Abstract
MAT locus which determines the mating type of each strain and regulates the mating behavior of the strain was cloned from an asexual soilborne plant pathogen Fusarium oxysporum . Structural and expression analysis of the MAT genes in comparison with those from a sexual relative Gibberella fujukuroi suggested that MAT genes in F. oxysporum are functional even the fungus never crosses. MAP kinase cascade that may settle downstream of MAT seemed to function as a mating-signal transduction pathway in G. fujikuroi . We are seeking the reason of asexuality of F. oxysporum from the cascade. Three clades were found in tomato wilt pathogen F. oxysporum f. sp. lycopersici by the phylogenetic analysis based on ribosomal DNA IGS region. Each clade consists of strains carrying uniform mating type and vegetative compatibility group (VCG) that reveals the repetitive asexual reproduction brought genetic distinction between the clades.
はじめに
「無性生殖(クローン増殖)は,安定した環境下でのポピュレーション急増に有利であり,一方,有性生殖は,遺伝的に多様性のある個体を形成できるので環境変化が起きた際に後代の生存の可能性を高めるのに有利である」というのが,生物の生殖に関する一般的な理解である7).菌類はその生活環において無性生殖と有性生殖を上手に使い分ける生物である.実際,植物病原菌であるトウモロコシごま葉枯病菌(Cochliobolus heterostrophus)は,寄主植物であるトウモロコシが圃場に栽培されている夏期には,分生子と菌糸による無性生殖を繰り返し,二次感染,三次感染とポピュレーションを増やして病気を拡大していく.ところが,トウモロコシが成熟する秋期になると,寄主植物が無くなることを察知したかのように有性生殖を行う.
子嚢菌は有性生殖の結果,子嚢胞子を子嚢殻等の子実体中に形成するステージ(完全世代 perfect stage)をその生活環の一部に持つことを特徴とする分類群である.一般的に生活環の大半は半数体(核相=単相(n))で菌糸や分生子による無性生殖を繰返している(不完全世代imperfect stage)が,時に,交配(mating)を伴う有性生殖へ移行する.交配は,交配型(mating type)の異なる菌株同士が出会うことで開始される.これまでに解析された子嚢菌類においては,1つの種には2種類の交配型の株が存在し,この交配型は1遺伝子座によって決定されることが明らかにされており,この座を交配型遺伝子領域(mating type locus)と呼ぶ.
子嚢菌は基本的に雌雄同株性(両性 hermaphroiditic)であるため,両株が雄および同時に雌として機能し,交配が進む.すなわち,異なる交配型の菌株間(正確には,一方の菌株の雌として機能する細胞と,もう一方の菌株の雄として機能する細胞間)で細胞融合が起こり(n+n),核融合により複相(2n)化し,続いて減数分裂によって次世代である子嚢胞子(n)を形成する.
本稿の主題である「交配型遺伝子(mating type gene:MAT)」は,交配型遺伝子領域上に存在する遺伝子(群)のことで,菌株の交配型を決定するとともに交配初期の調節因子としても機能する.これまでに,Neurospora crassa,Podospora anserina,Cochliobolus heterostrophus等複数の子嚢菌種から交配型遺伝子領域がクローニング,構造解析された1,3,7,8,12,13,22,23,25,28).これらすべての子嚢菌種(ホモタリックなものを除く)において,交配型遺伝子領域にはDNA塩基配列の相同性が低い2型(イディオモルフ idiomorph)がみられ,そのどちらを持つかで菌株の交配型が決定される.さらに,イディオモルフの一方にはDNA結合部位であるhigh mobility group(HMG-box)モチーフを有するタンパク質(例えばC. heterostrophusではMAT1-2-1)が,他方には,同様にDNA結合部位であるa-boxと呼ばれるモチーフを持つタンパク質(C. heterostrophusではMAT1-1-1)がコードされている26).これらDNA結合部位を有するタンパク質は,以降のシグナル伝達系を経由することにより完全世代の形成に繋がると考えられている.従って,交配型遺伝子領域を破壊した株は,交配能を喪失する.子嚢菌の交配型遺伝子についての詳細は,レビュー等5,7,26)をご参照いただきたい.
さて,興味深いことに,植物病原性子嚢菌の中には,有性生殖を行うことが確認されていない,いわゆる不完全菌類(Fungi imperfecti)にまとめられてきた種がたくさん存在する.重要土壌病原菌Fusarium oxysporumもその仲間であるが,菌学的性状や最近の分子系統解析により,子嚢菌に属することが確実で,現在は交配不全性子嚢菌(mitosporic ascomycete)のメンバーとして取り扱われている.F. oxysporumを交配することができれば,寄主特異性(f. sp.)決定因子や,レース分化に関わる因子を遺伝学的に解析できるはずで,その交配試験は研究者の夢である.我々は,F. oxysporumが交配不全性であることの理由と原因を解析するとともに,交配不全性を解決してF. oxysporumを交配させる可能性を探ることを目標として研究を行っている.
本稿では,交配の初期シグナルとして機能する交配型遺伝子をF. oxysporumが持っているのか,機能しているのか,等について,近縁の交配能を有する菌と比較しながら紹介すると共に,F. oxysporumの病原性進化に関する分子系統学的解析等と絡めて交配不全性の原因と理由を解析している状況を紹介させていただく.
Fusarium oxysporumの交配型遺伝子
F. oxysporumが,子嚢菌のいわゆるGibberella/Fusarium 複合群の仲間であることは,古くからの形態観察や最近の分子生物学的解析により確実である.ヘテロタリックな交配能(交配に,異なる交配型のパートナーを必要とする)を保持する子嚢菌の交配型遺伝子領域には2型があり,それぞれの上に種を越えてアミノ酸配列レベルでの保存性が高い部位(HMG-boxモチーフ,a-boxモチーフ)を持つタンパク質がコードされていることが知られている.もしF. oxypsorumが交配型遺伝子を持っているのであれば,他種子嚢菌のHMG-boxモチーフ上に設計された縮重プライマー2)を用いたPCRによって,F. oxysporum からHMG-boxモチーフをコードするDNA断片を増幅できると考えられた.ところが思いの外苦労し,紆余曲折の末(詳細は後述)ようやくトマト根腐萎凋病菌F. oxypsorum f. sp. radicis-lycopersici SUF959染色体DNAを鋳型として,HMG-box DNA断片の増幅に成功した.これを元に,TAIL-PCR等の手法でSUF959の交配型遺伝子領域(MAT1-2, #AB011378)および周辺領域のDNA塩基配列情報を得,さらにこの情報を基にトマト萎凋病菌F. oxypsorum f. sp. lycopersici 880621a-1よりもう1つの型の交配型遺伝子領域(MAT1-1, #AB011379)の塩基配列を明らかにした4).
得られた2種類の交配型遺伝子領域の塩基配列情報を,近縁ヘテロタリック種Gibberella fujikuroiの交配型遺伝子領域(MAT1-1,MAT1-2)3, 28)と比較すると,両者の交配型遺伝子領域は,それぞれの型でほぼ同一の構造をしていることが判明した.すなわち,MAT1-1上にはMAT1-1-1,MAT1-1-2,MAT1-1-3の3つのORFが,MAT1-2上にはMAT1-2-1の1つのORFが存在すること,これらの遺伝子にコードされているタンパク質のアミノ酸配列が両種でほぼ同一であること,MAT1-1-1はa-boxモチーフを,MAT1-2-1はHMG-boxモチーフを持つことが明らかになった(図1).さらに,F. oxysporumにおいても,これらの遺伝子がG. fujikuroi同様に転写されていることがRT-PCRによって確認された4).
これらの事実は,F. oxysporumが,ヘテロタリック種と同様に,「機能を保った交配型遺伝子領域を持っている」ことを示唆している.つまり,「F. oxysporumが交配不全性である原因は,交配型遺伝子領域外にある」と考えられた.
交配におけるシグナル伝達経路の解析
子嚢菌の交配におけるシグナル伝達メカニズムは,もともと酵母を対象として解析が進められており14,20),近年,糸状子嚢菌についても部分的解析が行われつつある17).現在までに報告されている交配におけるシグナル伝達経路に関する情報をつなげると,概念図(図2)に示したように推測されている.交配型遺伝子はこの伝達系の最上流で機能し,その産物が直接あるいは間接的に自らのフェロモンやフェロモンレセプターの生産を調節,フェロモンが交配パートナーの細胞表面に存在するレセプターに結合,このシグナルが三量体Gタンパク質を介して,MAPキナーゼ経路やcAMP経路によって核内部に伝えられ,交配における様々な現象に関与する遺伝子群が調節されると考えられている.
F. oxysporumが交配不全性である原因が交配型遺伝子領域にはないことがすでに示唆されており,従って,その下流で本来機能する因子に交配不全の原因があることが推定された.そこで,まず,近縁ヘテロタリック種であるサトウキビしょう頭腐敗病菌G. fujikuroi mating population B(Fusarium sacchari =F. subglutinans)を用い,Gタンパク質bサブユニット遺伝子およびMAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase: MAPK)遺伝子の構造や交配における機能の解析を開始した.
既報の糸状菌Gタンパク質bサブユニット遺伝子の情報を参考に,PCRベースの方法でFGSC7611株(MAT1-1)Gタンパク質bサブユニットをコードする遺伝子gfgb1の塩基配列情報を得た.gfgb1は,1412 bpからなり,4つのイントロン(149, 55, 70, 58 bp)を含む.gfgb1がコードするタンパク質を構成する359残基のアミノ酸配列は,既報の糸状菌Gタンパク質bサブユニットタンパク質F. oxysporum FGPB1(#AB072452), Cryphonectria parasitica CPGB1(#U95139)とそれぞれ100%,93.6%の高い相同性を示した.FGSC7611株のgfgb1遺伝子を二回相同組換えによって破壊した株は,,分生子形成数,分生子形状,生育速度等の菌学的性状については親株(FGSC7611)および対照株(遺伝子破壊用ベクターがectopicに染色体に挿入された株)と比べて殆ど差が見られなかった.しかし,V-8寒天培地上で生育させたFGSC7611 gfgb1破壊株に,FGSC7610株(MAT1-2)の分生子をかけても,対照株とは異なり,子嚢殻等の形成が見られず,FGSC7611 gfgb1破壊株菌叢は交配能(この場合特に雌性稔性)を失っていると考えられた.一方,サトウキビ(農林8号)切葉に付傷後,このFGSC7611 gfgb1破壊株の菌叢ディスクを密着させた際に形成される病斑が対照株に比べて著しく縮小することが認められ,病原性も低下していることが観察された.
さらに我々は最近,同様な方法で,FGSC7611株のMAPKをコードする遺伝子gfk1をクローン化し,二回相同組換えによるgfk1破壊株を作出した.この破壊株でもgfgb1破壊株と同様に,交配能,病原性ともに低下していることが観察された.
このように,MAPK経路が,ヘテロタリックなG. fujikuroiでは交配におけるシグナル伝達を担っていると考えられた.これは,酵母等における知見と同様である.
それでは,交配能不全性であるF. oxysporumでは,MAPキナーゼシグナル伝達系はどうなっているのであろうか?これまでに,その一端を明らかにする研究がなされている.すでに触れたように,F. oxysporum f. sp. cucumerinumから,Gタンパク質bサブユニットをコードする遺伝子(fgpb1)がクローニングされており,そのアミノ酸配列は,G. fujikuroi GFGB1と100%同じである.また,F. oxysporum fgpb1を破壊すると,若干の菌学的性状の変化とともに病原性の低下が見られる旨が報告されている15).すなわち,F. oxysporumのGタンパク質bサブユニットは,構造的にヘテロタリックなG. fujikuroiと同じであり,機能性(発現)もあると考えられる.
現状では, F. oxysporumの交配に関与するシグナル伝達系の機能性を含めた全貌が明らかにされてはおらず,この未知部分になお,F. oxysporumが交配不全性である原因を求めているところである.
Fusarium oxysporum種内および分化型内の交配型の分布
解析を終了した交配型遺伝子領域の塩基配列情報を基に,PCR法によってF. oxysporum各菌株の交配型の検定が行えるようになった4).使用するプライマーは,
MAT1-1:
Falpha1 (5ユ-CGGTCAYGAGTATCTTCCTG)+Falpha2 (5ユ-GATGTAGATGGAGGGTTCAA)
MAT1-2:
FHMG11 (5ユ-TACCGYAAGGAGCGTCACC)+FHMG12 (5ユ-TTYWYCTSATCSGCSMKHWSCTTG)
であり,PCR反応は,(94℃, 1 分間;55℃, 30秒間;72, 1分間)×35サイクルで行う.また,この4種類のプライマーを同一チューブに加えるmultiplex-PCR法による検定も可能である.
この方法を用いて,F. oxysporumの複数菌株に対する交配型検定を行った.その結果の一部を表1に示すが,興味深いことに,トマト萎凋病菌(F. oxysporum f. sp. lycopersici)では殆どの菌株がMAT1-1であることが分かる.
さて,先に,縮重プライマーを用いたPCRによってF. oxysporumからHMG-boxモチーフDNA断片を増幅するのに苦労した旨を述べたが,これは,トマト萎凋病菌菌株の殆どがMAT1-1であることに原因があった.すなわち,我々はトマト萎凋病菌に興味を集中する余り,HMG-box(MAT1-2上に存在する)のPCR増幅用鋳型として,当初,トマト萎凋病菌の染色体DNAだけを使用していた.これは,「トマト萎凋病菌にもMAT1-1とMAT1-2の株がそれぞれ1/2の確率で存在するであろう」,という前提に基づくものであった.しかし,表1の結果はこの前提が誤った思い込みであったことを示している.実際に,表1で交配型MAT1-2と検定されているトマト萎凋病菌菌株は最近発生が報告されたrace3菌株であり,交配型遺伝子取得時にはこれらの株は入手できていなかったのである.
ある生物種において,内部個体間で交配可能(または容易に交配する)である一方,他集団との交配頻度が低い集団が存在する場合,これらの集団をそれぞれ交配群(mating population)と呼ぶ.交配群がどの様にして生じるかについての定説はないものの,地理的な隔離や,植物病原菌では異なる種の植物に寄生することで,交配群の分化が起こる可能性が示唆されている.もし,F. oxysporumにも複数の交配群が存在し(そのひとつがトマト萎凋病菌であることを想定),その交配群を構成する菌株の交配型分布が非常に偏っていた場合,これがF. oxysporumが交配不全性である原因になりうるのではないであろうか?この疑問に答えるべく,以下に紹介するように,F. oxyposurm菌株を用いた分子系統解析を交配型遺伝子解析と併せて試みている.
交配型遺伝子解析のFusarium oxysporum病原性進化理解への利用
生物の近縁関係をゲノム上の相同領域のDNA塩基配列の差に基づいて分子系統学的に解析することがしばしば行われる.F. oxysporumにおいても,リボソームDNA IGS(intergenic spacer)領域 等の塩基配列情報に基づいて系統解析が行われている.バナナ萎凋病菌F. oxysporum f. sp. cubense等において,1つの分化型(f. sp.)が複数の系統に属する菌株によって構成されている場合があること,言い換えれば,「進化の過程の異なる時点・場所において,同種の植物を寄主としうる系統が独立に発生し,現在は寄主に対する病原性という形質を指標に,これらの異なる系統をf. sp.としてまとめている」可能性が示唆されている17).
菌類の分子系統解析の指標としては,リボソームDNA等を用いることが一般的であるが,最近,交配型遺伝子も良い指標となり得ることが報告され,Cochliobolus属菌やFusarium属菌において解析例がある16,24,26).ただし,残念ながら,交配型遺伝子は,交配型が異なる菌株間の近縁性解析に用いることができない.
さて,我々は,トマト萎凋病菌を中心に,その他のF. oxysporum 分化型菌株(表1)を対象として,IGS領域,エンドポリガラクツロナーゼ(pg1)遺伝子,交配型遺伝子(a-box,HMG-box)の塩基配列に基づいて系統樹を作成した.この系統樹と,各菌株のVCG(vegetative compatibility group),交配型,採取場所,レースの情報を併せ,トマト萎凋病菌の病原性進化の理解を試みている.なお,各菌株のVCGの検定は定法6,21)に従って行い,レースは表2に従って接種試験で決定した.
図3に,IGS領域に基づいて作製した系統樹の概念図をその他の情報とともに示した.この図から以下のことがわかる.
1,トマト萎凋病菌は独立した3つの系統からなる.(それぞれを図3に示す様に,系統1,2,3とした.)
2,系統1は日本で分離されたrace1およびrace2菌株,系統2は日本および海外で分離されたrace1とrace2の菌株,系統3は日本および海外で分離されたrace3菌株によって構成される.
3,系統1はVCG0031菌株,系統2はVCG0030,VCG0032またはVCG0030/0032 菌株,系統3はVCG0033菌株によって構成される.(系統とVCGが完全にリンクしている)
4,系統1と2は交配型MAT1-1の菌株,系統3は交配型MAT1-2の菌株によって構成される.
各系統が単一交配型の菌株によって構成されていることは,ある時点から「交配を行わずに無性生殖による世代の交代を繰り返したことで独立した系統として確立した」ことを示唆している.一方で,各系統を構成する菌株のVCGが同一であることから,系統内部では菌糸融合を行う可能性がある.
系統2は,世界的に分布するメジャーな系統であると考えられる.系統2内部では,分離場所(地理的条件)とリンクしたクラスター形成も特に見られないことから,(以下は私の想像であるが)食用植物としてのトマトの伝播とともに世界的に広がったと考えられる.この系統はrace1菌株およびrace2を含み,系統3と共通の祖先から分岐した以後にレース分化したものと考えられる.Elias(1991)らの報告9)によると,VCG0030でrace3の菌株が取得されており,(系統とVCGが完全にリンクしているという仮定の下では)すでにこの系統内で新たなレース分化が起きているようであり,この系統に属するrace3菌株がそのうち我が国でも観察されるようになると予想される.
系統1はrace1とrace2の菌株で構成されていた.この系統は,系統2および3と共通の祖先から分岐した後に,レース分化したものと考えられる.我々の解析では,日本で分離された株のみがこの系統に属したが,海外でもVCG0031のrace1,race2菌株が少数例報告されている9,10,11,18)ため,我が国の独立系統ではないと考えられる.
系統3には,日本および海外で分離されたrace3菌株だけが属し,少なくとも我々が供試したrace1およびrace2菌株とは独立系統であると判断された.race3でないVCG0033菌株としては,これまで唯一イタリアから分離されたNo.73(race1)の報告があり,この菌株の交配型もMAT1-2である(Kistler, unpublished data).
通常,新たなレースは,抵抗性品種を打破する形で在来レースより派生すると考えられる.トマト萎凋病菌においても同様で,表2からも推察できるように,race1抵抗性の品種をも侵す新たなrace2がrace1より派生し,さらに,これに対処するために育種されたrace2抵抗性品種をも侵す新たなrace3がrace2から出現する,と考えるのが一般的である.ところが,今回供試した日本産race3菌株はすべて系統3に含まれ,在来レースと異なる系統と考えられること,すなわち「日本産race3は,在来のrace1やrace2から派生したのではなく,海外から持ち込まれた可能性が高い」ことが示された.
考察とまとめ
本稿では,土壌病原菌の一つであるF. oxysporumの交配型遺伝子解析,交配型遺伝子関連のシグナル伝達系の解析,および,交配型遺伝子解析の病原性進化考察への応用について我々の研究内容と関連する国内外の研究動向を紹介させていただいた.交配不全性土壌病菌F. oxysporumの交配型遺伝子については,交配能を持つ近縁種と比べて構造や機能の面で遜色ないと考えられること,また,交配に関与すると考えられているシグナル伝達系の解析の一端について紹介した.さらに,交配型遺伝子解析を病原性の系統進化解析に応用できる可能性についても述べた.この中で,トマト萎凋病菌は少なくとも3つの異なる独立した系統から構成されること,各系統に含まれる菌株の交配型は1つのみであり,すなわち,交配しないで無性生殖を繰り返すことで系統を確立してきたのではないかと推察された.
「はじめに」の中で「交配不全性の原因と理由の解析」と書いたように,土壌病原菌F. oxysporumが交配不全性であるメカニズム(原因)と,交配不全性に至った生物学的意義(理由)の解析を今後もさらに進めていくことで,「F. oxysporumが何故完全世代を形成しないのか?」という疑問に答えること,あるいは,「F. oxysporumの完全世代形成の報告」ができればと考えている.
謝辞
本稿で紹介させていただいた私どもの研究は,理化学研究所微生物制御研究室(当時),Cornell University, School of Agriculture and Lifesciences, Department of Plant Pathologyおよび東京農工大学農学部植物病理学研究室において実施したものであり,当該研究室のスタッフ,学生等の皆様の多大な援助を頂戴した.特に,山口 勇主任研究員(現在,理研植物研究センター),笠原 伸氏(現在,慶応大学医学部),Dr. Olen C. Yoder(現在,Torrey Mesa Research Institute),Dr. B. Gillian Turgeonにはご指導をいただいた.また,菌株等を快く分譲いただいたDr. H.C. Kistler(University of Minnesota),Dr. Kerry OユDonnell(NCAUR, USDA),下坂 誠教授(信州大学繊維学部),細淵勇治氏(サカタのタネ)に感謝申し上げたい.なお,その一部は,文部科学省科学研究費(基盤研究(C)10306021;基盤研究(B) 14405024)の補助の下に行っている.
引 用 文 献
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