Abstract
イネいもち病菌の付着器は,内部のグリセロール濃度を上昇させることで生じる膨圧により侵入糸をイネ組織内へ貫入する侵入に必須な器官である.これまでに,本菌の付着器形成条件下で発現している遺伝子の単離・解析を目的に構築されたディファレンシャルcDNAライブラリーより,lysophospholipaseと相同性を示す遺伝子(LPL1)を取得し,解析を進めている.lysophospholipaseは哺乳類の各組織や器官から多くの種類が見出されているものの,植物病原糸状菌における生理機能や病原性との関連についての詳細は明らかとされていない.イネいもち病菌のLPL1遺伝子はLPL1a(244aa)とLPL1b(252aa)をコードすると予想され,そのアミノ酸配列からはlysophospholipaseで高度に保存されたGxSxGモチーフならびに触媒残基(S, D, H)の存在が確認された.そこで,LPL1のlysophospholipase活性を調べる目的で,LPL1a cDNAを大腸菌発現ベクターに導入・発現後,精製したLPL1aタンパク質とリゾリン脂質を反応させて,遊離脂肪酸量をガスクロマトグラフィーにより測定した結果,LPL1aはlysophospholipase活性を有することが確認された.一方,本菌のLPL1遺伝子破壊株は,野生株と比較してイネへの侵入能に若干の低下を示し,付着器内の膨圧も低下していた.さらに,付着器内で生成されるグリセロール源の一つとされる脂滴(Lipid droplet)の挙動を観察したところ,付着器形成期の脂滴の消失時期に遅延が認められた.これらの結果は,LPL1が付着器内における脂滴分解に由来するグリセロール生成に少なからず関与している可能性を示唆していた.
*東京理科大学 Tokyo University of Science
第3回糸状菌分子生物学コンファレンス(2003年11月6−7日、東京都文京区)ポスター発表