物理システム工学科2年次「材料物性工学概論」(92教室)第12回講義 1999.7.15 

佐藤勝昭教官(量子機能工学分野教授)10号館215室, 内線7120

E-mail:satokats@cc.tuat.ac.jp, Homepage: http://www.tuat.ac.jp/~katsuaki/

第11回(7/8)の講義内容(復習)磁性体の技術磁化による分類

軟質磁性体、半硬質磁性体、硬質磁性体の違い;保磁力Hcのちがいによる

磁気ヒステリシス曲線:初磁化曲線、磁気飽和、残留磁化、保磁力

ヒステリシスの起源:磁区、磁壁、磁壁移動、磁化回転、単一磁区

第11回の問題:鉄の釘を強い磁石に近づけると磁気を帯びる現象をやさしく説明せよ

鉄の釘は、初めは磁気を帯びていません。それは、はじめは釘全体が磁気的にいくつかの部分(磁区)に分かれていて、それぞれがいろいろな向きをむいた磁石になっているため、全体としては磁気は打ち消されているからです。外から磁石を近づけると、磁石からでる磁力線と同じ方向の磁区が広がり、さらに逆向きの磁区が回転して、全体が1つの磁区となり磁気飽和します。いったん磁気飽和したあとは、磁石を遠ざけて外部磁界をゼロにしても、逆むきの磁区が成長するにはおおきなエネルギーを必要とするので、逆向き磁区は全体の一部にとどまり、残留磁化がのこります。これが磁気を帯びた状態です。

質問コーナ

  1. 「磁化」というのが分からない(小林英)→A. 定義もせずに使ってご免なさい。でも、定義からやっているとなかなか実際の話までいかないので、「磁化」という言葉はこのように使うのだという感じをつかんで貰おうとしました。電磁気学では、外部磁界H, 磁化M, 磁束密度Bとすると、B=μ0(H+M)と書かれますから、磁化Mは物質(磁性体とは限らない)があることによって付け加わった磁束密度 (に対応する磁界) の大きさです。
  2. 初磁化状態の磁気モーメントが磁力の強さになるか(三浦)→A. 初磁化状態は全体として磁気モーメントは打ち消していますから、それから磁力を見積もることはできません。
  3. 磁化は磁界に逆らう向きに変化するのか(児泉)→A. 磁界に平行になるように変化します。
  4. 「保磁力」というのは磁力を保有する力か(小林英)→A. 保磁力は、coercivityの翻訳で、抗磁力ともいいます。coerciveというのは強圧的な、強引なという意味で、無理矢理磁化をひっくり返すために加えなければならない逆向きの磁界の大きさのことです。永久磁石ではこれが大きく残留磁化が大きいほど大きな磁力を持っています。
  5. 保持力とは何が何を保持するのか(藤村)→A. Bad Question! 「保持力」ではなく「保磁力」ですから間違えないようにという私の注意を聞いていなかったね。保磁力の意味はQ2参照。
  6. 保磁力の大きさHcはどのような性質できまるのか(大沢)→A. 自由に回転する微粒子磁石からなる磁性体の保磁力は、磁気異方性定数Kuに比例し、磁化の大きさMsに反比例します。磁気異方性というのは、磁性体の磁化が結晶や薄膜の特定の方向を向こうとする性質です。磁気異方性エネルギーが大きいと、外部磁化の方向に向こうとする力より、異方性で決まる向きを保とうとする力がまさります。その結果大きな磁界をかけないと磁化が反転しません。従ってHcが大きくなるのです。一般の場合のHcを理論的に導くのは困難だと言われています。
  7. 磁区ができる原因は何か(小泉)→A. 授業で説明したように、磁極が生じることによる静磁エネルギーを下げるために、ストライプ磁区に分かれたり、磁極を作らない環流磁区になるのです。
  8. 磁壁が欠陥などにピン留めされるというのが分からない(中田智)→A. 磁壁の中では、原子の磁気モーメントの向きが、徐々に回転していきます。原子の磁気モーメントどうしの間には交換相互作用が働いていて、1つが傾くと隣の磁気モーメントも傾けようとするのですが、途中に欠陥があると、1つが傾いてもそれが伝わらないことがあります。これがピン止めなのです。
  9. 永久磁石の磁化反転による磁気の減少は本当にゼロなのか。限りなくゼロと言うだけか(千葉)→A. 完全にゼロと言うことはありませんが、Hcが大きなものでは、半永久的です。
  10. 飽和磁化の大きさは物質毎に決まっているか。何によって大きさは決まるのか(坂本, 犬塚)→A. その通りです。鉄は105A/m程度ですが、永久磁石材料のSmCo5では106A/m近くあります。金属強磁性体の磁化の強さは、↑スピンバンドの電子数と↓スピンバンドの電子数の差で決まります。個々の磁性体のバンド構造に基づいて決まります。
  11. 磁界の単位で「ステッド」というのが出たが基本単位ではどうなるのか(犬塚)→A. 「ステッド」ではなく「エルステッドOersted」でOeと表し、cgs単位系における磁界の強さを表します。1 Oe=79.6A/mです。地磁気の強さは、0.3 Oe=24A/mです。
  12. 飽和前に磁界をゼロにするとどうなるか(須貝)→A. Good Question.マイナーループを描きます。 
  13. HがマイナスとはNSの向きが逆ということか(小林恒)→A. その通りです。
  14. ヒステリシスループ1周にどれくらいの時間がかかるか(尾崎)→A. 1ns程度の速さで応答します。
  15. 軟質と硬質の使い分けがいまいち分からなかった(児玉)→A. 永久磁石はHcが大きくないと困るので硬質磁性体、磁気ヘッドや変圧器(トランス)の磁心は、ヒステリシスがあると困るので、Hcの小さな軟磁性を使う。磁気記録には、メモリーのためには残留磁化が必要であるが、記録磁界で書き替えられなければならないので半硬質磁性体を使います。
  16. 方位磁石に永久磁石を近づけないほうがよいと聞いたが今日の問題と関係あるか(作間)→A. その通りです。方位磁石の磁針は弱く磁化されていますが、強い磁石を近づけると、磁針の指す方位が逆転してしまうこともあります。
  17. 現在最強の磁石よりもっと強い磁石は発明可能か(中村謙)→A. 原理的にはナノコンポジット磁石という複合磁石を作るともっと大きな磁化を期待できるので、東北大学や米国のアルゴンヌ研究所などではそのような磁石を研究していますが、今のところ成功していません。
  18. 磁気記録で「硬質磁性」はどこに利用されているのか(斉藤)→A. 磁気記録媒体のメモリ作用に利用します。
  19. ディジタル記録は分かったがアナログ記録が分からない(竹内)→A. Q9にあるマイナーループを描かせて、中間の残留磁界として記録します
  20. 上書きのメカニズムが分からない(竹内、鈴木)→A. 前に書いてあるものもHc以上の磁界で書き替えられます。磁性体の良いところです。アナログでは、そのままでは困難ですが、高周波バイアス法を使うので可能なのです。
  21. アナログのテープは重ね録りをつずけると映像がわるくなるのか(楜沢)→A. テープはトラックとよばれる経路に沿って信号が記録されていて重ね録りをすると、今までの記録磁化の上に重ね書きしますが、テープのジッターなどのため、完全に同じトラックを通るわけでないので、前の分が消えずに残ってそれが画質の低下につながります。
  22. ハードディスクでは、電気信号→磁気信号(書き込む)、(読み出す)磁気信号→電気信号という流れなのですか。(杉村)→A. その通りです。(当然、知っていると思って講義していました) 
  23. ハードディスクが100GBになるのはどれくらい先か(長尾)→A. 今年の磁性の国際会議で、今年中に40Gbit/inch2までいくということですから、今年中に2.5”径で20GBというのが出るでしょう。100GBは2-3年後でしょう。 
  24. HDDの密度を上げるには粒子を小さくする必要があるのか。(須貝)→A. それも1つですが、1つ1つに1ビット記録するには、隣のビットと十分に離れていなくてはなりません。そこで1つの粒子の周りを非磁性体で囲むなどの方法が採られます。さらに、面内磁気記録では、互いの磁界で減磁してしまうので、垂直磁気記録にしないと行けないのではないかと言われています。また、磁気モーメントの熱揺らぎの問題をどう解決するかが議論されていますが、話はそれほど簡単ではなく、もっと難しい磁性物理が関係するので、世界中の多くの研究者が研究に取り組んでいます。
  25. HDDが壊れる原因と予防法(坂本)→A. ヘッドクラッシュによる磁性体あるいは磁気ヘッドの損傷が主因です。予防法はなるべく衝撃を与えないことです。
  26. ハードディスクでヘッドを磁気ディスク上に載せてしまうという話があったが、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)でも削れるのではないか(安達)→A. だから潤滑剤を塗布するのです。
  27. 誘導ヘッドとは何か(通地)→A. 磁気の変化をコイルによって磁気誘導による起電力として検出する普通のヘッドです。カセットテープもビデオレコーダも誘導ヘッドを使っています。これに対し、磁気によって抵抗値が換わるヘッドをMRヘッドというのです。
  28. MRヘッドでは誘導ヘッドの何倍記録できるのか(湯浅)→A. MRヘッドは読みとり専用で記録できません。MRヘッドにも異方性磁気抵抗を用いたAMRヘッドと、人工格子の巨大磁気抵抗を利用したGMRヘッドがあります。GMRだと誘導型の100倍以上高密度の記録磁区を読めます。
  29. CD, MDの読みとりはHDDの読みとりと同じか(上遠野)→A. CDはレーザ光の強度を読みとります。MDはレーザ光の偏光の回転を読みとります。
  30. CDRの記録媒体は何か(高島)→A. 色素です
  31. 中松氏のフロッピーの発明はどれくらい凄いことなのか(永井)→A. それまでは、コンピュータ用磁気記録と言えばしっかりした硬い基板の上に磁性体が載っているという固定概念がありましたが、ソレを崩したところがすごいと思います。
  32. 磁性体には、授業中に挙げたものの他にどんなものがあるか(長田)→A. 本日の講義で話します。
  33. はさみの刃を素早く開いたり閉じたりすると、クリップがくっつくが、やはり磁石の働きか(箕澤)→A. ウチのはさみでやってみましたが起きませんでした。よく分かりませんねー。

印象・感想コーナ

  1. いざ自分がやさしい言葉で説明してご覧と言われると難しいものだと思った。ちゃんと理解していないので、自分の言葉でかみくだいて説明できないのだろうか(中村正)
  2. 1年のときに物理学で森下先生の話はさっぱり分からなかったが、最近ノートを出してみたら、知っている話が多くなっていて嬉しかった(中田智)
  3. 磁性体には様々なものがあり、5兆円産業だと聞いて驚いた。(金子)
  4. 磁性体というとMDとか磁気カードくらいしか思い浮かばなかったが色々なところに使われていることを知った(有田)
  5. 磁性体1つをとってもずいぶん様々な性質があると分かった。(碓井)
  6. 磁気で記録する過程がよく分かった。(坪井)
  7. 磁気ヒステリシスがよく分かった(松元、町川) 金属が磁気を帯びる様子がよく分かった(矢内)
  8. 磁気ヒステリシス曲線による磁性体の違いがよく分かった。またヒステリシスロスを考えて適した磁性体があることがよく分かった(山口)
  9. 釘の磁化が複雑な仕組みで起きることに驚いた(楜沢)
  10. 鉄釘の磁化はわかったが磁気記録は分からなかった(荻原)
  11. 子供の頃に磁石と釘で遊んだことを思い出して懐かしかった(上村)
  12. 今日の講義は、飽きない話で面白かった(杉村)
  13. いろんなところでいろんな学問が使われていることに感心した(辻村)
  14. ハードディスクの容量が増加した理由を多少は理解できた(北村) 
  15. HDDは記録もレーザーでやっていると思っていたので、構造的に全然違うことが分かった(八木)
  16. ハードディスクの磁気ヘッドが0.05-0.08μmしか浮いていないところでディスクが回転していることに驚いた(宮田)