中田研究室では、マトリックス単離赤外分光法を用いて分子クラスターの構造や赤外吸収スペクトルについても調べています。この研究では超音速分子線を用いた低温希ガスマトリックス単離法による実験と量子化学計算との比較により行っています。
ここではヨウ化メチルの二量体の研究を紹介します。
超音速分子線中のヨウ化メチルの二量体をマトリックス単離して赤外吸収スペクトルを測定します。そして、量子化学計算で予想されるスペクトルと比較することによって、その構造を調べます。
図1 マトリックス単離されたヨウ化メチルの赤外吸収スペクトル
図1で表したスペクトルはヨウ化メチルの赤外吸収スペクトルです。何本かのピークが観測されています。これらのピークはヨウ化メチルの単量体のピークです。このピークの中でν1、ν2、ν5、ν6としたピークの周りを詳しく見ると、クラスターのピークを観測できます。
図2 マトリックス単離されたヨウ化メチルの赤外吸収スペクトル
図2は試料をヨウ化セシウム板に吹き付けるときの押し圧を変化させたときのスペクトルの違いを示しています。下から1.0,
1.5, 2.0気圧のときのスペクトルです。1.0気圧でのスペクトルでは*印のピークがはっきり見えています。押し圧を高くすると↓印で示したピークもはっきり見えてきています。この中で*印で示したのがヨウ化メチルの単量体のピークで、赤い↓印で示したのがクラスターのピークです。図2で示した圧力依存の他、濃度依存などから、ここで見えているクラスターのピークは二量体のピークであることがわかりました。この実験結果と量子化学計算の結果を比べることによってクラスターの構造を決定しました。
図3 量子化学計算により安定とされる二量体の構造
図3に量子化学計算により安定とされる二量体の構造を表しました。2つの構造が予想されました。
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表1で実験値と計算値を比較しました。Δνは二量体構造をとったことによる単量体構造からの振動数の差です。観測されたピークは2つの構造の計算値で充分に説明ができました。このことから、実験で観測された二量体のピークは Head-to-Head と Head‐to‐Tail の2つの構造によるものであることがわかりました。
私たちの研究方法ではFT‐IRでクラスターの多くの振動モードが観測できるので、クラスター構造の情報をたくさん得ることができます。クラスターの光反応についても研究をおこなう予定です。
(二見)
詳しくは下記の文献を参照してください。
Fumiyuki Ito,Taisuke Nakanaga,Yoshisuke Futami,Satoshi
Kudoh,Masao Takayanagi,Munetaka Nakata, Chem.Phys.lLett,
343, 185-191 (2001).