バイオミネラリゼーション of Matsunaga, Tanaka, Yoshino Lab.

Basic Research



磁石を作る微生物

磁性細菌が作る磁石とは?
磁性細菌は、細胞内にナノサイズの磁気微粒子(磁性細菌粒子)を生成する微生物です。この磁気微粒子によって、地磁気を感知し、磁力線の方向に向かって遊走する性質を持っています。これまでの研究から磁性細菌の生成する磁性細菌粒子は、脂質二分子膜に覆われているマグネタイト(Fe3O4)の単結晶であることが確認されています。このような生物による無機鉱物の生産は“バイオミネラリゼーション”と呼ばれ、穏やかな条件化で機能性材料を生成する観点から高い注目を集めています。私達の研究室では、磁性細菌粒子形成機構の解明を目指し、研究を行っております。同時にそれらの基礎研究から得られた情報を元に、磁性細菌粒子を用いた様々なアプリケーションを行っております。


磁性細菌の単菌分離
磁性細菌は海、川、湖など私たちの身近な場所で存在が確認されています。これまでに、螺旋状、球状、桿状の磁性細菌が見つかってきており、様々な種類の磁性細菌の存在が明らかになっています。また、種によって異なる形態の磁性細菌粒子を生成する事がわかっています。当研究室では、これまでに複数の磁性細菌の単菌分離に成功しております。

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磁性細菌の磁気微粒子形成機構の解明に向けて
当研究室では、様々な分子生物学的手法を用いて、磁性細菌の磁気微粒子形成に関与する遺伝子・タンパク質の解析を行っております。
近年、当研究室において、世界に先駆けて磁性細菌の全ゲノム配列の解読に成功しました。全ゲノム情報が明らかになったことで、磁気微粒子形成機構に関与する遺伝子の網羅的解析が可能になりました。さらに全ゲノム情報を基に、磁気微粒子を包む膜に含まれているタンパク質のプロテオーム解析を行い、磁気微粒子の形成に深く関与するタンパク質を複数同定しました。同定されたタンパク質の機能解析から、磁気微粒子形成機構への関与が明らかにされています。

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磁気微粒子上から同定されたタンパク質の工学的応用
当研究室では、磁気微粒子形成機構の解明に向けた基礎研究から同定されたタンパク質の工学的応用を目指し研究を行っています。近年、磁性細菌粒子から同定された結晶制御タンパク質の組み換えタンパク質を用いることで、穏和な条件下で磁性結晶のサイズや形態を厳密に制御することに成功しました。


Application



機能性磁性細菌粒子の作製
生体分子を検出するバイオアッセイにおいて、磁気微粒子は優れた担体として利用できます。バイオアッセイへの応用にあたり磁性細菌が生産する磁気微粒子は以下のような優れた特徴を有しています。

Ⅰ 表面を脂質二重膜で覆われており、優れた分散性を持つ
Ⅱ 単磁区構造を持つ強磁性体である
Ⅲ 遺伝子組み換え技術により機能性タンパク質のディスプレイが可能である
Ⅳ 均一なサイズを有する

私達の研究室ではこのような利点に着目し、粒子表面に抗体・レセプター・DNAなどをディスプレイすることで機能性粒子を作製し、血液中や環境中に含まれる生体分子を標識・分離・検出・スクリーニングする技術の開発を行っています。

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抗体固定化磁気微粒子を用いた高感度免疫測定
抗体結合タンパク質であるProtein AやProtein Gをディスプレイした磁気微粒子と、任意の抗体を反応させることで、抗体固定化磁気微粒子を作製することができます。これまでに抗体固定化磁気を用いて、癌マーカーや糖尿病マーカー、内分泌かく乱化学物質の高感度検出を行ってきました。

抗体固定化磁気微粒子を用いた細胞分離
抗体固定化磁気微粒子は標的細胞を分離・濃縮する際にも利用できます。我々は血液中に含まれる造血幹細胞などの有用細胞や、癌マーカーとなる循環腫瘍細胞(CTC)を分離する方法を開発し、細胞医療や疾患診断などへの応用を目指しています。


DNA結合磁気微粒子を用いた遺伝子解析
ストレプトアビジンを標識した磁気微粒子を用いたSNP解析の研究を行っています。ビオチン標識したターゲットDNAを粒子と結合させ、熱処理で一本鎖化した後、各SNPに対応した蛍光標識プローブとの反応性を見ることで一塩基の違いを検出することができます。これらの粒子を用いたSNP解析により、被験者個人の体質 (アルコール感受性) や病気 (糖尿病や骨粗鬆症) のなりやすさなどを診断することが可能です。


核内受容体・Gタンパク質共役型受容体提示磁気微粒子を用いたリガンド結合解析
遺伝子融合技術を用いることで、核内受容体や、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)をディスプレイした磁気微粒子を作製することができます。これらの粒子を用いることで、化学物質と受容体との結合解析や、受容体に作用を示す薬剤リード化合物のスクリーニングを行うことができます。特に、膜貫通型受容体であるGタンパク質共役型受容体を、活性を保持したまま磁気微粒子上に固定化することは大変困難であるとされており、磁性細菌が合成する磁気微粒子を用いる本方法には多くの期待が寄せられています。


測定の自動化技術の開発
免疫測定やDNA検出などの測定系には、高精度化・高感度化・迅速化が求められています。そこで、微少量の磁性細菌粒子をハンドリングできるワークステーションを開発し、測定プロセスのハイスループット化を達成しました。

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