材料系物理工学 第6回 2003.11.17

物理システム工学科4年次、月曜2限(プレハブ第2講義室)第6回磁気に付随する現象

佐藤勝昭教員(4号館514号室、内線7120e-mail: satokats@cc.tuat.ac.jp

[月曜振替日: 11/2411/26()]

復習コーナー(第5回の問題)

反磁性体は磁界の変化を妨げるように逆向きの磁化を生じる。それではなぜ強い静磁界のもとで反磁性体を浮かせることができるのか

単位質量あたりの反磁性磁化率をc=-cdとする。

磁化Mが磁界Bの中にある時のポテンシャルエネルギーはE=-M×Bであるから、力はEの距離微分F=-MdB/dzで与えられる。M =-cdBであるから単位質量あたりの力はF=cd(B/m0)dB/dz

従ってg=cd (B/ m0)dB/dzのとき釣り合う。

すなわち磁界の勾配があると上向きの力が働いて重力とつり合い、浮上する。

 

磁気に付随する現象

   磁気抵抗(MR)効果

   磁気光学(MO)効果

 

磁気抵抗効果MR(magnetoresistance)

   半導体・半金属における正のMR:ローレンツ力

   磁性半導体に見られる負のMR:スピン無秩序散乱

   強磁性体の異方性磁気抵抗AMR

   磁性体/非磁性体/磁性体構造の巨大磁気抵抗GMR

   磁性体/絶縁層/磁性体構造のトンネル磁気抵抗TMR

   強相関系酸化物の巨大磁気抵抗CMR

 

半導体・半金属のMR

   Dr=r(B)-r(0)

   磁気抵抗効果MR= Dr/r(0)=MtB2
ここにMtは横磁気抵抗係数

   磁界の2乗に比例する正の磁気抵抗

   ホール効果と同じようにLorentz力によって電子の軌道が曲げられることの2次の効果である。

   電子の散乱までの平均自由時間tは、キャリアが縮退していないときにはát2ñ¹átñ2になり、磁気抵抗効果が生じる。

(注:磁気抵抗効果の詳細な導出は、植村泰忠、菊池誠:半導体の理論と応用()(裳華房1960)第2章p236参照)


ビスマスの巨大な正の磁気抵抗効果

l

磁性半導体の負の巨大磁気抵抗効果

   CdCr2Se4などの第1世代の磁性半導体では、キュリー温度付近で、スピン無秩序散乱による巨大磁気抵抗効果が報告されている。

 


強磁性体の異方性磁気抵抗効果(AMR)

   上向き及び下向きスピンバンドとスピン依存散乱の見地から解釈される

   抵抗率テンソルは次の形に書ける。

   この形は、次式に対応する 。ここにJは電流ベクトル、aは磁化Mの向きを表す単位ベクトルである。

 

 

異常ホール効果と異方性磁気抵抗効果

  

r//は、電流が磁化に平行である場合の抵抗率のB0外挿値。r^は、電流が磁化に垂直である場合の抵抗率のB0外挿値。rHは異常ホール抵抗率である。

   一般にr//¹ r^である。これは、抵抗が磁化Mと電流Jの相対的な向きに依存していることを示している

 

AMRの説明

   1に示すような配置を考え、MJのなす角度をqとすると、MR比を求めると

 

 

 

 


2流体電流モデル(two current model)

   スピン依存の散乱ポテンシャルを考え、電流はスピンとスピンの伝導電子[1]によってそれぞれ独立に運ばれると考える。散乱によってs電子がd電子帯に遷移するが、スピンd電子帯とスピンd電子帯では空の状態密度が異なるため、s電子はスピンの向きに応じて異なった散乱確率を感じることになる。

[1] 全磁化と平行な磁気モーメントを持つ電子(多数スピンバンドの電子)をで表し、反平行なもの(少数スピンバンドの電子)をで表す。

 

Feのスピン偏極バンド構造

 

バンドと磁性

スピン軌道相互作用とAMR

   スピンに対する抵抗率を、スピンに対する抵抗率をとすると、全体の抵抗率はDr/r=r­r¯/(r­+r¯)で表される。

   いま、単純な2流体モデルを考え、スピン軌道相互作用を用いて、異方性磁気抵抗効果を説明することが行われている。

   これによれば、異方性磁気抵抗比は、
Dr/r=(r//- r^)/ r=g(r­/r¯-1)
と表される。ここに gはスピン軌道相互作用係数である。単純遷移金属、遷移金属合金における実験結果の多くはこの式で説明できる。

 

巨大磁気抵抗効果(GMR)

   1988年にFertらのグループは、Fe/Crなど磁性金属/非磁性金属の人工格子において、大きな磁気抵抗比をもつ磁気抵抗効果を発見した。Baibichらが報告する磁化と磁気抵抗効果の対応 [i]によれば、Crの層厚を変化することによって磁気飽和の様子が変化するが、磁気飽和のしにくい試料において低温で50%におよぶ大きな磁気抵抗比R(H)/R(H=0)が見られている。室温でもこの比は16%におよび、巨大磁気抵抗効果(GMR=giant magnetoresistance)と名付けた。この後、同様のGMRは、Co/Cuのほか多くの磁性/非磁性金属人工格子、グラニュラー薄膜などで発見された。

[i] M.N. Baibich, J.M. Broto, F. Nguyen Van Dau, F. Petroff, P. Etienne, G. Creuset, A. Friederich and J. Chazelas: Phys. Rev. 62 (1988) 2472.

 

層間 結合系の巨大磁気抵抗効果( GMR


スピン依存散乱

 

GMRAMRの違い

   GMRが異方性磁気抵抗効果(AMR)と異なる点は、
(1)磁気抵抗比が桁違いに大きい、
(2)抵抗測定の際の電流と磁界の相対角度に依存しない、
(3)抵抗は常に磁界とともに減少する、
という3点である。このような点は、スピン軌道相互作用のみでは説明できない。

 

GMR 振動と層間結合


非結合系のGMR

  

ソフト磁性体とハード磁性体との3層構造

 

スピンバルブ

   NiFe(free)/Cu/NiFe(pinned)/AF(FeMn)の非結合型サンドイッチ構造

スピン依存トンネル効果とトンネル磁気抵抗効果(TMR

   強磁性体(FM)/絶縁体(I)/強磁性体(FM)構造

   M. Julliere: Phys. Lett. 54A, 225 (1975)

   S. Maekawa and V.Gafvert: IEEE Trans Magn. MAG-18, 707 (1982)

   Y.Suezawa and Y.Gondo: Proc. ISPMM., Sendai, 1987 (World Scientific, 1987) p.303 

   J.C.Slonchevsky: Phys. Rev. B39, 6995 (1989)

   T. Miyazaki, N. Tezuka: JMMM 109, 79 (1995)

 

トンネル磁気抵抗効果(TMR)

TMRデバイス

   絶縁体の作製技術が鍵を握っている。

   最近大幅に改善

TMRを用いたMRAM

   ビット線とワード線でアクセス

   固定層に電流の作る磁界で記録

   トンネル磁気抵抗効果で読出し

   構造がシンプル

 

磁気光学効果

   磁気光学効果の現象論

   磁気光学効果の電子論

 

磁気光学効果とは

   磁気光学材料は、光通信用デバイス、光磁気記録デバイスとして実用化されている。

   磁気光学効果は、磁化した物質の光学定数が、右回り円偏光と左回り円偏光とで異なることに由来し、マクロには誘電率rテンソルの非対角成分から生じるが、ミクロには、磁化とスピン軌道相互作用の相乗的な効果として説明される。

 

磁気光学効果の基礎

   光と磁気の結びつき

   ファラデー効果とは

   磁気カー効果

   ファラデー効果の現象論

 

光と磁気の結びつき

   磁気:光磁気効果

   熱磁気効果:キュリー温度記録MOディスク

   光誘起磁化:ルビー、磁性半導体

   光誘起スピン再配列光モータ

   磁気光:磁気光学効果

   スペクトル線の分裂、移動(ゼーマン効果)

   磁気共鳴:強磁場ESR、マグネトプラズマ共鳴

 

狭義の磁気光学効果(ファラデー効果アイソレータ)

   ファラデー効果とは

   自然旋光性とファラデー効果

   磁気カー効果

 

3つのMO-Kerr 効果

   極カー効果(磁化が反射面の法線方向、直線偏光は傾いた楕円偏光となる)

   縦カー効果(磁化が試料面内&入射面内、直線偏光は傾いた楕円偏光となる)

   横カー効果(磁化が試料面内、入射面に垂直偏光の回転はないが磁界による強度変化)

ファラデー効果の現象論

   結論から先に述べると、ファラデー回転角φF、ファラデー楕円率ηFは、誘電率テンソルの非対角要素εxyの実数部と虚数部との一次結合で与えられることが導かれる。これを導くために,まず,右円偏光および左円偏光に対する屈折率n+n 消光係数κ+κ- およびεxyとの関係を導いておく。

 

誘電率テンソル

 

磁気光学効果の式

 

左右円偏光に対する光学定数の差と誘電率テンソルの成分の関係

 

円偏光と磁気光学効果

   複素ファラデー回転角

   ΔnΔκεxyを使って表す。

   ΔNに書き直すと

 

複素ファラデー回転角

   複素ファラデー効果

 

古典電子論

 

電気感受率と誘電率

 

Feの磁気光学効果は古典電子論で説明できるか?

比誘電率の非対角成分の大きさ:最大5の程度

   キャリア密度 と仮定
   B=3000Tという非現実的な磁界が必要

   スピン軌道相互作用によって初めて説明可能

 

磁気光学効果の 量子論

   磁化の存在スピン状態の分裂

   左右円偏光の選択則には影響しない

   スピン軌道相互作用軌道状態の分裂

   ()回り光吸収()回り電子運動誘起

 

大きな磁気光学効果の条件

   遷移強度の強い許容遷移が存在すること

   スピン軌道相互作用の大きな元素を含む

   磁化には必ずしも比例しない

 

電子分極のミクロな扱い

 

円偏光の吸収と電子構造

 

スピン軌道相互作用の重要性

 

反磁性型スペクトル

 

誘電率の非対角成分のピーク値

 

常磁性型スペクトル

 

磁気光学効果の応用

   光通信用磁気光学デバイス(Magneto-optical devices for optical communication)

   光磁気記録(Magneto-optical recording)

   電流・磁界センサー(Current and magnetic field sensors)

   磁区観察(Magnetic domain observation)