもつ細胞を持つのか
違います。一般に、1つの種の中に、異なる交配型をもつ株が存在します。詳しくは、上で紹介した参考文献などをご覧ください。

子のう菌の交配時に、雄あるいは雌となる決定因子は何か?
子のう菌は交配において、一般に、雄あるいは雌としての特殊な生殖器官(植物や動物と比べて)を形成しません。従って、実際には、雄、雌の定義すら出来ないのが真実です。しかしながら、菌の種によっては、分生子あるいは精子を菌叢にかけてやると交配を開始するものがおり、この場合、胞子を雄、菌叢を雌と理解しています。なお、基本的に子のう菌は雄および雌の機能を持ち合わせています。しかし、菌株によっては、雌としての機能を失っている(female sterile)ものも知られています。

偽有性生殖はどのようなタイミングで起こるのか
異なる菌株(この場合、交配型は無関係)の細胞が融合して生じる異核共存体(n+n)の核が融合し複相核(2n)になります(残念ながらどのようなきっかけで核融合するのかの情報はみつかりません)。「植物病理学辞典(養賢堂)」によるとこの確率は、1/1000000〜1/10000000とされています。融合した核内で、メカニズムは不明ですが相同染色体が対合し、染色体のシャフリングや乗換が起きるとされています。その後、複相核の細胞が体細胞分裂する際に染色体の不等分配が非常に稀な確率で生じ、これが繰り返されることによって最終的に単相核にもどるのが偽有性生殖とされています。もちろん、菌類は、胞子や菌糸などの細胞を多数形成するので、非常に低い確率でおこる染色体の不等配分が意味を持ってくるようです。


11月 2日クラス

質問と回答

アブラナ科野菜根こぶ病菌は、もともと野生アブラナ科に寄生していたということだが、野生のアブラナ科植物では病徴がひどくならないのか?
山口大学の田中秀平教授が、日本の野生アブラナ科植物に寄生する根こぶ病菌について解析されています。本州などのCardamine flexuosa などにしばしば寄生する根こぶ病菌がハクサイなどに有る程度病原性を示すことを観察されておられます。野生のアブラナ科植物でもかなりこぶが形成されるようです。Trans. Mycol. Soc. Jpn 34:381 (1993)、日本植物病理学会報 60: 256 (1994)などで報告されています。詳しくは有江まで。

アブラナ科野菜根こぶ病は石灰を撒くだけでは防げないのか?
炭酸カルシウムなど、石灰類を土壌に混和して、土壌のpHを上昇させるのは、確かに根こぶ病防除対策の一つです。しかしながら、効果に限界がある、あまりpHを上げすぎると植物の生育に悪影響がある、軟腐病が発生しやすくなる、などの理由で石灰だけには頼れないのが現状です。病気の対策には、ターゲットの病原だけでなく、その他の病原や植物のことも考慮しなくてはならない、という良い例です。

Polymyxa graminisはウイルスを伝搬するとのことだが、腐生菌に近いのか?
ウイルスを伝搬することが腐生性とどのように結びつくのか、理解しかねています。

卵菌類の生活環はなぜ2nが基本なのか?
生活環の図でわかるように、生活環の大部分が、一般の動物や植物とどうように2n世代からなっています。生殖においてのみ、nの配偶子(蔵卵器、造精器)をつくり、有性生殖を行います。進化の上で何が起きて、生活環の大部分が2nの菌類と異なるようになったか、とのご質問もありました。進化上、菌類から卵菌類が分岐したものではないと考えられます。

疫病に罹病した作物は家畜の餌にもならないのか?
軽度のものは家畜の飼料にしているかもしれませんが、疫病に罹病した植物では植物体全体の枯死・腐敗、塊茎の腐敗などが起こり、概ね収穫がなくなることが予想されますので、利用不可能であると思います。また、一般的に、罹病した植物体は、病原の伝搬や、マイコトキシン産生を考慮すると、家畜の餌にも利用しないことが適当であると考えます。

疫病菌は分離可能か?
可能です。通常の培地で増殖させられます。研究室にありますので、ご興味が有るようでしたら、見にお越しください。

水中を移動する菌にはどのようなものがあるのか?
移動の距離に差は有るかもしれませんが、PythiumPhytophthoraその他、遊走子をつくるものは概ね水中を移動する能力があると考えられます。培地上で形成された疫病菌の遊走子嚢から、脱出した遊走子が水中を泳ぎ回るのが顕微鏡で容易に観察できます。ご興味が有るようでしたら、見にお越しください。

クロミスタ界の病原の防除法としてはどんなものがあるのか?
11/9に少しご紹介する予定です。


11月 9日クラス

質問と回答

菌の体細胞分裂において、核膜が消えないとのことだが、核はどのように分裂するのか?
核の中で染色体が両極に移動し、核膜がちぎれるように分裂するようです。

接合菌Absidia(ユミケカビ)で植物病原はあるか?
イネふけ米病病原として1922年に報告例があります。また、緑豆モヤシから分離された例も有るようです。しかし、重要な病原としては認識されていません。

コムギ黒さび病菌の担子胞子と銹胞子の構造や機能は全く異なるのか?
担子胞子も銹胞子も、担子菌の一般的な性質は持ちますが、形や大きさは異なります。また、担子胞子は、冬胞子から形成される前菌糸において、核融合→減数分裂の結果生じる単相核細胞による胞子であること、銹胞子は、受精後の異核共存状態(n+n)の細胞からなる胞子であることが違ってきます。では、機能に差があるか、ということですが、講義の中でもご紹介したように、担子胞子はコムギからメギへの伝搬、銹胞子は、メギからコムギへの伝搬を担います。担子胞子がコムギに再度感染することは可能かとのご質問もいただきましたが、本来圃場ではコムギが無い時期に当たりますので、現実的では無いと思います。実験室レベルで、担子胞子がコムギに感染可能かどうかについては知識がありません。

なぜさび病菌は複数の胞子世代をつくるのか?
上の質問とも関連しますが、難しいご質問です。精子(さび柄子)は受精、銹胞子や夏胞子は病原の拡散、冬胞子は耐久と有性生殖の場、担子胞子は有性生殖後の栄養繁殖、などの役割があるとも言うことも可能でしょうか。従って、胞子によって機能分担をするためと考えることもできます。

異種寄生をするさび病菌は、植物を中間宿主から隔離すれば防除可能ですか?
理論的にはその通りです【平塚直秀、麦類の芋銹病とその防除,(1954)】。しかしながら、さび病菌の胞子はとても遠距離を飛びますので、容易に隔離はできないようです。中間宿主からの伝搬ではありませんが、ムギ類黄さび病菌(Puccinia striformis)の夏胞子は、偏西風にのって中国大陸から飛んでコムギに感染すると考えられています。http://rms1.agsearch.agropedia.affrc.go.jp/contents/kaidai/mugi/23-3-2-2_h.htmlなどをご参照ください。

異種寄生性のさび病菌の宿主はどのようにして決まるのか?
さび病菌(例えばナシ赤星病菌)にとっては、1つの宿主が無くなる期間(ナシであれば冬)に、生育している宿主(ビャクシン類)の上で生活できることは有利であると思われています。しかしながら、なぜナシとビャクシンが宿主で、イネやスギでないのか、については未知です。

異種寄生性のさび病菌で中間宿主が無い場合はどうなるのか?
理論的には死滅するとかんがえられます。しかし、日本には宿主植物が元来無いコムギ黒さび病がコムギに発生することから、かなり遠距離を飛来してきていることが推定されています。従って、狭い範囲で中間宿主が無い程度では完全な防除につながらいことになります。また、コムギ黄さび病菌では、コムギのこぼれ種から発芽した植物体上で、夏胞子を繰り返し作り、秋〜春の伝染源になることが知られています。


11月16日クラス

質問と回答

「テンペ tempe」はダイズの発酵食品です。
情報ありがとうございます。煮たダイズを、接合菌のRhizopus oryzaeで発酵させた納豆のようなもののようです。インドネシアの有名な食品のようですね。興味深いのは、ダイズはタンパク質などを多く含みますので、これを分解する菌はタンパク質分解酵素をたくさん分泌していることです。事実、Rhizopus oryzaeは、アスパラギン酸プロテイナーゼ(SAP)を多量に分泌することが報告されています。

ユリのさび病は根に発生するようだが、これは土壌伝染病(土壌病害)なのか?
土壌伝染病とは、病原が土壌中に生息し、主に地下部で植物に感染する病気をいいます。さて、ユリのさび病ですが、一般に地上部に発生するとされています。質問に書かれた「根」が球根(塊茎)のことと考えても、一般的な発病場所ではないようです。お答えになりませんでしたが、何か資料でもお持ちでしたら見せてください。

子のう菌(あるいは、子のう菌門盤菌綱)のきのこで食用のものはあるのか?
アミガサタケ、オオチャワンタケなどが食用の盤菌です。アミガサタケはかなり大きなきのこを作り、おいしいようです。フランスなどでは、珍重されますが、日本では販売はされていないと思います。


11月30日クラス

質問と回答

菌類であるGibberella fujikuroiが植物ホルモンを作るとは不思議。きっと同じ遺伝子を持っているのだろうけど、偶然だろうか?
講義でも紹介したように、元々ジベレリンは菌類であるGibberella fujikuroiから発見されました。確かに菌類が植物ホルモンを生産する能力を持っているのは不思議です。なぜ菌類が植物ホルモンをつくるのか、菌類自体でも何か役割を果たしているのか、興味が持たれますが未詳です。ところで、菌類と植物がジベレリンを同じ代謝系で生産しておりそれに関わる遺伝子産物も共通であるなら、「遺伝子の水平移動の結果ではないか?」、などともっともらしいことを書けたのですが、菌類と植物のジベレリン生産経路は異なります。偶然ですが、このことについて、Green Canpus 21: 12 に、川出先生が説明されておられますので、ご参考になさってください。

テキストのGibberellaのつづりが間違えている。
ご指摘ありがとうございました。早速修正させて頂きます。

Fusarium属菌で紹介された二型の分生子(大型分生子と小型分生子)には機能などに違いがあるのか?
興味深いご質問です。機能に差があるとおもしろいのですが、私の知る限りではどちらも無性増殖に関与しており、また、飛散にも関与します。また、菌株あるいは生育条件によって、両胞子を多量につくったり、どちらかを作らなかったりすることがありますが、その結果生育が劣るなどの現象は見られません。従って機能的な差は余り無いように思います。ただし、講義でご紹介したように、大型分生子の細胞の壁が肥厚して厚膜胞子になることがあり、これは耐久体と理解できます。対して、小型分生子は厚膜化することは無いようで、長期の生存には向いていないかもしれません。

トウモロコシごま葉枯病菌などが実験室内では交配するのに野外では交配しない理由は?
菌の中には、条件が整わないと交配を開始しないものが多くあります。子嚢菌の場合、完全世代の形成は、生活環における冬に多くみられ、その場合、完全世代は耐久のためにつくると考えられます。実験室内では、この条件を再現している(たとえば、トウモロコシごま葉枯病菌では、黄色くなったトウモロコシの葉を貧栄養培地にのせ、交配型の異なる菌を対峙し、20度程度の低温、暗黒において完全世代を作らせます)ため、比較的高頻度で交配して完全世代をつくります。しかし、野外では、菌が出会うチャンスが少ないこと、環境が整うことが稀であること、完全世代を形成していても通常は気づかれないこと、などによってなかなか完全世代が見られないのだと思います。加えて、菌が、完全世代形成より楽な、無性生殖による増殖をできる場合は、完全世代に移行しないことも理由かと思います。

市場で売られている農産物にはどれぐらいの割合で病原が潜在感染しているのか?
講義でご紹介したのはカンキツ類緑かび病菌ですが、カンキツ類黒点病(Diaporthe citri)も潜在感染することが良く知られています。様々な植物に様々な病原が潜在感染している可能性がありますが、ご質問にお答えするだけの知見を持っていません。調べてみます。


12月 7日クラス

質問と回答

植物病原性細菌にはグラム陽性菌が少ないようだが何か理由があるのか?
植物病原性グラム陽性細菌としては、ジャガイモ輪腐病菌(Clavibactor michiganensis ssp. sepedonicus)、トマトかいよう病菌(C. michiganensis ssp. michiganensis)などが知られていますが、少数派です。これが何故であるかは申しわけありませんがわかりません。

菌類と異なり、植物病原性細菌は気孔や傷口から侵入するとのことであったが、植物の反応は菌類に対するものと同様なのか?
すでに講義の中で、「菌類は植物のクチクラを圧力や酵素を用いて貫入する場合があるのに対し、細菌は気孔や傷口から侵入する」とご紹介しました。一方、植物が外来の敵を認識して起こす反応には、植物組織の各細胞の表面(膜表面)での認識機構が介在します。従ってクチクラの傷口などの開口部から組織に侵入する過程は細菌と菌類で異なりますが、一旦侵入した後の植物の細胞レベルでの反応には共通するものも多いと考えられます。

植物には、動物のToll(TLR)などの細胞膜における認識にかかわる受容体はないのか?
あります。植物細胞膜には、およそ5つにグルーピングされている受容体タンパク質が複数報告されています。認識に関わるLRR(Leucine rich repeat)や、シグナル伝達に関わるキナーゼをその分子に持ちます。また、中には、動物のインターロイキン認識に関わるToll等にみられるTIRと相同性の高い部分があることがわかっています。Nature 411: 826 (2001)などをご参考になさってください。

細菌の産生する色素に病原性と関わるものはあるのか?
細菌が産生する色素の病原性における役割(機能)は現在も詳しくはわかっていません。


12月14日クラス

質問と回答

糖鎖を認識するレセプターは植物でどれぐらい見いだされているのか?
先週いただいたご質問とも関連しますので、まずそちらをご覧ください。また、現明治大学教授の渋谷直人先生がご専門です。以下にご紹介する渋谷先生のHPに、総説などのリストがありますので、ご参考になさってください。http://www.nias.affrc.go.jp/project/inegenome/leader/shibuya.htm

Pseudomonas属の病原細菌の中に、自らにも毒性がある毒素(tabtoxin)をわざわざ生産するのは何故か?
講義では、タバコ野火病菌が産生するtabtoxinをご紹介しました。タバコ野火病菌は、tabtoxinに対する自己耐性能(tabtoxinをアセチル化して無毒化する)を持ちます。そこまでして、何故タバコ野火病菌がtabtoxinを産生するのか、というご質問です。とても回答させて頂くのが難しいのですが、私の考えるところを書いてみます。「タバコに定着性をもっていたPseudomonasのあるものが、二次代謝系の変化で、tabtoxinを産生できるようになった。tabtoxinは、自分にも有害であるので、すべてが生き残ることは出来なかったが、偶然、何かをアセチル化するために持っていた酵素によってtabtoxinをアセチル化することができた個体だけが生存できた。この個体は、タバコでの定着能を保持していたので、細胞外に分泌するtabtoxinによってタバコが被害を受け、病気になった。」というストーリーはいかがでしょうか。

tabtoxinは広範囲の生物に毒性を持つにもかかわらず、タバコ野火病菌がタバコにしか病気を起こさないのは何故か?
病気が起こるためには、病原が植物に侵入して感染を成立させることが必要です。tabtoxinを注射などで直接細胞に処理すると、広範囲の生物にダメージを与えますが、タバコ野火病菌は、タバコにしか感染しないため、他の植物には病気を起こせないと考えられます。


12月21日クラス

質問と回答
キャベツ黒腐病の対策として種子消毒をするとのことだが、病原細菌は種子のどこに存在するのか?
講義でご紹介したように、黒腐病菌は道管経由で全身に移行します。種子形成段階でも、道管→珠柄経由で、病原が種皮まで移行する場合があるとされています。また、採種の段階で、種子の表面に付着する場合もあるとされています。概ね病原細菌は、種子の表面や種皮など表面に近い部分で生存しているようです。これに対して、酸や温湯、薬剤による種子殺菌が行われます。詳しくは、農林水産省野菜・茶業試験場編 「種子伝染性病害の管理・研究・制御」(図書館にあります)などをご参考になさってください。

ジャガイモのそうか病が北海道でも問題になったのは菌の変異か?
私は詳しくは存じませんが、夏目先生に伺ったところ、暖地(長崎など)と寒冷地(北海道など)で発生している病原細菌の種の相が異なっていること、病原性に関わる遺伝子の水平移動が示唆されており、これが病原性の変化に関与している可能性があること、などをお教え頂きました。詳しくは、夏目先生にお尋ね頂けると幸いです。

クワ萎縮病の病原がファイトプラズマ(マイコプラズマ様微生物)であることの証明の1段階として、テトラサイクリンによって病徴が軽減されることが紹介されたが、テトラサイクリンはファイトプラズマにしか効果が無い薬剤か?
テトラサイクリンは、かなり広い範囲の原核生物などに効果を示します。しかしながら、クワ萎縮病では、病原が分離できないため、分離可能な微生物が病原ではないことが初めから分かっていました。電子顕微鏡観察でマイコプラズマ様微生物が観察されたこと、接木によって病気と病原が同時に健康な植物に伝染したことから、病原がマイコプラズマ類であることが予想され、その傍証としてテトラサイクリンによる実験が行われたとお考えください。テトラサイクリンが効果を示す微生物のうち、難培養性であるものの代表がマイコプラズマであり、それらしいものが観察されていることを併せて、クワ萎縮病の病原がマイコプラズマ様微生物であるとした様です。このあたりのストーリーは、植物病理学研究室ホームページの「参考図書、植物の病気に関する読み物」でもご紹介している、岸国平先生著、「植物のパラサイトたち」の中でも紹介されています。

ファイトプラズマ病で、叢生を引き起こすことは、ファイトプラズマにとってどのような利益があるのか?
叢生は、植物のホルモンバランスの崩れから起こるとされていますが、それが病原にどのような益をもたらすのかはわかりません。

ファイトプラズマは、汁液感染させられないとのことだが、ヨコバイなどと同じように師部に注射器で注入すれば感染させられるのでは?
申しわけありませんが、自分での経験も情報もありませんので、わかりません。注射器などを使用すると、ヨコバイなどと違って植物の組織に傷害を与えてしまうこと、うまく師部に注入することが可能か、などの問題点が有るかと思います。しかしながら、無保毒のヨコバイなどに吸汁させておいて、その口針のみを残して利用する植物組織への注入法が有るようですので、可能かもしれません。

ネコブセンチュウが感染した根部がなぜこぶ化するのか?
オーキシンの含有量が増加することによってこぶが形成されるようです。また、このオーキシンは、植物が産生します。

何故マリーゴールドがネコブセンチュウの対抗植物になるのか?
平成13年度のクラスで同様のご質問をいただいています。こちらをご覧ください。


 1月11日クラス

質問と回答

タンニンは植物の先天的防御物質のひとつとのことだが、これと柿渋の関係は?
カキは果実に多量のタンニンを持ちます。これが可溶性の状態だと渋く感じ、不溶性の形に変換されると(いわゆるカキのごまです)渋を感じなくなります。渋柿の渋抜きは、タンニンの不溶化を促進しているのです。

遺伝子対遺伝子説、非病原性遺伝子に関する質問を複数いただきました
遺伝子対遺伝子説は、「宿主植物の品種」と「病原菌のレース」の親和性の関係を、「宿主植物の抵抗性遺伝子の有無」と「病原菌の非病原性遺伝子の有無」の関係で示す、理論的かつ基本的な説明です。例えば、「最新植物病理学、朝倉書店(2003)」のp. 115〜、「新編植物病理学概論、養賢堂(1998)」のp. 156〜などをお読み頂き、理解できない場合は有江をお尋ねください。

植物の動的抵抗性は病原などを認識して後天的に発動するとのことだが、これは非病原性因子を認識するという意味か?
遺伝子対遺伝子説に基づくと、非病原性遺伝子の産物がこれに対応する抵抗性遺伝子産物に認識され、後天的な抵抗性が誘導されます。しかしながら、「宿主植物の品種」と「病原菌のレース」の親和性の関係を決定する抵抗性遺伝子と非病原性遺伝子の関係による抵抗性以外にも、病原側の因子と、それを認識して誘導される植物の抵抗性があると考えられます。

植物で動的抵抗性が誘導されるまでの時間はどれくらいか?
植物はとても速やかに外敵を認識するとされています。数時間内に、植物細胞で変化が起きます。その後、様々な信号が伝達され、様々な抵抗性に関わる反応が起きます。1日から、数日の間に起こるものが多いようです。


 1月18日クラス

質問と回答

イネいもち病菌が疎水性表面に孔を開けることができることを工業的に利用できないか?
おもしろいアイデアですが、利用についての研究は行われておりません。分生子から発芽管が伸長し、その先端が疎水性などを認識して付着器を作るのですが、基本的には3細胞からなる分生子の1細胞から発芽管が伸びるため、特定の場所に孔を開けるためには、分生子の付着方向なども考えなくてはいけないなど、制御があまり簡単では無いと思います。

サプレッサーの作用点について詳しく知りたい
講義の中でもご紹介したように、サプレッサーとは、「病原菌が生産する宿主特異的抵抗性抑制因子で、毒素以外のもの」と説明できます。糖や糖タンパクであり、細胞表面にある受容体に結合し、ATPアーゼなどに関連する情報伝達系に作用し、結果として宿主特異的に宿主の抵抗性誘導を抑制あるいは遅延させます。さらに詳しくは、「新編植物病理学概論、養賢堂(1998)」p. 185〜などをご参照ください。

hrp遺伝子について詳しく知りたい
多くの植物病原細菌が、複数のhrp遺伝子が座する(hrp遺伝子群と呼ぶ)領域を持ちます。この領域は、親和性の関係にある病原菌と植物の関係では病原性を、非親和性の関係にある菌と植物の関係においては抵抗性の誘導を司ることが分かっています。例えば、この領域を欠損したナス科植物青枯病菌(Ralstonia solanacearum)は植物組織内での増殖が出来なくなり、病原性を失います。一方、この領域にコードされるタンパク質harpinは、エリシターとして機能します。harpinは、1992年にコーネル大学のCollmer教授らのグループによってリンゴ火傷病菌(Erwinia amylovoraから発見されました。harpinが存在すると植物組織で過敏感反応が誘導され、非親和性の関係が成立します。そこで、harpinを農薬(biopesticide)として利用することが開始されています。この詳しい内容については、アメリカでhrpinを商品化しているEDEN社のホームページをご参照ください。hrp領域には、harpinをコードする遺伝子、avr遺伝子だけでなく、harpinやavr産物の分泌に関わる分泌機構(タイプIII分泌機構)を構成するタンパク質をコードする遺伝子群(hrc)も存在します。


 1月25日 試験を行いました

試験は、以下の要領で行いました。試験問題はこちら(460 kb pdf)
『試験に際しては、講義で配布したプリント類、ノート類、御自分で復習された紙類は持ち込み可とします。教科書、参考書などは持ち込めません。なお、試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、病原微生物に関する理解(記憶ではない)をしていただきたく思います。従って、細かい語句、名前等の情報についてはプリントなどの資料をご参照され、独自性のある答案をつくっていただくことを期待しています。』 図書館所蔵の教科書・参考書は、皆さんが閲覧できる機会を確保するために、長期間借り出ししないようお願い致します。なお、成績の評価は、シラバスにもありますように、「授業出席回数」+「試験評点」で行います。授業回数には試験日は含みません。また、授業出席回数が「7」以下の者は試験の成績にかかわらずDと評価します。詳しくは有江へお尋ね下さい。 

試験評価のポイント 
〔〕内は配点(合計86点)を示します

【1】「The disease tetrahedron」の意味するところについて、具体的な病原微生物を例に生活環と関連づけながら説明しなさい〔46〕
講義の中で何度も使用した図です。病気は、病原と宿主植物が同時に存在するだけでは起きない、それらの関係や、さらに、媒介者や環境が影響して、病気の発生に好適な条件が整ったときに発生する、という概念です。概ね、媒介者(ファイトプラズマ等を伝搬する昆虫類、そのた雨滴など)や環境に関しては良く記述されていました。しかし、不思議なことに、「最も重要な関係である(1解答より)」、病原微生物ー宿主植物の関係を具体例を示しながら解答されている答案が多くありませんでした。講義の中で説明した、遺伝子対遺伝子説に基づく抵抗性品種とレースの関係、潜在感染の病原が宿主植物(果実等)の成熟(ここには環境も影響しますが)に伴って発病することなどを示して頂けることを期待していました。また、この図で説明される病気の発生に好適な条件のどこかを崩すことで病気を防げるのではないか、という点に触れて頂くことも期待しました。なお、「The disease tetrahedron」の簡単な説明と、ある病原微生物の生活環の説明を単に併記したものについては減点しました。

【2】病原微生物の植物侵害戦略にはどのようなものがあるか説明しなさい〔40〕
病原が植物を侵害しようとしたとき、植物が先天的に持っている物理的および化学的障壁にぶつかります。病原微生物は、物理的および化学的戦略でもってこの障壁を打破し、植物に侵入を果たします。さらに、植物は外敵の侵入を察知してSARやHRなどの後天的な(誘導)抵抗性を発動することが可能な場合がありますが、病原はこれらを発動させない、発動した抵抗性を化学的に打破すること等によって植物中で進展し、その後病徴を発現させるにいたります。この経緯を理解し、記述頂けることを期待しました。プリントを参考にできたこと、また講義から時間がたっていないこともあり、概ね期待通りのご解答をいただきました。しかし、土の中で宿主植物が植えられるまで長期間耐久し、待っていること、潜在感染して宿主植物が生理的に感染に適した状態になることなど、講義の病原各論中でご紹介した中にも、病原微生物の侵害戦略が有ると思いますが、そのようなことを記述したかたは殆ど居られませんでした。

解答用紙にご記入頂いたご意見(プリントの図の文字がつぶれていて見にくい等)は是非来年度の改善に反映させて頂きたいと思います。貴重なご意見をありがとうございました。


 2月 1日クラス

質問と回答

薬剤耐性菌は、遺伝子の突然変異によって出現するのか、もともといたものが選抜されるのかどちらか?
興味深いご質問です。両方の可能性が想定されます。講義でご紹介したベノミルに対する耐性菌は遺伝子の1塩基の変異が生じた結果と考えられています。ストロビルリン系薬剤に対する耐性菌も、ミトコンドリアのチトクロームをコードする遺伝子が変異したと考えられていますが、もともと存在したものが薬剤で選抜された結果メジャーになってきた可能性も捨てられないと思います。講義ではご紹介しませんでしたが、エルゴステロール合成阻害剤に対する耐性菌の中には、薬剤の標的である酵素を過剰に発現する(プロモーター領域のエンハンサーのコピー数が増えている)ことで耐性を獲得しているものもあり、これは変異で出現したと考えられています。詳しくは、「農薬学」などをご参照ください。

生物防除資材の作用機構が化学物質(例えば抗菌性物質)である場合の危険性・安全性をどのように評価するのか?
いただいたご質問は、「トマト萎凋病に対する、Pseudomonas gladioliM2196株を定着させたAllium属植物の混植による生物防除効果の作用機構として、P. gladioliが産生するピロールニトリンが主要因であること、化学物質による抗菌(殺菌)が作用の本質であるなら、化学農薬と同等のリスクが想定される」とご紹介したことについて、「P. gladioliAllium属植物根圏にしか定着しないのであるから、化学物質を施用するよりも狭い範囲にしか物質が出されないため、より安全であると考えられるのではないか?」との主旨でした。講義でもご紹介したように、生物防除資材をいかに環境に定着させるかが生物防除を成功させるための秘訣であり、この例の場合は、Allium属植物を利用することで定着させることの成功させたのがミソです。確かにこれを考えると、物質の産生される範囲、量は少なく、化学物質を施用することに比べてより環境負荷が少ないように考えられます。しかし、私が講義の中でお伝えしたかったのは、生物を利用するということだけで、あるいはこの程度の考察だけで、「生物防除は化学農薬よりも安全である」と評価するのは危険では無いか、ということです。例えば、化学農薬を土壌に処理した場合速やかに分解される可能性が高いと考えられますが、P. gladioliが定着したAllium属植物が植えられている限りピロールニトリンが産生続けられる可能性があります。また、P. gladioliが、私たちが知らない好適な宿主を持っている場合、外来生物が環境中に定着してしまう可能性、抗菌物質産生によって在来の生物相を攪乱する可能性さえ想定することは可能なのです。植物病害に対するどんな防除手段もそれぞれ長所、短所を持っているはずですから、それを科学的に理解したうえで、その使用についての危険性、安全性を評価し、使用していくことが必要であり、その上で、「総合防除」が可能になると考えています。


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