Abstract
土壌病害はいわゆる「忌地現象」の一因であり食料の安定生産を阻害する。これまで土壌病害には臭化メチルなどの殺生物性土壌薫蒸剤を用いて対処することが一般的であったが、環境に与える影響が懸念されている。一方、地球人口は増加の一途を辿り、食料安定供給の必要性は増すばかりである。従って食料生産阻害要因である土壌病害を低環境負荷で回避し、これまでに汚染された生産圃場の土壌環境を修復する技術の開発が不可欠である。本研究では、植物が病害に対する抵抗力を発揮させて土壌病害を回避する方法の確立を目的として、植物が本来有する抵抗力を引き出す活性を有する微生物および天然由来の物質を探索するとともに、選抜した微生物や物質が施用された際に植物組織内で起こる生理的変化についても解析し、その機作についての科学的知見を集積し、環境に与える負荷の評価に資することを目的とした。さらに長期的視点から汚染土壌環境の修復に与える効果についても評価した。
1 平成13年度成果の概略
子のう菌Fusarium oxysporum ff. sp. lycopersiciおよびconglutinansによるトマト萎凋病、キャベツ萎黄病を対象土壌病害として、複数の植物根圏微生物および微生物源天然物のうちで、植物に病害に対する抵抗力を発揮させることで病害を回避する活性を持つものをバイオアッセイスクリーニングした。その結果、@非病原性F. oxysporum REMI10株の前処理、A放線菌Streptomyces hygroscopicus var. limoneusが産生する擬似オリゴ糖であるバリダマイシンA(以下VMA)の茎葉部散布が有効であることを見出すとともに、その作用機作が、「植物に病害に対する抵抗性を誘導していること(殺菌性でないこと)」を示唆した。
2 REMI10株によるキャベツ萎黄病生物防除効果の可視化
緑色蛍光タンパク質(EGFP)を導入した非病原性F. oxysporum REMI10株(以下、EGFP-REMI10)のキャベツ根部における挙動について、より短時間軸での経時的観察を行い、病原性菌(以下、EGFP-Cong:1-1)の挙動と比較した。植物の育成と菌の接種を素寒天上で行い、根部の横断切片をマイクロスライサーを用いて作成し、共焦点レーザー顕微鏡下で観察を行った。EGFP-Cong:1-1では、接種後1日以内にキャベツ根部の表皮から侵入し,皮層の細胞間隙に沿って菌糸を伸長,早いものでは接種3日目に皮層部の最内層である内皮を通過し、さらに内側の維管束木部道管へ到達していた.これに対して,EGFP-REMI10では根表皮への侵入が遅れるとともに,侵入した菌糸でも接種後2週間経過時点になっても内皮より内側への進展は認められなかった.この結果は、植物の皮層部内皮が微生物の侵入の可否を決定する場となっていることを示唆した。さらに、REMI10株を予めキャベツ根部に処理し,処理後3〜7日目にEGFP-Cong:1-1を接種した場合(生物防除効果が得られる条件)、接種2週間後でも,EGFP-Cong:1-1はほとんど皮層に侵入しておらず、稀に侵入した場合も内皮より内側に進展しないことが観察された(一部昨年度の結果を修正)。このことから、キャベツが病原菌を認識して病原に対する抵抗性を獲得していること、また、内皮がその発現に関与している可能性が示唆された。
3 VMA茎葉散布によるトマト萎凋病発病抑制効果のメカニズム解析
VMAは、F. oxysporumに対して直接的な殺菌性、栄養分枯渇などによる静菌性ともに示さない。また、VMAを茎葉部に散布することで根部に感染する病害の発生を抑制する(施用部位と作用部位が異なる)。以上のことから、VMAは、これを茎葉散布したトマトに病害に対する抵抗性を誘導しているものと考えられた。このメカニズムとし全身獲得抵抗性(SAR)の関与を想定し、平成13年度には、SARシグナル伝達系の上部シグナルであるサリチル酸がVMAのトマト茎葉部への散布の結果蓄積されることを確認した。本年度は、同シグナル伝達系の下流のマーカーであるPRタンパク質をコードする遺伝子の発現誘導を調査、その結果VMAのトマト茎葉散布により、PR4遺伝子などの発現が誘導されていることが認められ、VMA茎葉散布によるトマト萎凋病防除にSARシグナル伝達系の活性化が関与していることが示唆された。
また、VMA茎葉散布の適用範囲の拡大を目的に、各種植物の土壌病害に対する効果を調査した。その結果、Verticillium dahliaeによるハクサイ黄化病に対する有効性が示され、茨城県農業試験場の協力を得て実証試験を試みている。
4 まとめ
REMI10、VMAとも非殺菌性作用機作、すなわち「植物の病害に対する抵抗性の誘導」によって土壌病害の発病を抑制していると考えられる。これらの土壌病害防除法は環境に対して負荷が少ないことが期待される。また、この様な非殺菌性の防除法では、耐性病原菌出現の危険性が限りなく低いことが期待され、この様な防除法の使用により、長期的に土壌の殺菌剤による汚染低下が可能になると考えられる。
5 関連成果報告の記録(平成14年度)
1 有江 力 (2002). 非殺菌性物質による植物病害防除メカニズム−プラントアクチベーターを含めて−.植物の生長調節 37(1):51-57.
2 白水健太郎・石川 亮・仲下英雄・寺岡 徹・有江 力 (2002). バリダマイシンAおよびバリドキシルアミンA茎葉散布によるトマトSARシグナル伝達系の活性化.[口頭]平成14年度日本植物病理学会大会
3 宮田雄一郎・吉田隆延・川部眞登・寺岡 徹・有江 力 (2002). キャベツ萎黄病菌Fusarium oxysporum f. sp. conglutinans病原性欠損変異株REMI10のキャベツ根における挙動と生物防除効果. 日本植物病理学会平成14年度関東部会
4 宮田雄一郎・吉田隆延・川部眞登・寺岡 徹・有江 力 (2002). Fusarium oxysporum f. sp. conglutinans病原性欠損変異株REMI10のキャベツ萎黄病に対する生物防除活性とGFPを用いた挙動観察. 第2回糸状菌分子生物学コンファレンス
5 宮田雄一郎・吉田隆延・川部眞登・寺岡 徹・有江 力 (2003). 萎黄病生物防除活性を持つ非病原性フザリウムREMI10のキャベツ組織内での挙動. 日本農薬学会第28回大会
環境科学総合研究所第22回助成研究報告会(2003.5.18、熱海市) 口頭発表