平成18年度入学式告辞
 本日ここに、関係各位のご臨席を賜り、平成18年度国立大学法人東京農工大学入学式を挙行することになりましたことは、誠に喜びに堪えません。東京農工大学に合格され、めでたく「二十一世紀に個性ある大学として飛躍する東京農工大学」の一員となられた皆さんを、心より歓迎いたします。入学おめでとうございます。
本年度の新入生は、学部では、農学部が347名、工学部は659名で合計1006名です。大学院は、工学府、農学府、生物システム応用科学府、連合農学研究科、の4つで構成されておりますが、それらを合わせますと、修士課程611名、博士課程144名です。また、昨年4月に発足した技術経営研究科には53名の新入生を迎えております。これらを合わせて808名が大学院に入学しました。従って、学部、大学院全体を合わせた新入生の総計は1814名となります。
 新入生の皆さん、皆さんは厳しい選考をパスして見事に合格を果たした方々です。まずはこれまでの苦労をねぎらい、心から祝福をしたいと思います。また、これまで側面から皆さんを支え、この日を待ちわびてこられたご両親やご家族の皆様をはじめとした関係各位のお喜びもひとしおと思います。心よりお祝い申し上げます。入学した皆さんには、これまで皆さんを支えてこられたご家族やご指導をいただいた先生方などに対して、改めて感謝の気持ちを思い起こしていただきたいと思います。
 さて、皆さんの頭の中の東京農工大学はどのような大学でしょうか。皆さんが抱く東京農工大学と実像とはかなり開きがあるのではないかと思いますので、三つの観点から簡単に紹介してみましょう。
 一つ目は本学の歴史と使命についてです。本学の農学部の前身は明治10年(1877年)に設置された内務省の農事修学場であり、工学部の前身は明治17年(1884年)に設置された農商務省の蚕業試験掛です。したがって本学は130年にも及ぶ長い歴史と伝統を有する大学ということになります。この建学の経緯から、産業の基幹となる農業と工業を支える農学と工学の二つの学問領域を中心として、幅広い関連分野をも包含した全国でも類を見ない特徴ある科学技術系大学として発展してきました。地球温暖化、環境破壊、エネルギー不足、食料問題、などは人類の存続をも脅かしかねない地球規模の重要問題となっていることを皆さんは良くご存知のことでしょう。これらの問題解決には農学、工学、およびそれらの融合領域が必須技術になるわけです。本学の学部構成はまさに二十一世紀が抱える課題の解決に適したものということができますし、本学が果たすべき役割は益々重要になってきているといえるでしょう。東京農工大学は、二十世紀の社会と科学技術が顕在化させた深刻な課題を解決し、「持続発展可能な社会の実現」を大学のひとつの使命としております。農学、工学およびその融合領域における自由な発想に基づく教育研究を通して、社会や自然環境と調和した科学技術の進展に貢献するとともに、その課題を担う人材を育成することが本学の使命というわけです。
 二つ目は大学院中心の大学についてです。丁度二年前に全ての国立大学は国立大学法人になりましたが、本学は法人化と同時に大学院機軸大学になりました。すなわち、ほとんどの教員は大学院に所属し、大学院における教育と研究に重点をおいた研究中心の大学として新たなスタートをきったわけであります。先ほど、新入生の数を紹介いたしましたが、学部生が1006名に対して、大学院への新入生は修士と博士を合わせて808名です。大学院の学生が予想以上に多いのにお気づきのことと思います。大学全体が大学院機軸大学になったのは、国立大学法人の中でもまだ限られた一部の大学だけであり、本学の研究力の高さが認められた結果であります。ただし、大学院中心の研究大学となったといっても、学部の教育を疎かにするわけではありません。むしろ逆でして、大学院生による研究が世界の先端を行くレベルの研究になるためには、その基礎学力が充実していなければなりません。学部教育はその意味でも極めて重要なものであると我々は認識し、学部教育の一層の充実のために、色々な改革に取り組んでまいりましたし、これからも弛まぬ努力をしてまいります。単に知識を伝授する教育ではなく、知の開拓能力、課題の探求能力と解決能力の育成を主眼とし、豊かな教養と広い国際感覚及び高い倫理観を有する人間性豊かな人材を養成することを目標にしております。皆さんは安心して本学での自己研鑽に励んでいただきたいと思います。
 三番目は外部からの評価についてです。単なる自己満足ではなく、第三者から高い評価を受ける大学でなくてはなりません。研究面とその結果でもある産学連携、および教育について一部紹介いたしましょう。ご存知のように、今はグローバル化の時代であり、世界に通用することが求められます。文部科学省では世界的研究拠点の形成を目的に、全国の大学の中で優れた研究グループを選定し、真の世界的研究拠点に育てようという政策を進めつつあります。いわゆる二十一世紀COEプロジェクトですが、本学では二つの研究グループが二十一世紀COEに選ばれており、中間評価でも高い評価をいただきました。この分野では世界に向かって自慢のできる世界レベルの研究者が揃っている、というわけです。また、大学における研究の成果を社会に役立つ形で還元すること、それは産官学連携活動と呼ばれておりますが、その重要性が高まってきております。この分野でも本学の活動は極めて活発であり、経済産業省や日本経済新聞社による各種の調査において、本学よりもはるかに大きな大学を尻目に、本学の産官学連携活動は全国のトップクラスに評価されております。昨年、文科省は日本の産官学連携活動を世界に伍したものに育てるために、産官学連携活動を強力に推進する母体としてスーパー産官学連携本部の選定を行いました。国公私立大学全体を対象に選定が行われたわけですが、結果的には6つの大学が選定されました。本学はその一つに選ばれました。それ以外に選定されたのは、東京大学、東京工業大学、京都大学、大阪大学、奈良先端科学技術大学です。居並ぶ強豪を抑えて6つの大学の一つに選ばれたわけであり、日頃の産官学連携活動の活発さが評価されたわけであります。
 さて、次は教育面です。教育関係は定量的に比較するのが難しいのですが、国家公務員試験での合格者数は公平な尺度の一つではないでしょうか。国家公務員試験の中に将来幹部職員となる第T種試験がありますが、この試験には農学部の学生の多くが受験します。在学する学生の総数が異なりますので、在学する学生当たりの合格者が占める割合で比較しますと、東京大学、京都大学、一橋大学などに並び、常にトップクラスを維持しております。これらは隠れた本学の特徴といえましょう。
 以上、三つの視点から本学を簡単に紹介いたしましたが、本学は規模の点ではむしろ小さな大学ですが、基本になる教育・研究の質の高さから、日本の主要な科学技術系大学として認められているといえると思います。皆さんが入学前に抱いていたイメージと重なっておりますでしょうか。予想以上に優れた大学だな、と見直した人が多いのではないでしょうか。東京農工大学は間違いなく立派な大学です。皆さんはその一員として加わったことになります。本学を誇りに思って、これから勉学に励んでいただきたいと思います。

 さて、皆さんはこれから新たな大学あるいは大学院での生活をスタートされるわけですが、しっかりとした目的意識を持って大学生活を送っていただきたいと思います。そのことに関して、私の期待を幾つかお話いたしましょう。
 大学は高等学校までとは異なり、一つの分野に関して、どこでも通用する専門性を身につけるところです。皆さんのこれからの長い人生の中で、しっかりとした専門性を身につけることは極めて重要なことと思います。学生の本分は言うまでもなく勉学です。柔軟な頭脳を持つこの時期に大いに頭脳を酷使して下さい。ただ、大学では"一方的な知識の伝授"が主体ではありません。学生諸君は自ら進んで考え、調べ、さらには新たな知を生み出すことまで要求されます。与えられることを待つのではなく、自ら求めて下さい。求めれば、それに応えられるのが大学です。大学院に入学された皆さんには、学部で身に着けた基礎の上にさらに高度な専門性を深め、研究者・技術者としての基盤を固めることが期待されます。選んだ分野でのスペシャリストを是非目指して頂きたいと思います。
 一方、社会は流動的で、複雑化し不透明さを増しつつあります。そのような時代ですから、狭い専門的知識や技能のみでは対処できない問題が多くなってきております。幅広い教養と高い倫理性に裏打ちされた、総合的な判断力や優れた創造力が要求されるわけです。したがって、皆さんには自らの専門領域を越えて広く学ぶことが求められるでしょう。学問そのものが融合し、学際的となり、もはや文系/理系の知といった区別はなくなる方向にあります。幅広く学ぶ時間が作れるのも大学です。全体を見通した総合的な判断力は簡単に短期間で獲得できるものではありませんが、それを育んでいくための基盤を是非大学にいる間に作っていただきたいと思います。
 人間誰しもその人ならではの個性と才能を備えています。それは磨いてはじめて顕在化するものです。皆さんは未だいわば磨かれて玉になる前の原石です。皆さんが潜在的に持つ可能性は大きなものでしょう。それを存分に発現して欲しいと強く念願する次第です。
 今はグローバル化の時代と言われております。卒業後の活躍の場は世界を視野に入れるべきでしょう。そのために、本学における学園生活の中で国際人としての資質を大いに磨いていただきたいと思います。今年の新入生1814名の中に、東北アジア、東南アジア、中近東、アフリカ、東ヨーロッパ、中南米など、203の国と地域から来日した97名の外国人留学生が含まれております。本学全体では30近い国と地域から400名を超える留学生が学んでおります。また、60を超える海外の有力大学との間で学生や研究者の相互交流協定を結んでおります。このように、学内は大変国際性に富んだ学園となっております。政治、経済だけでなく、スポーツ、あるいは日常生活を含む社会全体がボーダーレスの状況になりつつあり、その傾向は益々強まるものと思われます。このような時代であればこそ、国際性を身につけることは必須と思います。真の国際性とは、外国語が喋れるということとは違います。異なった国や民族の風俗習慣、宗教、歴史、政治、経済など、背景となる部分を十分に理解した上で、色々な問題に対して自分の意見を述べ、その国の人たちと議論し、本当に相手を理解できる能力を持つことです。その訓練の場として国際色豊かな本学での学園生活を大いに活用していただきたいと思います。
 大学には高校とは比較にならない人的広がりがあります。日本全国、いや世界中から集まっています。このバラエティに富んだ人達と是非親しい交友関係を築いて下さい。大学院生はもとより、学部生でも4年になると研究室に配属されます。研究室では教室での授業とは違った密度の濃い人間的触れ合いがあります。これら大学の中で築かれる人的ネットワークは、皆さんの長い人生に非常に重要な役割を果たすことでしょう。私も自らを振り返ったとき、大学を出たことによって得られた「同級生、先輩、後輩との人的ネットワーク」の持つ重要さを身に沁みて感じています。クラブ活動にも積極的に取り組んで下さい。学部・学科を超えた仲間とのお互いの思いやりと理解に基づく友情は一生の財産となるでしょうし、なによりも熱中するものからは必ず何かが得られるからです。
 
 以上、これからの皆様の本学における学園生活が実り多いものになることを期待して、私の考えを述べてみました。これからの社会は高度知識社会、あるいは知識基盤社会といわれております。混沌とした部分がある中で、それを解決し、持続発展可能な社会を再構築する上で、皆さんのような若い人々に大きな期待がかかります。それに応えるには高度な知識力を持つ自立型人材であることが求められます。何事にも自発性と行動力を持ってあたる積極的な学園生活を送り、明日を担う社会人として成長されんことを期待して、告辞と致します。

 
    平成18年4月7日
  東京農工大学長 小畑 秀文 


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