遷移金属イオン、結晶の格子欠陥の未結合手、ラジカルなど不対スピン電子系をもつ物質をマイクロ波のキャビティ(空洞共振器)内に置き磁界を変化させると、ゼーマン分裂した電子準位間のエネルギーがマイクロ波のエネルギーと等しくなったときマイクロ波の共鳴吸収遷移が起きる。これを電子スピン共鳴(ESR)と呼んでいる。この現象は大変感度が高い(1014spin/cm3)ので、無機、有機化学、結晶工学、半導体物性など広い範囲において微量の不純物、欠陥の検出手段や、物質の同定のために用いられている。また、スピンがおかれた環境(対称性、周辺イオンの核スピンなど)によってスペクトルが変化するので、不純物欠陥の評価手段としても用いられている。基底状態では不対スピンを持たない系でも、光励起によってESR中心となる場合もある。
本装置は、科研費重点領域研究「機能性材料」の設備として平成3年度に本学佐藤研究室に設置され、機器分析センター発足に伴い本センターに寄付されたものである。2.設置場所、構成及び性能
設置場所:機器分析センター機器室23.装置の概要
本装置は、ESRスペクトロメータ及び若干の付属設備から構成される。 詳細は以下のとおり?ESRスペクトロメータ
機種はJES−RE2X(日本電子)である。本機は、Xバンド(9.4GHz)の標準的なESRスペクトロメータで、磁界は最大1.3Tまで印加できる。感度は1×1014スピン/T。温度可変(液体ヘリウム温度〜室温)、光照射可能である。?附属設備:
(1)温度可変装置ES−DVT2(−170゜C〜+190゜C)4.利用状況
(2)液体ヘリウム温度可変装置ES−LTR5X(2.7K〜300K)
(3)試料角度回転装置ES−UCR3X(0゜〜360゜:読みとり精度1゜)
(4)固体試料光照射用レンズ ES−UVLS
(5)データ収集用コンピュータ ESPON PC386M−STD
(6)光検出磁気共鳴装置ODMR用マイクロ波チョッパ内蔵
利用者希望者からのお申し出があれば、お使いいただけるようマシンタイムの配分をする。現在のところ、代表者(佐藤勝昭)が主として利用している。外部からの委託測定が年2ー3件ある。これまでに測定した対象は、半導体中の遷移金属、希土類イオンのESRスペクトルによる同定、半導体の格子欠陥の光ESRによる検出などである。今年度は、光検出ESR測定ができるように周辺装置を整備した。5.会計報告
本装置は、科研費重点領域研究の設備として本学に設置されたいきさつのもので利用料金を設定してこなかった。今後は、消耗品実費程度を徴収する予定である。6.利用方法・問い合わせ先
利用方法:本装置にはオペレータがいませんので、最初、佐藤研究室の助手(石橋)または担当の学生が説明しますが、測定は利用者ご自身で行って下さい。データはチャート紙に出力されます。3.5”フロッピーに出力することも可能です。 g値の決定や、スペクトルの積分によるESR信号強度の測定も可能ですが、スピン密度の計算などは、標準試料を必要としますので、しかるべきものを各自ご用意下さい。液体窒素、液体ヘリウムなどの手配、費用負担についてはご相談下さい。また、第1項に述べた以外の装置(例えば液体用セル)を必要とされる場合利用者自身でご用意下さい。問い合わせ:
詳細は佐藤勝昭教授(内線7120)または石橋隆幸助手(内線7801)にご相談下さい。7.研究への利用
以下のように、半導体の欠陥不純物電子構造評価に用いられる。
(1)化合物半導体中の欠陥・不純物の評価
(2)アモルファス材料の光誘起欠陥の評価
(3)多孔質半導体の電子構造評価
本装置により、沃素輸送法および融液成長法で作製した化合物半導体単結晶に含まれる遷移金属不純物Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Niや、Cu空孔などに関係したESR信号を検出し、どの不純物が含まれどのsiteを置換しているかなどを明らかにした。対象となった半導体は、CuAlS2, CuAlSe2, CuInS2, CuInSe2などである。 一例として、図3にCuAlS2においてみられた光誘起ESR信号を示す。上の曲線は照射前、下の曲線は照射後のスペクトルである。光照射により、A-signal と記した等方性の信号が現れ、同時にFeに基づく信号が弱くなる。A-signalのg値は2.019で、正孔による信号と同定された。また、その強度の温度依存性(図4)から活性化エネルギーが190meVであると決定された。他の研究との比較からA-signalはCuの空孔に捕らえられた正孔によると考えられている。このように、光ESR法を用いると元来ESR中心でない欠陥についても観測可能である。
注:学科名等は旧名のまま