量子化学 基本の考え方16章


わかりやすく書かれた量子化学の入門書として確固たる地位を築いたベストセラー.

 もう、あれから25年が経とうとしている。そのころ私は駒場(東京大学教養学部)で、生まれて初めて”量子力学”の講義を受けた。黒体放射、波動関数、電子スピン、・・・など、それまでに聞いたこともない言葉が滝のように降ってきた。わけがわからないままに講義は進み、結局、「量子力学というのは、理解しようとすればするほどわからなくなるものだ。これをハイゼンベルグの不確定性原理というのだ」などと強がりを言っていた。

 同じ駒場の教室で、いま、私は1年生に化学(量子化学の基礎)を教えている。教える側の立場に立つと、わからないままに教えるわけにはいかない。理解しようと努力しているうちに、こういうふうに教えれば理解できるのではないか思われることがいくつもいくつも出てきた。

 タイミングよく、1昨年の秋に、雑誌”現代化学”の編集をされていた三井恵津子さんに、「わかりやすく量子化学の基礎を説明してくれませんか」と頼まれた。そして、生まれたものが、連載”だれでもわかる量子化学”である。連載は1年半ほど続き、16回に及んだ。幸いなことに、読者の方々から1冊の本にまとめてくれないかという要望があり、”量子化学−基本の考え方16章−”として、ここに刊行することとなった。1冊の本にまとめるにあたり、わかりにくかったところを、さらにわかりやすくするように努力し、各章の用語、記号、図などの統一も行った。また、教科書としても使えるように配慮し、章末問題も付け加えた。

 私はこの本を、初めて量子力学あるいは量子化学を学ぼうとする学生に、ぜひ、読んでほしいと思う。大学生はもちろんのこと、高校生でも理解できるようなやさしい言葉で書いたつもりである。また、本当は量子力学あるいは量子化学を理解したかったのだという大学院生や社会人にも、ぜひ、読んでほしいと思う。もう一度、挑戦してみてほしい。この本を読んで、きっと、「ああ、そうだったのか」と理解してくれるのではないかと期待している。大学の講義を聞いて、なぜだろうと思った疑問に対する説明をできる限りわかりやすい言葉で書いたつもりである。

中田研トップページへ