平成17年度 卒業式・修了式告辞
 本日ここに、平成17年度東京農工大学卒業式及び大学院修了式を挙行するにあたり、東京農工大学を代表してご挨拶申し上げます。
 先ほど、卒業証書及び学位記をお渡ししました学部卒業生、大学院修了生は農学部卒業生336名、工学部卒業生660名、大学院工学教育部博士前期課程修了生293名、農学教育部修士課程修了生182名、生物システム応用科学教育部博士前期課程修了生79名、工学教育部博士後期課程修了生44名、同研究科論文博士2名、生物システム応用科学教育部博士後期課程修了生12名、同研究科論文博士1名、合計 1,609名となります。なお、茨城大学、宇都宮大学と本学で構成しております東京農工大学大学院連合農学研究科の修了式は3月17日に行い、56名の方々に学位を授与しました。したがいまして、今年度本学から巣立ち行く学部卒業生、大学院修了生及び論文博士の総数は、1,665名となります。学部卒業生、大学院修士、博士の修了生及び論文博士学位取得者の皆さん、おめでとうございます。心からお祝いを申し上げます。
 本日は皆さんの学部卒業あるいは大学院修了をお祝いするために、本学の同窓会会長、副学長、監事、名誉教授、研究部長、教育部長、評議員などの方々にもご臨席していただいております。特に、同窓会会長の畑中孝晴様及び名誉教授の先生方には、御多忙中にもかかわらず本式典にご列席いただきましたことに対し、この場をお借りしてお礼申し上げたいと思います。
 学部の卒業、あるいは大学院の修了という一つの区切りを迎えられた皆さんの喜びは非常に大きいものと推測いたします。また、これまで皆さんを支え、この日を待ちわびておられたご家族の皆様をはじめとした関係各位のお喜びもひとしおと思います。心よりお祝い申し上げます。卒業する皆さんには、これまで皆さんを支えてこられたご家族や同僚あるいは先輩、ご指導をいただいた先生方などに対して、改めて感謝の気持ちを思い起こしていただきたいと思います。
 本日卒業・修了された学部生、大学院生の中には、73名の外国人留学生が含まれております。出身は19の国と地域でありまして、それらを五十音順に紹介いたしますと、アフガニスタン・イスラム共和国、イランイスラム共和国、インドネシア共和国、スーダン共和国、タイ王国、大韓民国、台湾、中華人民共和国、ドミニカ共和国、ネパール王国、パラグアイ共和国、ハンガリー共和国、バングラデシュ人民共和国、フィリピン共和国、ベトナム社会主義共和国、マレーシア、ミャンマー連邦、モンゴル国、ラオス人民民主共和国となります。留学生の皆さんは異なる言語、文化、習慣の壁を克服し、学位を取得されました。今日までの努力に対して深く敬意を表します。
 東京農工大学における教育の理念は、知識伝授に限定されず、知の開拓能力、課題の探求能力と解決能力の育成を主眼とし、豊かな教養と広い国際感覚及び高い倫理観を有する人間性豊かな人材を養成することです。このたび学生生活を終え、新たな人生を歩み始めようとしている皆さんには、本学の教育理念のもとに、豊かな教養と高い専門知識が身につき、時代の課題に的確に対応し、広範に活躍できる基礎ができていると思います。自信と誇りを持って、地域社会や国際社会などの多様な場で活躍していただきたいと思います。
 皆さんがこれから活躍される社会は厳しい競争の社会です。自立した主体的な行動が求められるでしょう。皆さんが大学で学んだものは、多くの場合、これからの社会での活躍に必要な知識そのものではありません。しかし、それは仕事を進める上で必要な知識を自ら学び、習得する力を与えるものなのです。仮に仕事に直接的に役立つ専門知識であったとしても、それは数年で陳腐化してしまうでしょう。学ぶことは大学卒業で区切りが付くわけではありません。これからは、仕事をしつつ学ぶ毎日ということです。クラインバウムが書いた『いまを生きる』という小説の中に、
 
   「教育とは自分の頭で考えることを教えていくことだ」
 
という一節があります。まさにその通りであって、本学の教育の理念である課題の探求能力と解決能力の育成はまさにそのことを指しているわけであります。本学を卒業する皆さん、皆さんはこれから色々な課題に遭遇するでしょう。その解決法を自らの頭で考え、そして行動することが求められます。その積極性を常に見失わないで下さい。多くの先人が言うように、皆さんが持つ若さは、守るよりも攻めること、伝統を受け継ぐよりも新しいものを作り出すことに適しております。
 ホンダ自動車工業の創立者である本田宗一郎は、
 
   「チャレンジして失敗することを恐れるよりも、何もしないことを恐れろ。」
 
といっております。また、世界的な作家・戯曲家でノーベル文学賞の受賞者でもあるジョージ・バーナード・ショウの言葉に、
 
   「間違いを犯してばかりの人生は、何もしなかった人生よりも、あっぱれであるだけでなく、役に立つ。」
 
というのがあります。これらの言葉は、若者の限りない可能性に期待し、その可能性を積極的に追求することの重要性を言っているわけです。私も卒業していく皆様の可能性に大いに期待しております。失敗を恐れず、自らの感性に基づいて、積極的に活躍されんことを祈っております。もう一つ、皆さんが岐路にたたされたときの一つの判断の仕方をお伝えしましょう。それは、「迷ったときには行動する方を選べ」ということです。特に大きな変更を伴わず、それまでの延長線上の道を選ぶとすれば、不安は少ないのが一般的です。一方、大きな決断をして、これまでとは別の道に足を踏み入れようとなると、前途への不安はずーっと大きなものがあるのが普通です。岐路に立たされてどちらを選ぶか、迷ったとしましょう。迷うということは甲乙つけがたい、どちらが良いか優劣つけがたい、ということです。このときには既に勝負がついていると私は考えます。未知の方を選ぶのには余分な不安が伴うのが普通です。それだけハンディがあるというわけです。それでもいずれを選べばよいか迷うとすれば、未知なる道に加わるハンディ分を考慮すれば、結果は自ずと明らか、というわけです。皆さんが岐路に差し掛かったときの一つの参考としていただければ幸いです。
 最初にも触れましたように、本学は世界各国からの留学生が学ぶ国際感覚あふれる学園です。皆さんには本学で学ぶ過程で多様な国からの多くの友達ができたことと思います。その国際的な人的ネットワークは皆さんの宝物になるでしょう。今は、通信手段、交通手段が飛躍的に発達し、空間的、時間的距離が劇的に縮まってきております。一方では、皆さんが取り組む課題は複雑化し、多くの専門分野をまたがようになってきております。その解決への取り組みも一国の枠を超え、世界各国との相互理解と相互協力の下で進めることが必須というものが多くなってきております。地球温暖化、環境破壊、エネルギー不足、食料問題、などは地球規模の課題となっており、人類の存続をも脅かしかねない重要問題です。これらの解決には国際的な連携が欠かせません。東京農工大学は、二十世紀の社会と科学技術が顕在化させたこれらの難問を正面から受け止め、「持続発展可能な社会の実現」という崇高な目標を大学の基本理念に据えております。農学、工学およびその融合領域こそ、それらの課題を解決するキーとなる技術であることから、二十一世紀の人類が直面しているこれらの課題の解決に寄与することこそ本学の使命であるとし、これまで真摯に取り組んでまいりましたし、これからもより一層の努力をしていく予定でおります。皆さんはこれからそれぞれ希望の社会に入って、それぞれの立場で活躍されるわけですが、本学の基本理念を忘れずに、それぞれの立場から持続発展可能な社会の実現に寄与していただきたいと思います。その際、皆さんが築いてきた世界に広がる人的ネットワークは大きな力となるでしょう。本学同窓会を核とした卒業生・修了生の間の国際的なネットワークを有効に活用しつつ、さらに強固なネットワークにしていっていただきたいと思います。我々もそれに惜しみなく支援して行きたいと思っております。
 もうひとつ、ぜひ皆さんにいつも心に止めておいて欲しいことがあります。それはこれから活躍される舞台において、常に倫理観をしっかり持って行動してほしいということです。最近ではマンションやホテルなどの耐震偽装事件、各種の談合事件など、担当者の倫理観の欠如から派生する不祥事があとを絶ちません。もう40年ほど前になりますが、当時の大河内一男東大総長の卒業式での告示の中で非常に有名になった言葉があります。それは、
 
   「太った豚になるよりも、やせたソクラテスになれ」
 
というものです。当時、高級官僚の不祥事が次々におこり、強い社会的な批判をうけておりました。卒業していく学生への警鐘の意味でいわれたものですが、残念ながらその後も日本社会のどこかで同じような状況が続いて来たといわざるを得ません。幸いにも本学の卒業生がその渦中のひとになることはこれまでありませんでした。これからも無いと信じておりますが、皆さんが社会で活躍し、重要な役割を演じるようになればなるほど厳しく自己を律することが求められます。高い倫理観に支えられた心豊かな技術者になっていただきたいと思います。やせ細る必要はなく、心身共に健康体であってほしいと思います。
 
   「太った豚になるよりも、誇り高きソクラテスになれ」
 
とお願いしたいと思います。
 引き続き大学院に進学される方々には、学術の発展や社会の発展に貢献することを目指した研究者、あるいは、高度専門職業人への夢の実現に向けて、一層学業に励んでいただきたいと思います。
 最後になりましたが、今後とも皆さんが心身ともに健康で、これまでに修得された学識と技術を存分に活かして活躍されますよう祈念し、また、東京農工大学のさらなる発展のため、同窓会活動などを通じて、ご支援くださいますようお願い申し上げまして、ここに告辞といたします。 
 
    平成18年3月24日
  東京農工大学長 小畑 秀文 
    


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