トマト萎凋病菌の新型レース3の発生について
○稲見圭悟・森田泰彰*・寺岡 徹有江 力
Inami, K., Morita, Y., Teraoka, T., Arie, T.

Abstract

土壌伝染性のトマト萎凋病菌にはこれまでに3つのレース(1~3)が報告されている。レースとトマト品種の親和性(S)/非親和性(R)は、レースが保持する非病原力遺伝子(AVR1, AVR2, AVR3)と品種の保持する抵抗性遺伝子(I, I-2, I-3)との関係で決定される(図)。例えばレース1はAVR1を保持するため、レース1抵抗性遺伝子Iを保持する品種B、C、Dには萎凋病を起こせない(図)。近年、品種A、B、Cを犯すレース3の発生が世界的な問題であり、本邦でも1997年に福岡県で報告されて以来、各地で発生が認められている。従来日本で報告されている3つのレースは、分子系統に基づくプライマー・プローブセットおよび保持する非病原力遺伝子に基づくセットで、リアルタイムPCRによる識別が可能になっている(Inami et al. 2010, J. Gen. Plant Pathol. 76:116-121)。  2008年、高知県日高村でレース1およびレース2抵抗性品種に萎凋病が発生した。罹病株から分離したF. oxysporumを判別品種検定に供試したところ、レース3であることが判明した。ところが、分離菌株の菌体DNA、土壌DNA(eDNA)、および罹病組織から抽出したトータルDNAを鋳型として上記のリアルタイムPCRに供試したところ、レース1と識別され、判別品種検定と結果が矛盾した。これは、本萎凋病菌がこれまで日本に無かった新型のレース3であることを示している。  トマト萎凋病菌レース1が非病原力遺伝子AVR1を失うことでレース2が出現、さらにレース2のAVR2が点変異して機能を失うことでレース3が出現したとされている(図;Takken & Rep 2010. Mol. Plant Pathol. 11:309-314)。高知県で発生した新型レース3は、既報と同様に点変異の入ったAVR2(avr2)を保持していた。ところが、この株は従来のレース3とは異なり、AVR1を保持していたが、そのAVR1にはトランスポゾンの挿入が見られ、機能を失っている(avr1)と考えられた。このようなレース3菌株はこれまでに報告されておらず、初めての発見である。  本研究の一部は、農業環境技術研究所「土壌微生物相の解明による土壌生物性の解析技術の開発(eDNAプロジェクト)」および科学研究費基盤研究(B)の一環として行った

*高知県農業技術センター


日本土壌微生物学会2010年度大会(2010年5月、福岡市)ポスター発表。*最優秀ポスター賞受賞*