第1章 原子の構造と性質
第2章 原子軌道と電子配置
第3章 分子軌道と共有結合
第4章 異核二原子分子と電気双極子モーメント
第5章 混成軌道と分子の形
第6章 配位結合と金属錯体
第7章 誘起化合物の単結合と異性体
第8章 πっ結合と共役二重結合
第9章 共有結合と巨大分子
第10章 イオン結合とイオン結晶
第11章 金属結合と金属結晶
第12章 水素結合と生体分子
第13章 疎水結合と界面活性剤
第14章 ファンデルワールス結合と分子結晶

 「化学結合論」は化学で最も重要な基礎知識である.物理化学はもちろんのこと,無機化学でも有機化学でも,化学結合を正しく理解していなければ何も始まらない.そのためには量子論を使って化学結合を正しく理解する必要があるが,スペースの関係で式の展開を避けつつ,それでも大事な概念を正しく理解できるように努力した.第1章から第4章では,最初に原子の中の結合について解説し,最も簡単な分子である二原子分子を使って波動関数とその物理的意味,そして,波動関数の重なりによって生まれる共有結合について説明した.第5章から第8章では,化学でよく目にする基本的な分子について,その共有結合とその結合によって生まれる分子全体の形について説明した.第9章から第14章では,結晶を中心に説明した.どうして結晶を題材に選んだかと言うと,結晶はいろいろな化学結合の代表例だからである.ダイヤモンドのような共有結合であったり,(しお)のようなイオン結合であったり,(きん)のような金属結合であったり,氷のような水素結合であったり,ドライアイスのようなファンデルワールス結合であったり,化学結合の本質とそれぞれの違いを学ぶためには最も適した題材だからである.

この教科書ではすべての化学結合を包括的にかつ系統的にとらえるという新たな試みをしている.これまでの教科書ではなかったとらえ方である.そして,最後まで読んでみると,化学結合の全体像の美しさに感激してもらえるのではないかと期待している.学問とは美しいものであり,その美しさの中に真実が見えてくると,私は信じている.

この教科書のもう一つの特徴として,化学結合の本質と同時に,無機化合物と有機化合物の分子構造がどのようなものであるかについても包括的にかつ系統的に扱っている.したがって,化学結合論だけでなく構造化学の教科書として,また,無機化学や有機化学の参考書としても使えるようになっている.少しでも多くの読者がこの「化学結合論」の新しい姿を楽しんでくれることを期待している.

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