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〜光化学オキシダントに蝕まれるけやきの未来〜
| ■農工大のけやき並木が危ない!! 欅は農工大のシンボルだ。正門を入ると見事な欅並木が私達を迎えてくれる。それはまるで緑色の巨大なトンネルだ。 今、この欅が大気汚染により深刻な被害を受けている。農学部環境資源科学科の伊豆田猛先生に詳しく伺った。 ■農工大は大気汚染地帯! 実は、府中キャンパスや小金井キャンパスがある多摩地区は、日本有数の大気汚染地域です。 大気汚染と聞いて最初に浮かぶ言葉は、自動車排ガスに由来する窒素酸化物ではないでしょうか。府中キャンパスにおける二酸化窒素(NO2)濃度は、東京23区に比べて若干低いですが、全国平均値に比べると高いレベルにあります。 |
![]() オゾン暴露後24時間経過したけやきの葉。1993年。通常のオゾン濃度を1倍区とすると、写真左から、3倍区、2倍区、1倍区、0.4倍区。(松村ら, 大気環境学会誌, 第31巻, 第6号, 247〜261, 1996) |
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| ■植物毒性が高い光化学オキシダント 一般に、植物に対するNO2などの窒素酸化物の毒性は比較的低いため、おそらく府中キャンパスで生育している植物に対する窒素酸化物の影響は小さいと考えられます。 しかしながら、多摩地区においては、光化学オキシダントという大気汚染物質の濃度が極めて高く、深刻な環境問題となっています。光化学オキシダントとは、窒素酸化物と炭化水素などが太陽からの紫外線によって光化学反応を起こし、その結果として生成される酸化力が強い物質の総称です。光化学オキシダントの主成分はオゾンやパーオキソアセチルナイトレート(PAN)ですが、これらの大気汚染ガスは窒素酸化物に比べて植物毒性が高いことが知られています。 オゾンは、欧米において最も植物に悪影響を与えている大気汚染物質であり、すでに農作物の成長や収量を低下させており、森林衰退の原因物質としても注目されています。ちなみに、成層圏に存在するオゾンは地球の宇宙服として有害な紫外線から人間や動植物を守ってくれますが、同じオゾンが対流圏、特に地表付近に存在する場合は大気汚染ガスとして植物などに悪影響を与えます。 ■府中キャンパスのオゾン濃度は環境基準を超えている! 府中キャンパスにおける大気中のオゾン濃度は、春先から夏の終りにかけて高くなります。 特に夏期におけるオゾン濃度は高く、梅雨の晴れ間や蒸し暑い夏の日には 0.12 ppmを超えることがしばしばあります。我が国の光化学オキシダントの環境基準値は0.06 ppmですから、その2〜3倍のオゾン濃度が毎年のように府中キャンパスで観測されています。すなわち、府中キャンパスはオゾンなどの光化学オキシダントによる大気汚染地域であると言わざるを得ない状況なのです。 ■既に出ている可視害 比較的高濃度のオゾンが観測された日の夕方や翌日には、府中キャンパスで生育している植物の葉に白色斑点などの可視障害が発現し、樹木の異常落葉が観察されます。以前、府中キャンパス内にオープントップチャンバー(OTC)という大気汚染ガスの植物暴露用チャンバーを設置し、オゾンによる大気汚染状況やその植物影響を評価しました。 空気浄化区のOTCには活性炭フィルターによってオゾンを除去した浄化空気を、非浄化区のOTCには非浄化の野外空気をそのまま導入し、両OTC内でハツカダイコンを育ててみました。その結果、非浄化区で育成したハツカダイコンの成長は、浄化区のそれに比べて低下し、特に夏においてはオゾン濃度の増加に伴って葉面積成長や乾物成長が直線的に低下しました。この野外実験の結果は、オゾンが府中キャンパスで生育している植物に悪影響を与えていることを示唆しています。 また、PANに感受性が高いペチュニアを府中キャンパスで育てると、夏期において葉の裏面に光沢状の可視障害が発現します。したがって、府中キャンパスで生育している植物は、オゾンのみならず、PANによる悪影響も受けている可能性があります。 ■欅は近い将来大きな被害を受ける! さらに、欅は他の樹木に比べてオゾン感受性が高く、府中キャンパスで実際に観測されている濃度レベルのオゾンによって葉に可視障害が発現し、異常落葉や乾物成長の低下が引き起こされます。秋でもないのに、蒸し暑い夏の日に府中キャンパスの欅が落葉している光景を見かけたことはありませんか。 残念なことに、地球温暖化によって光化学オキシダントの濃度がさらに上昇することが予想されていますので、近い将来においてオゾンやPANによって府中キャンパスや小金井キャンパスの欅が深刻な被害を受ける可能性が十分にあります。 植物は、人類の生命維持装置です。なぜならば、その光合成によって人間やその他の生物に酸素を与えてくれるからです。また、植物は、環境制御・保護装置でもあります。例えば、葉に存在する気孔から二酸化炭素を吸収することによって地球温暖化を防止し、都市のヒートアイランド現象を緩和してくれます。もちろん、農作物は食料そのものです。さらに、植物はオゾンや窒素酸化物などのガス状大気汚染物質を気孔から吸収することによって大気を浄化し、蒸散作用によって私たちの生活環境、特に温度・湿度を制御しています。したがって、私たちが地球環境を保護し、快適な生活を送るためには、植物を大気汚染物質のような環境ストレスから保護する必要があります。 しかしながら、私たちは、その生活や産業活動の結果、様々な汚染物質をすでに大量に環境中に排出しており、それらの汚染物質によって植物が悪影響を受け、最終的には衰退・枯死しています。このことは、まさに、人類の自殺行為に他ならないと言っても過言ではありません。府中キャンパスや小金井キャンパスで生育している物言わぬ植物たちは、『近い将来、東京農工大学の徽章のデザインを変えますか?』と私たちに問いただしているのです。 ■取材を通して 私たちは今の状況を冷静に見据えて何ができるのか、どうしていけばいいのかを考えていかなければならない。 伊豆田先生から農工大生へのメッセージは、こうだ。 「環境問題を感情論だけで熱く語るのは誰でもできる。農工大生に求められているのは、環境問題を科学者の目で、クールに見て真実を見極める事だ。」 |
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| 文責:お手鞠 ページ:KURA |
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