平成13年度
2622 植物病原学授業情報

Modified: Feb. 5, 2002

自習課題および質問に対する解答


10月17日クラス

課題(10月24日クラスまでに概要を調べて整理しておくことが望ましい)
「人為分類」と「系統分類」の意義と違いを理解しておくこと

質問と回答
プリントの表が小さくて読みにくい
極力読みやすくなるよう注意します。ただし、コピーを繰り返していること、できるだけ少ない紙面に多くの情報を載せたいために詳細が不要な場合に小さくせざるを得ない場合など、読みにくい場合が出て来た場合はご容赦下さい。原則として、出典を明示しますので、興味のある場合は図書館などで元の論文などを参照してください。

(農工大に)線虫の講義は何故ないのか?
線虫を材料にした「動物学」の研究は主に理学部の動物系の研究室で研究されています。ただし、本クラスでお話ししますように、線虫は植物の病原としてもある程度重要な位置を占めており、中央農業研究センター、北海道農業研究センター等農林水産省関連の研究所には、線虫の専門の研究者がおられます。また、日本線虫学会もあります。ただし、植物の病原としては菌類や細菌類、ウイルスが一般的であることから、植物病原としての線虫の研究者は大学には少ないのが現状です。従って、農工大だけでなく、東大やその他の農学部でも線虫学の講義科目のある大学は無いようです。なお、本クラス中では、病原としての線虫の種類・生態・生活環の解説を行う予定です。


10月24日クラス

課題(10月31日クラスまでに概要を調べて整理しておくことが望ましい)
「かび」と「きのこ」とは何か?

質問と回答
純粋培養できない微生物をどのように病原と証明するか?
授業の中で話したように「コッホの原則」は分離できることが原則になっています。しかし、コッホの原則の考え方を活かして、分離・培養という手法を変更することで対応できる場合があります。例えば、菌類の一種であるうどんこ病菌は絶対寄生性ですので、培養できません。そこで、発病部の表面に形成されている胞子を集めて、培養せずに、健康な植物の葉の上に置いて、病気を再現できることで証明ができます。(春になったら、庭のバラのうどんこ病ででも試してみてください。)また、ウイルスの場合は、電子顕微鏡でウイルスが植物組織に含まれていることを確認後、葉の汁液を調整して健康な植物に接種し(あるいは、ベクターであるアブラムシに吸汁させてこれを健康な植物上に置いて感染させ;さらには、病気の植物体の一部を穂木として健康な植物に接木をして)、病徴の再現と組織内でのウイルスの増殖を観察することにより証明します。本クラスで話した、マイコプラズマはこのうち、接木により病原であることが確認されました。

「伝播」と「伝搬」は違うか?
「伝播(でんぱ)」は、「農耕文化が伝播する」のように文化等が伝わっていくことを表す際に用い、「伝搬(でんぱん)」は、運ぶと言う意味を表す「搬」の文字が使われているように、何か(例えばベクターや水等)の介在のもとに、他へ伝わっていくことを表すように、私は考えています。久能ら(1999)の「新編植物病理学概論」では「伝搬 dispersal」は病原が宿主表面に付着するまでを、「伝染 spread」は伝搬+感染成立までの過程が含まれると書かれていますが、このような言葉の使用法は微妙で、人によって異なることもありますので、あまり堅く考えない方が良いように思います。
10月31日クラス

課題(11月7日クラスまでに概要を調べて整理しておくことが望ましい)
「胞子」とは何か?どんな種類があるか?

質問と回答
子のう菌の交配について
子のう菌の交配については、分かりにくい部分が多かったようです。(すみません)できれば、参考としてあげた 「子のう菌の交配型遺伝子と病原性進化に関する考察」植物感染生理談話会論文集(日本植物病理学会) 37: 105-114.を一度読んでみて、それでも分からないときは研究室(2号館、2-408室)を訪ねてください。ゆっくり説明します。なお、「交配型遺伝子は菌の♂・♀を決定しているのか?」という質問がありましたが、授業でも触れたように子のう菌は基本的に雌雄同株であり、交配型遺伝子は、子のう菌が♂および♀としての両方を機能を発揮させる役割をもっていますので、この質問に対する解答は「いいえ」です。

リボソームDNA ITS領域のITSの意味は?
リボソームRNAをコードする染色体上の領域をリボソームDNA領域と呼びます。この領域には18S、5.8S、28SリボソームRNAをコードする部分が存在します。これら3つのコード部分の間の2カ所は、RNAに転写後スプライスされますので、Internal Transcribed Spacer(ITS領域:転写領域内部のスペーサー)と呼ばれ、18Sと5.8Sの間をITS1、5.8Sと28Sの間をITS2と呼びます。ITS領域は機能の少ない部分ですので、2つ以上の生物のこの領域の塩基の差は、比較的ストレートにそれら生物の近縁関係を示すと考えられており、系統進化研究によく使用されます。詳しくは、「細胞の生物学 第3版」や、英語ですが Plant Mol. Biol. Rept. 15: 326-334 (1997)をご覧下さい。

糸状菌=Fungus?
糸状菌ということばは、文字的には基本的に糸状、すなわち菌糸状の菌ということになり、「菌類(真菌)のうち、酵母(yeast)以外」を意味することになるのでしょう。しかしながら、英語のFungusは、授業の中で説明したように、酵母を含めた「kingdom of Fungi」にようにも使われますし、yeast、fungus、mushroomという独立した単語があるように、Fungusを「酵母・きのこ以外の菌類」と考えることもできます。このように、言葉の定義は難しいのですが、わたしが無意識に「糸状菌=fungus=かび=菌類」のようにごっちゃに使っている場合がありますので、分かりにくかったかもしれません。また、「子のう菌の中で分裂で増えるものもあるか?」については、代表的にはは酵母をあげることができますが、その他にも胞子を分裂型で形成するものもあります。
11月 7日クラス

課題(11月14日クラスまでに概要を調べて整理しておくことが望ましい)
Zygomycotaに属する菌で人間の生活に利用されているものの例を調べること

質問と回答
話のスピードが速すぎる
申し訳ありません。注意しているつもりですが。来週からは各論になり、内容が単純になりますので、ゆっくりします。これまでのところで分からなかったところがあった場合は、ご遠慮なく2-408をお尋ね下さるか、e-mailでご連絡下さい。

セクターができた原因がヘテロカリオシスによるものか突然変異によるものかどう判断するのか?
非常に興味深い質問です。菌の核の中には紫外線下で異なる色で観察できる物があるそうで(あるいは人工的にマーカーを挿入した菌株)、これを使用すれば確認はできそうです。しかし、実際に見られる全てのセクターについてヘテロカリオシスによるものかどうかを確認することは困難です。
11月14日クラス

課題(11月28日クラスまでに概要を調べて整理しておくことが望ましい)
Ascomycotaに属する植物病原菌で酒類の製造に使用されているものの例を調べること

質問と回答
ジャガイモ疫病は飢饉を起こすほどの被害を与えるのか?
授業で示したカラー写真は、トマト葉に発生した疫病の病徴です。また、配付資料中の白黒の写真の中に、ジャガイモ葉の病徴とイモ(塊茎)の断面があります。疫病は、定温多湿の条件で急速に感染・発病し、ジャガイモの葉を枯らすため、被害の大きい場合は一夜にして株が枯死に近い状態になり、殆どイモの収穫が無い、あっても小さかったり、腐敗した状態になります。従って、アイルランドジャガイモ飢饉の際のように、長期間に亘り天候不順・定温が続いた場合は収量が激減し、飢饉になったと考えられています。罹病したイモを食べられるか否かは経験がないのでわかりませんが、腐敗状態を見ると食べたいとは思いません(カラー写真を見に研究室にお越し下さい)。参考

核相n+nとはどういう状態か?
11月7日の講義の中で触れたように、細胞融合の結果2つの異なる核が1細胞中に共存する状態です。菌類の場合、核相単相(=n)の場合が多いため、細胞融合するとn+nになります。その後、核融合すると2nになり、減数分裂(擬有性生殖の場合は異なるメカニズムで)によりnに戻ります。

博物学とは何か?
三省堂大辞林によると、「自然物、つまり動物・植物・鉱物の種類・性質・分布などの記載とその整理分類をする学問、特に、学問分野が分化し動物学・植物学などが生まれる以前の呼称。また、動物学・植物学・鉱物学などの総称。自然誌。自然史。ナチュラル-ヒストリー。 」です。比較的、昔風の(偏見を与えてしまったら失礼!)、生物を収集、分類・同定するような場合によく使います。生物標本やジオラマを展示しているNew York Natural History Musiumのようなところで、博物学に親しむことができますが、私はNatural Historyを「自然史」と日本語化するのには反対です。上野の「科学博物館」は、良い日本語表示だと思っています。
11月28日クラス

12月5日までの課題はありません

質問と回答
貴腐ワインを飲んでみたい?
貴腐ワインは、有名なボルドー、ソーテルヌのシャトウディケムのもので720 mlで最低で2万円、サントリーのものは何故か3万円程します。授業の中で話したように、植物病原菌が本来の病原性を発揮せずに、都合良く感染して果実の水分のみを取り除いてくれた(呼吸基質として若干の糖は使った筈ですが、、、)結果の果実を集めており、ブドウの樹1本から、1杯分しか作れないとも言われていますので、高価なのも仕方ないかな、と言う気がします。ただし、時に、スーパーなどで、シャトーものでないもの(ソーテルヌなどとラベルに書いてある)を1本3000円程度で見かけますので、試してみてください。植物病理研究室をお尋ね下さっても、価格の関係で在庫はありませんので、念のため。

酵母とはどういう分類か?
既に授業の中で触れたように、菌類の系統的な分類体系(が理想的にできたと仮定して)とは異なり、形態で分類した場合に、「かび」、「きのこ」の様に分類されることがあります。「酵母」も同様で、単細胞またはそれに準じた形を取っており、出芽や分裂によって増殖する場合を「酵母」と呼びます。代表的なものが、子のう菌に属するSaccharomyces等の酵母で、一方、担子菌に属する黒穂病菌でも酵母状の形態をとるステージがあります。「子のう菌酵母」、「担子菌酵母」等は、それぞれ、「子のう菌」、「担子菌」に属する菌類の、酵母状をしているものを呼びます。
12月5日クラス

12月8日までの課題はありません

質問と回答
ネコブセンチュウの生存する深土がどうやって表層土と入れ替わるか?
授業での話の仕方が良くなかったのかもしれませんが、自然に入れ替わる訳ではなく、人間の作業により入れ替わります。すなわち、連作障害を防ぐ目的でハウス内での天地返しや客土に伴い天地を入替えた場合等に線虫病の発生が見られることがあります。

半内部寄生性線虫で地上部に寄生するものは無いか?
もともと植物に寄生する線虫の多くが地下部に寄生します。ただ、地上部に寄生するもののほうが見つかりやすく、これがコムギツブセンチュウ(Anguina)が植物病原として初めて見出された線虫である原因ではないでしょうか。この他に、地上部に寄生する線虫としてはDitylenchusHemicycliophoraAphelenchoides等の属に入るものがあるようですが、半内部寄生と言われているものは見あたりません。

回虫は人糞由来以外のたい肥にもいるのか?
この質問は、「牛糞などをたい肥の原料として使用していると今でもたい肥・植物経由でヒトの口に入らないか?」という懸念を示したものであると思います。正確には知りませんが、カイチュウ類は当然他の動物の排泄物にも存在しますが、その寄生性に特異性がある筈です。(詳しくは調べてみてください)。ただ、こちらに、「回虫症の検出件数はここ数年横這い状態で、私たちの検査室でも毎年、虫卵、虫体と合わせ数十例を検出検査しています。この原因としては有機農法や輸入野菜の増加が原因との説もありますが、まだ明確にはされていません。」という記述があるのが少し関連しているようで気になりますね。

マリーゴールドが土壌中の線虫の防除に効くというのは本当ですか?
マリーゴールドは線虫の「対抗植物」の一つとして知られています。今年夏の府中の農場でも使用されているのが見られました。マリーゴールドの根内に誤って侵入したセンチュウは、根内の殺センチュウ物質テルシニェルによって死亡するため、結果的に土壌中のポピュレーションが減少すると言われています。つまり、マリーゴールドをおとりとして使っているのです。詳しくはこちらをご覧下さい。また、実際の使用で経済的効果の例(「マリーゴールドを植えた場合の圃場の占拠による減収」+「農薬を使用しない事による支出減」+「線虫害の減少による収入増」がプラスになった)がこちらで見られます。
12月8日クラス

12月12日までの課題はありません

澤田先生の集中講義はいかがだったでしょうか。植物病原細菌の専門家であり、世界的に最先端の研究者である先生の、熱意あふれる講義は大変勉強になったかと思います。「植物病原学」の中での非常勤講師の先生による集中講義は意義がありましたでしょうか?ご感想などを有江までe-mail等でお寄せ下さい。

12月12日クラス

課題(12月19日クラスまでに概要を調べて整理しておくことが望ましい)
殺菌剤(植物病害防除用農薬)の作用メカニズムを調べ、理解し、病害防除における農薬利用の利点・欠点を考察してください。

質問と回答
イネいもち病菌の付着器内部の膨圧が8 MPa(約80 気圧)というのはどの様にして測定したのか?
付着器内部のグリセロール濃度を測定し、その値から算出したようです。

その他、avr遺伝子、HSTに関する質問を直接戴きましたが、寺岡先生・柘植先生の「感染生化学」でも詳しく紹介されると思います。なお、分かにくいようでしたら、有江をお訪ね下さい。
12月19日クラス

1月9日までの課題はありません

質問と回答
病原の病原性関連因子の遺伝子レベルの解析の過程で、なぜDNAをPCRで増幅するだけでなくクローン化するのか?
例えば植物病原菌の染色体DNAを鋳型としてPCRで増幅されたDNA断片はそのまま消化・プローブ作成・DNA塩基配列の解析等に用いることができます。しかし、1回のPCR反応で得られるその断片の総量はさほど多くなく、大量に使用する可能性がある場合、また将来も使用することが想定される場合等はPCR産物をプラスミドに組込み、大腸菌でいつでも好きなだけ増やせる系を作っておく方が便利な場合が多いのです。
1月9日クラス

1月9日は、植物病原細菌の各論について補充の講義を行いました。
1月16日、試験を行いました

試験は、以下の要領で行いました。『試験に際しては、12月20日に配布したA4用紙(表・裏とも使用可)1枚のみ持ち込み可とします。何を記入いただいても結構です。なお、試験前に講義のプリント・ノートおよび参考書を利用して勉強していただき、植物病原に関する理解(記憶ではない)をしていただきたい;その際、頭に入れるべき事柄と参考資料として手元に置きたい事柄(細かい名称、病名、学名等)を区別して理解していただきたい;従って試験では、自分の作成した資料を参考に独自性のある答案をつくっていただきたい、ということを期待しています。なお、12月20日に欠席などの理由で用紙を受け取れなかった履修生は、2号館2-408 有江をお訪ねの上お受け取り下さい。なお、成績の評価は、「授業への出席」+「試験評点」で行います。詳しくは有江へお尋ね下さい。』 試験の内容や評価等につきましてのご質問は、有江までお訪ねいただくか、メールでどうぞ。頂いた感想などに対するコメントは、以下をご覧下さい。
試験用紙に記入いただいたご意見について

いただいたご意見と私の見解

ホームページをよく見た。BBSがあれば良い。
ホームページの利用は、授業で触れ損なった部分の紹介や、他のホームページを参照いただくのに便利であること、質問に対して個人的ではなく皆さんにお答えできる利点があると考えています。ただし、良く閲覧いただいている方と、あまり見ていない方がいらっしゃるのが課題です(ホームページに関するご意見は、よく見ていただいた方からのみ戴いているようです)。なお、BBSにつきましては、時間的に対応しきれないことと、履修していただいている方に限定しなくてはならないことがネックで、今回は一方的に私から情報を発信させていただきました。ただし、授業の最初にお知らせしたe-mail addressで、ご意見、ご質問を頂くことは歓迎しています。

スピードが速い。黒板を消すのが早い。板書のどこが重要か分からない
板書したものは、概ね、消して良いかうかがいながら、ゆっくり消したつもりなのですが。話の速度とともに今後注意します。また、どこが重要かについては、話を聞いて理解・判断いただくのが理想なのですが、これについても次期には注意したいと思います。

試験の持ち込み用紙に書いたヤマがはずれた。全て持ち込みにしてはどうか。
本年度、試験に用紙を持ち込んでいただいたコンセプトは、上にもあるように、「事前に勉強して全体を理解していただき、記憶するまでもない細かい所(普通は辞書や事典を使うような事柄)のメモをを参考にしながら解答いただく」ことだったのですが、、、

「植物病害の社会的影響」についてもっと話して欲しかった
これは大変重要な事柄で、そのため、授業の1回目と10回目に関連の内容を話させていただきました。また、各病害やメカニズムの紹介の際にも、病害が及ぼすインパクト(例えば疫病による飢饉)や病原が産生する毒素の輸入穀物への残留の危険性について話をしました。ただし、本講義はあくまで「病原学」であり、社会的影響などは「植物病理学」でより詳しくすでに言及していただいていると思います。さらにご興味をお持ちでしたら、是非研究室へお寄り下さい。

プリントの図表の文字が細かくつぶれている
これは以前からご指摘をうけていることで、注意はしたのですが、性質上2度以上コピーをしなくてはならないこと、見やすい様にA4用紙に入るようにアレンジしたことで、文字が細かくなった部分があったかと思います。今後改善させていただきたいと思います。

様々なご意見、ありがとうございました。なお、試験の採点は終了しておりますので、是非研究室にお立ち寄りいただき、自分の答案とその評価を見ていただいて、参考にしていただければと思います。授業を通して少しでも植物病原に興味をお持ちいただけたら、幸いであると思っています。


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