材料系物理工学 10回 2003.12.15

物理システム工学科4年次、後期月曜2限(プレハブ第2講義室)第10回高温超伝導

佐藤勝昭教員(4号館514号室、内線7120e-mail: satokats@cc.tuat.ac.jp

9回の復習:超伝導エレクトロニクス
(1)超伝導体と常伝導体のトンネル接合

超伝導状態(クーパー対がボース凝縮した状態)を常伝導状態(クーパー対が分離した状態)にするには、ある大きさのエネルギー2Dを必要とする。これが超伝導エネルギーギャップである。

(2)超伝導体と超伝導体のトンネル接合

・2つの超伝導体ABで非常に薄い絶縁体を挟んだ接合
(SIS接合)をジョセフソン接合という。

・トンネル電流は、両側の超伝導体の間の相互作用の大きさと位相差に依存するものとなり、印加電圧がゼロでも直流電流Iが接合を通して流れる。これを直流ジョセフソン効果という。

I=Ic sinq; Ic はジョセフソン臨界電流、q は両超伝導体の位相差である。

 

ジョセフソン接合の式

I=Ic sinq

q/x=(2ed/h)m0Hy =2pByd/F0
ここにF0=ch/2e=2.07x10-7Gcm2=2.07x10-15Wb

q/t=(2e/h)V

第2式を積分するとジョセフソン最大電流の磁束依存性が得られる。

第3式を積分すると交流ジョセフソン効果が得られる。

 

ジョセフソン接合と直流特性

・ジョセフソン接合に電圧を印加すると、両端の電圧が出ないままI=Icだけ電流が流れる。さらに電流を流そうとすると、両端に電圧が生じる。この電圧Vc2D/e で表される。ここに2D は、超伝導ギャップである。

 

ジョセフソン電流の磁界効果

q/x=(2ed/h)m0Hy =2pByd/F0を積分すると

q(x)= (2pByd/F0)x+q0が得られる。ここにF0は磁束量子の大きさである。また、dは、2つの超伝導体におけるロンドンの侵入長の和に絶縁層の厚みを加えたものである。厚さdの領域にある磁束F ByLd で表される。ここにLは接合の長さである。

・このq(x)J(x)=Jc sinq に代入し、xy面について積分すると全電流Iが次のように求められる。
I=dxdy J(x)=Ic{sin(pF/F0)/pF/F0}sinq0

 

ジョセフソン臨界電流の磁束依存性

ジョセフソン臨界電流は磁束の大きさに対して、右図のようなFraunhofer型の回折パターンを示す

 

交流ジョセフソン効果

q/t=(2e/h)V

を積分すると、q =(2e/h) Vt+ q0となる。これを

I=Ic sinqに代入すると、
 I=Ic sin {(2e/h) Vt+ q0}となり、角周波数がw=2eV/ hの高周波信号であることがわかる。

このことは、直流バイアスVの大きさを変えることによりジョセフソン交流電流の周波数を制御できることを示している。

 

 

高温超伝導の発見前夜

・酸化物にも超伝導を示すものがあることは1986年以前から知られていた。

例:LiTi2O4(Tc〜 14K), Li0.9Mn6O17, SrTiO3-d(Tc0.3K),

BaPb1-xBixO3(x0.3)(Tc12K)

BaPb1-xBixO3などペロブスカイト型化合物が注目されていた。

BaBiO3ではBi由来の6s電子バンドがちょうど半分詰まっていて、強い電子格子相互作用でCDW状態にある。PbBiを置換し6sバンドにホールを導入する。

 

高温超伝導の発見

IBM Zürich研究所のBednorz, Müllerらは、1986年に発表した論文(Z. Phys., B64, 189 (1986) の中でPossible high temperature superconductor”として、LaBaCuO系がTc30Kを超える可能性を示唆した。

Müllerらは、Jahn-Teller型の強い電子・格子間相互作用を持つ系としてCuO6八面体を含む物質を探索した。

・東大のTanakaらによってMeissner効果が確認され、超伝導フィーバーが起き、社会現象になった。

 

高温超伝導その後の展開

1987年はじめ:ChuらがTc>90KYBCOを発見
(YBCO=YBa2Cu3O7)

1987年末〜1988年年初:Tc>120KBi, Tl系高温超伝導体が発見さる。BiO面あるいはTlO面とCuO2面の積層による超伝導

1991年:A3C60(A=アルカリ金属)で超伝導発見(K3C60  Tc=19.3K)

1993年:HgOx面を積層ブロックとする系でTc135K (高圧下で150K)が発見さる

2001: 秋光、金属系で最高のTcをもつMgB2発見
Tc 39K

 

臨界温度変遷の歴史

・超伝導転移温度Tc1986年を境に急激に上昇し数年のうちに記録を塗り替えてしまった。

・最近は、Tcの上昇に関する報告はほとんどなく、むしろ、すでに確立した材料について実用化を図る研究が進められている。

 

高温超伝導体の構造
基礎となるペロブスカイト構造

立方晶ペロブスカイト構造ABO3, OイオンとAイオンが面心立方最密構造を作る。Bイオンは6個のOイオンが配位した8面体サイトを占め、BO6八面体が頂点を共有して3次元ネットワークを形成する。

 

単層CuO2面をもつLn2CuO4構造

Cu-O6八面体、CuO5ピラミッド、CuO4面が頂点を共有して接続している。

 

YBaCu3O6+xの構造

x=1のとき斜方晶
(orthorhombic)超伝導

x0のとき正方晶
(tetragonal):絶縁体かつ反強磁性

 

Bi2Sr2CaCu2O8+d の構造

層状超伝導体BSCCOには2201,2212,2223というふうに単位胞に入るCu-O層の数のちがいでさまざまな構造がある。

BSCCOは固有ジョセフソン接合をもち、特徴的な物性を示す。

高温超伝導体の特徴

絶縁体・金属相転移境界近傍の組成をもつ
Mott絶縁相(電子間の強い相互作用によって絶縁相化)バンドフィリングを変えることで金属・超伝導化。

反強磁性相と超伝導相が交代する相図をもつ。

Cu-Oの1次元鎖、2次元層が超伝導を担う。

スピンギャップがTc以上に存在

金属超伝導体はs波、高温超伝導体はd

 

LaSrCuO, NdCeCuOの相図

La2-xSrxCuO4においてxを変化すると、x=0では反強磁性であるが、0.05以上で超伝導になる。

Nd2-xCexCuO4-dにおいてもx=0.13を境に反強磁性から超伝導に変わる。

 

YBCOの相図

YB2Cu3O6-xにおいては、酸素欠損数の増加によって、反強磁性が消滅し、代わって超伝導が開始し、Tcが増加する。

1>x>0.6: 90K相:斜方晶I
0.6>x>0.460K相:斜方晶II
x<0.4:
反強磁性相:正方晶

 

超伝導の応用

磁気シールド:マイスナー効果

マイクロ波用フィルタ(抵抗がないのでQが高い)

超伝導電磁石:抵抗なしに大電流が流せる
リニアモータカー、MRI用電磁石、電力貯蔵

電力輸送:超伝導線により、送電ロスを減らす

超伝導量子干渉磁束計(SQUID)JJの応用

磁界制御型ゲート素子:ジョセフソンコンピュータ

単一磁束量子素子(SFQ):金属系の材料を用いて100,000ゲートのスイッチ素子集積回路ができている

高周波検出素子:交流ジョセフソン効果の応用

 

超伝導磁気シールド

モバイルSQUID脳磁界計測装置に用いられる超伝導磁気シールド

高温超伝導体(ビスマス系)をニッケルシリンダー内壁にコーティングした構造。冷却ヘリウムガスの循環により冷却され、超低周波域まで良好なシールド特性を持つ。

 

超伝導電線

極細多芯構造の役割

1.電磁気的不安定性(フラックスジャンプ)の抑制効果(磁気的安定化)
    超伝導体の径<40μm

2.超伝導が破れた部分を廻りの銅マトリックスに電流がバイパスさせ、その間に冷却により温度を下げて再び超伝導状態に復帰するさせる効果(冷却安定化) 

3.細い超伝導体を多数本束ねる
    電流容量を大きくする

 

リニアモーターカーと超伝導電磁石

・超伝導電線で巻いたコイルにはジュール熱の発生なく数百Aの電流を流せるので、6T-10Tの磁束密度を容易に作り出せる。

・車体が浮上する原理は、超電導磁石がつくる磁束と、ガイドウェーの浮上コイルに生まれる磁束の反発力・吸引力による。超電導磁石の磁束が浮上コイルに近づくと、浮上コイルには電磁誘導の法則によって磁束が発生し、誘導電流が流れる。このとき浮上コイルに発生する磁束は、いわば「押さば押せ、引かば引け」というように、外部磁束の運動を阻止するように働く(レンツの法則)。JRのリニアモーターカーは、この現象を巧みに利用したものである。

 

超伝導フィルタ

電気抵抗がないためにQの非常に高い共振器を作ることができる。最もシンプルな応用であるが、すでに米国では携帯電話の基地局の受信器に用いられている。

 

SQUID(超伝導量子干渉デバイス)

Dc SQUIDは2つのジョセフソン結合を超伝導ループ(inductance=L)で並列結合したもの。

・量子化条件 F0(q1- q2)/2p=F+n F0

SQUIDを流れる電流は
I=I1+I2=I0sin q1+I0sin q2
=2I0sin{(q1+ q2)/2}|cos{(q1- q2)/2}|
=2I0sin{(
q1+ q2)/2}|cos (p F/ F0)|

Iの最大値はIc
Ic=2I0|cos (p F/ F0)|

 

SFQ(単一磁束量子)デバイス

・単一磁束量子(SFQ)回路*:超伝導リングの中では、磁束は2.07×10-15 Wbを単位に量子化されます。この量子化された磁束の最小単位を単一磁束量子または英語表記でSFQSingle Flux Quantum)とよびます。

SFQ回路は超伝導リング中のSFQの有無を1”,“0”の情報に対応させる回路です。超伝導リングに含まれるジョセフソン接合をスイッチさせることにより、SFQの超伝導リングへの出入りを制御します。

SFQ素子のスイッチングスピードは、半導体素子の100倍、消費電力は1/1000です。また、SFQは超伝導配線中を光速に近いスピードで減衰なしに伝わることができます。

 

材料系物理工学の講義を終えて

この講義では、磁性および超伝導について、応用を意識しながら、その基礎を中心に述べた。

磁性の基礎については、強磁性の起源、ヒステリシスの由来と磁区の関係などについて述べた。

磁気の応用については、モーター、変圧器、磁気記録などについて、磁性材料との関係において述べた。

超伝導については、その研究史、簡単な基礎、高温超伝導、超伝導応用について簡単に紹介した。

 

期末試験について

これまでの講義で学んだ内容のうち、興味を持った項目について課題として定め、それについて自習期間(12/222/2)に調べ、期末試験日(2/16、2限、93教室)に答案用紙に記載してください。選んだ課題をできれば年内、遅くとも1月末までに、メール下さい。

当日は、書物、ノート、資料などを持ち込んで結構です。書物、インターネットを利用してもよいですが、出典を明確にしてください。