物性工学概論第5回補足資料 2006.5.16配布

固体のバンド構造

 


1 物質の電気伝導による分類

固体を原子間の結合のしかたで分けるかわりに,物質の電気的な性質によって絶縁体(insulator),半導体(semiconductor),金属(metal)に分けることができる.[1] 室温における電気抵抗率は,金属では10-3Ωcm以下,絶縁体では108-1010Ωcm以上である.これに対して,半導体では不純物の添加で抵抗値が制御できるので,ほとんど金属に近いものから,絶縁体に近いものまで広範囲に変化させることができる.しかし,金属と半導体・絶縁体の違いは,電気抵抗率の値そのものではなく,むしろ,電気抵抗率の温度変化にはっきりと現れている.図1に示すように,金属の電気抵抗は絶対零度に近づくにつれてどんどん小さくなり,残留抵抗と呼ばれる僅かな値に収束するのに対して,半導体や絶縁体は温度の低下とともに抵抗がどんどん大きくなり絶対零度では電気伝導率が0となる.温度センサーにサーミスターという半導体素子がある.サーミスターは,半導体の抵抗が温度変化に対して敏感に変化することを利用している.


このような電気伝導性の違いはどこからくるのであろうか.これを説明するためには,固体中の電子に対するエネルギーバンド(エネルギー帯)構造(energy band structure)という考え方を持ち込まねばならない.半導体の電気伝導の温度変化をバンド構造によって最初に説明したのはウィルソンであったので,半導体のウィルソン模型(Wilson model)という.次節以下に,固体のエネルギーバンドの考え方を解説する.この考えは,固体の物性を考える上で非常に重要な概念なのでよく理解して欲しい.

 

2 原子の寄り集まりと電子のバンド

 希ガス気体の原子のようにばらばらに存在する原子(孤立原子)の中の電子は,量子力学の教えるところによれば,主量子数(principal quantum number)n,方位量子数(azimuth quantum number)l,磁気量子数(magnetic quantum number)mで指定される特定の状態にあって,そのエネルギーはとびとびの値しかとれない.珪素(Si)を例にとると,図2(a)に示すように外殻電子の3s,3pというのは主量子数nが3,方位量子数・がそれぞれ01を持つ状態で,そのエネルギーは,主量子数だけで決まるとびとびの値をとる.

原子が集まって固体を作ると,電子は1つの原子内にとどまっていないでいくつかの原子の位置にまたがって広がる.このため原子の数の分だけ電子軌道が重なることになる.ところが,パウリの排他律(Pauli's exclusion law)によって同じ軌道にはスピンのちがう2つの電子しか入ることができないので,重なり合った電子軌道は僅かずつ形を変えて同じ軌道に入らないように調整が起きる.この結果,とり得るエネルギーは図2(b)に示すように幅をもったものになってくる.このエネルギーの広がりをエネルギー帯またはバンドと呼ぶ.バンドの幅は,電子が原子内を動き回る運動エネルギーの程度を表している.エネルギー帯は結晶に限らず周期性を持たないアモルファス物質にもある固体に共通の概念である.およそ固体である限り,原子間に電子の重なりがあれば電子のもつ固有エネルギーはもとのものと同じではなくいくらかの幅をもったものになる.[2]

 原子がさらに接近すると,図2(c)に示すように,共有結合ができて,sp3軌道(スピンを含めて8個の軌道がある)が固有状態となり,sp3の反結合軌道の集まりのバンドとsp3の結合軌道の集まりのバンドとにエネルギーの分裂が起きる.その結果2つのバンドの中間に電子が占めることのできないエネルギー範囲が生じる.これをエネルギーギャップ(energy gap),または,バンドギャップ(band gap)と呼ぶ.


 シリコンでは1原子あたり4個の電子があるが,これがエネルギーの低い4個の結合軌道のバンドを満たし,エネルギーの高い4個の反結合軌道のバンドは空っぽとなる.下のバンドの電子に電界をかけて加速しようとすると,加速されて高い運動エネルギーをもった電子はバンドギャップ内に押し出されなければならないが,ここには電子の占めるべき状態がないので,結局電子は加速できないことになる.このため純粋なシリコンは本質的に絶縁物となる.

  さまざまな物質におけるバンドギャップの値は図3にまとめてある.実はこれは絶対温度が0のときの話で,物質の温度が上がると熱運動のエネルギーのために,ギャップを飛び越えて上のバンドに電子が励起される確率が増える.(このことを,もう少し正確に扱うにはフェルミ分布という概念が必要である.)すると上のバンドには電子が少し存在するようになる.この電子は電界で加速すると高いエネルギーの状態をとりうるので電気伝導が起きる.それ故,このバンドを伝導帯(conduction band)という.一方,下のバンド(これを価電子帯valence bandという)には電子の抜け穴ができる.電子の抜け穴はあたかも正の電荷をもった粒子のようにふるまい,電界によって移動することができる.これを正孔(ホールhole)とよぶ.

 このように半導体では温度上昇によって電荷を運ぶ粒子(キャリアcarrier=電子と正孔)の濃度が増えて導電率が大きくなる.半導体では,温度上昇によるほか,価数の異なる不純物原子を添加することによってキャリアを作り出すことができる.温度上昇によってキャリアが作られる半導体を真性半導体(intrinsic semiconductor),不純物の添加によってキャリアが作られる半導体を外来性半導体(extrinsic semiconductor)という.電子を主なキャリアとするn型半導体と,正孔を主なキャリアとするp型半導体を思いのままに作り出せることが半導体の特徴であり,これが半導体デバイスの今日の隆盛をもたらしたのである.

 半導体の電子のエネルギー状態はエネルギーバンドの考えで説明できることがわかった.それでは,金属,絶縁体はどうなるのであろうか.図4はバンドモデルによる絶縁体-半導体-金属の区別を示している.金属では,絶対零度でも伝導帯が部分的にしか満たされていないので,電界による加速が可能である.金属は半導体よりはるかに大きな電気伝導率を持つが,これは関与するキャリアの数が遥かに多いことによる.半導体や絶縁体では,絶対零度で価電子帯が電子で満たされているのに対して伝導帯には電子がないので導電率は無限小となる.絶縁物と半導体は導電率の温度変化という観点からは区別がなく,単に室温での伝導率の大きさの程度の違いの問題にすぎない.この違いにはキャリアの電界による加速のされやすさ(移動度=mobility)の大小が関係している.移動度に関しては,金属は必ずしも半導体より大きな値をとらない.

テキスト ボックス:   <ウィルソン型絶縁体とモット・ハバード型絶縁体>
   ここに紹介したようにバンドギャップの存在による絶縁体をウィルソン型の絶縁体(Wilson insulator)という.これに対して,バンドモデルで計算すると金属になるのに絶縁体になっている物質がある.例えば,MnOがそうである.MnOでは単純なバンド計算ではdバンドにギャップが開かないので金属になるはずであるが,Mn2+イオンの位置にある5個のd電子はフント則(Hund's rule)によってスピンがそろっているが,となりのMn2+イオンから1個の電子を持ってきて中心のMn2+のd5電子系に付け加えるためには,その電子は逆向きのスピンを持っていなければならない.互いに逆向きのスピンを持つ2つの電子にはPauliの排他律が成り立たないので,電子軌道の重なりが大きく,クーロン力が強いためにエネルギーが高くなってしまう(このエネルギーのことを電子相関electronic correlationと呼ぶ).このため,電子の移動が妨げられ絶縁体となる.このような絶縁体をモット・ハバード型の絶縁体(Mott-Hubbard insulator)または,電荷移動型絶縁体(charge transfer insulator)という.このような絶縁体でも,圧力などによって,イオン間の距離が接近してイオンどうしの電子の重なりが大きくなると,ポテンシャルの遮蔽がすすんで,突然,金属に転移する.このような相転移をモット転移(Mott transition)という.

3 結晶の周期ポテンシャルとバンド構造

  前節までの議論は,ばらばらに存在する原子(孤立原子)が寄り集まってきたとき,原子中の電子状態がどのような変化を受けるかという考えに立脚して進めてきた.物質の状態に対するこのようなアプローチを孤立原子からの近似(isolated atom approximation)または,ハイトラー・ロンドンの取り扱い(Heitler-London scheme)という.

 これに対して,電子が平面波によって表されるという自由電子状態の極限から出発して,周期的に並んだ結晶の原子核のポテンシャル(クーロン力の場)によってどのような変化を受けるかを考えるアプローチを自由電子からの近似(free electro approximation)または,ハートリー・フォックの取り扱い(Hartree-Fock scheme)という.この近似では,電子を波として表すことができるということを前提にしているから,原子の並び方が周期的である場合に都合がよい.すなわち,これは完全結晶を扱うのに適した近似である.この節では,自由電子から出発して周期ポテンシャルのもとでの電子に拡張して,バンド電子の振舞いについて述べる.

  話を簡単にするために1次元の結晶,つまり,図5に示すように原子が等間隔で1列に並んだ鎖を考える.この結晶は有限の数Nの原子からできていて「巡回的境界条件(cyclic boundary condition)」が成り立っているとする.

  自由電子に対するシュレーディンガー方程式は次式で表される.

             (1)

この解は平面波,すなわち,exp(ikx),の形で書ける.kは波数(wave number)と呼ばれ,電子の波長をλとするとk2π/λで与えられる.この解に対応する固有エネルギーは


                       (2)

となる.エネルギーはkの二乗に比例する.電子のエネルギーEを波数kに対してプロットしたものが図6(a)である.

これに対して,結晶ではポテンシャルVが存在するので,シュレーディンガー方程式は

          (3)

となる.

周期ポテンシャル中の電子の波動関数は,格子間隔の周期・を持つ周期関数uk(x)で振幅変調された平面波で表すことができる.すなわち

                    (4)

である.このように表せることをブロッホの定理(Bloch theorem)といい,ψk(x)をブロッホ関数(Bloch function)と呼ぶ.[文末脚注[1]] 関数uk(x)は周期aをもつ周期関数であるから,

uk(x+a)uk(x)                                (.5)

の関係が成り立つ.図7は,ブロッホ関数の空間的な変動の様子を模式的に表したものである.

結晶中の電子をブロッホ関数で表すと,ポテンシャルが0になった極限(これを空格子近似empty lattice approximationとよぶ),すなわち,自由電子の極限において,そのエネルギーは,式(2)ではなく,

                     (6)

で与えられる.ここに,gはポテンシャルV(x)の周期aの逆数に2πをかけたものの整数倍である.すなわち,

                                       (7)

である.gを逆格子(reciprocal lattice)という.ここでは1次元の周期ポテンシャルを扱ったので,gはスカラーであったが3次元ではベクトルで記述され,逆格子ベクトルと呼ばれる.

 いいかえれば,結晶中の電子のエネルギーは自由電子と異なって波数kではなく,kに任意の逆格子gを付け加えた量に対して2次関数になっているのである.これを図示したものが図6(b)である.

  なぜ,同じV=0の極限であるにもかかわらず,ブロッホ関数の固有エネルギーは,自由電子の式(2)でなく,式(6)で表されるのであろうか.このことを以下に定性的に説明しよう.

ブロッホ関数を構成するu(x)は格子の周期をもつ関数である.任意の周期関数は正規直交関数系を用いてフーリエ級数展開できる.正規直交系として逆格子の波数g(=2πn/a)を持つ平面波系{exp(igx), n=0,±1,±2,・・・}を用いてフーリエ級数展開すると,ブロッホ関数は

  (8)

となって,波数k+gをもつ多くの平面波の和で表されるのである.これが結晶中の電子のエネルギー固有値が式(6)で表される理由である.この式の正確な導出は文末脚注に譲る.[文末脚注[2]] 図をみると,すべてのバンドはkに対して2π/aの周期をもってくりかえしており,[-π/a, π/a]の1周期分をとれば十分であることがわかる.この領域のことを第1ブリルアン域(first Brillouan zone)という.(ちなみに,三次元の場合ブリルアン域は複雑な立体となる.ダイヤモンド構造のブリルアン域は,正八面体の角をおとした14面体で,8個の正六角形と6個の正方形で囲まれている.)

いままでは,空格子を考えてきた.つまり,周期ポテンシャルを0とおいていた.ここで,周期ポテンシャルを考慮すると,のエネルギー曲線に対応する波動関数と,のエネルギー曲線に対応する波動関数との間に相互作用による混ざりが起き,エネルギー固有値が自由電子の場合から,ずれて図6(c)のようにエネルギー曲線の交点(kπ/aの整数倍の位置)付近で反発するような形となる.この結果,とり得るエネルギーは,一つながりでなくいくつかの領域(バンド)に別れ,バンドとバンドの間にバンドギャップを示すことになる.k=π/a,すなわち,第1ブリルアン域の境界におけるギャップの大きさは周期ポテンシャルのフーリエ成分V1の2倍に等しい.このことは文末を参照されたい.[文末脚注[3]]

 バンドギャップの極大と極小の位置における電子の波動関数はどのようになっているのであろうか.エネルギーがkに対してで表される状態は,

                                            (9)

の形の波動関数に対応し,で表される状態には,

                           (10)

が対応する.電子の波数がk=π/a(第一ブリルアン域の境界)の付近,すなわち,電子の波長λ2a(格子定数の2倍)の大きさをとると,両波は

                                 (11)

となって,互いにちょうど反対の向きに進む波になっている.もし,これらの波が同じ重率で重ね合わされると,定在波になる.重ね合わせ方に,

                  (12)


の2通りがあって,図8に示すように,前者は原子の位置,すなわち,xnaにおいて定在波の腹ができるのに対し,後者は原子の位置に定在波の節ができる.つまり,φ+は原子核の+電荷の位置に大きな存在確率|φ+|2を有し,ポテンシャルエネルギーが低いが,φ-は原子と原子の中間で大きな存在確率を示すので,ポテンシャルエネルギーが高い.これが,k=π/aにおいて,2つのエネルギー曲線に反発が起きる原因であった.

 

  ポテンシャルが強いとき,すなわち,電子が強く格子点に束縛されているとき,ギャップが大きくなって,・(k)の曲率は小さなものになるであろう.

電子の有効質量(effective mass)m*はバンドの曲率の逆数に比例するので,E(k)曲線の曲率の小さな(つまり,kに対してフラットな)バンドの電子は重い(電界で加速されにくい)電子ということになる.

  9のCと記した付近ではバンドの曲がりはAと記した付近よりかなり急で,C付近の電子は軽い電子ということになる.半導体の電子が,自由電子の1/10以下の小さな有効質量をもち,その結果大きな移動度μを示すのはこの様な事情による.(移動度はμ=eτ/m*で与えられる.)

  アモルファス半導体のように周期性を持たない物質の電子状態を自由電子からの近似で扱うことは非常に難しい.また,電子が原子に強く束縛されていて不完全殻を作りやすいd電子やf電子を扱うにもあまりよい近似とはいえない.

 

4 バンド構造と状態密度

 あるバンド構造を持つ物質において,EE+dEのあいだのエネルギーに電子のとり得る状態がどれくらいあるかを表すのが状態密度(density od state)N(E)である.状態密度はそこを実際に電子が占めているかどうかにかかわりなく,バンド構造が決まれば決まるもので,いわば座席のようなものである.

 長さLの立方体に閉じ込められた自由電子においては,図10(a)のように,波数kx,y,zのどの成分についても2π/Lを単位として等間隔にとびとびの値をとるので,k空間において一辺が2π/Lの立方体にスピンを含めて2つの状態が対応すると考えられる.従って,波数ベクトルの長さがkk+dkの間にある状態の数は,図10(b)のように半径kの球と半径k+dkの球との間にある球殻の体積(4πk2dk)の中に含まれる単位体積(2π/L)3の立方体の数の2倍であって(L/2π)38πk2dkであるが,これは相当するエネルギー領域に含まれる状態数N(E)L3dEに等しい.よりであるから,

                 (13)

 

となって,図11(a)に示す様にエネルギーの1/2乗に比例する.ここにCは,

                                        (14)


つぎに,この席に電子を置いていくと,どの席まで満たされるかを考えてみよう.金属の自由電子系において結合に使われる電子(価電子)の密度nとすると,価電子はエネルギー0からこの状態密度曲線に従って占有していき,満たされた席の数が全部でn個になるまで占めていく.このときの一番上のエネルギーをフェルミエネルギー(Fermi energy) EFという.すなわち,

                                                    (15)

によってフェルミエネルギーが決定される.この式に式(13)N(E)を代入して

                        (16)

が得られる.自由電子系でなく,バンドギャップのある系(図11(b))においても,アモルファス半導体(図11(c))についても状態密度とフェルミエネルギーは定義できる.

 

 

5 フェルミ分布


前の節で述べたのは,絶対零度において,電子がフェルミエネルギーEFまでの電子の席を満たしているということであった.それでは,温度が高くなったとき電子はどのようなエネルギー状態にどのように分布するのであろうか.多数の電子が実際にどのようなエネルギー状態を占めるかについては,統計物理学の助けを借りなければならない.N個の電子があるとき,エネルギーEをもつ電子がどれくらいの割合あるか(正確には,EE+ΔEの間のエネルギーを持つ電子の数の割合)を表すのが,分布関数f(E)である.パウリの原理によって電子は一つのエネルギー準位に1個の電子しか存在できないので,フェルミ統計(Fermi statistics)に従う.このときの分布関数(distribution function)

                   (17)

の形に書き表せる.ここにμは化学ポテンシャル(chemical potential)と呼ばれる量で温度の関数であり,絶対零度ではフェルミエネルギーEFに等しい.この関数がどのような形を持つかということを見るためにT→0としてみると,E-μが正であるか負であるかによって指数関数が0になるか∞になるかが異なるので,

                        (18)

となる.すなわち,図12に示すようにμより低いエネルギーの状態があればそこには電子がつまっているが,μより高いエネルギーの状態には存在確率がないという階段状の分布を表している.有限の温度(T≠0)になると,分布がなだらかになって,μ以下のエネルギーの状態でも電子に占有されない確率が増えるし,μ以上にあっても電子に占有されるようになってくる.

ある温度で個々の物質の電子エネルギー状態がどのように満たされているかを知るには状態密度N(E)とフェルミ分布関数f(E)を掛けたものを考慮すればよい.化学ポテンシャルは

                                      (19)

を満たすように決められる.図13は,半導体において状態がどのように占有されるかを示している.(a)は状態密度N(E)(b)は分布関数f(E)(c)は,占有された状態の分布を表している.半導体では,化学ポテンシャルμはバンドギャップの中央付近にくるので,絶対零度での電子の分布は,(b)図に実線で描かれているようなものになる.(半導体の分野では化学ポテンシャルのことをフェルミ準位Fermi levelと呼んでいる.)(c)図の実線で示されるようにT=0では伝導帯にも価電子帯にも電流の運び手(キャリア)がないので絶縁体となるが,有限温度では,占有された状態の分布は(c)の破線のようになって,電子が伝導帯の一部を占有し,正孔が価電子帯の一部を占有するようになるので電気伝導性を持つ.バンドの中では電子のエネルギーは|E-μ|>>kTの条件を満たすので(E-μは1eVの程度,熱エネルギーkTは室温で0.025eVの程度),式(3.18)の分布関数は

                            (20)


となって,マクスウェル-ボルツマンの分布(Maxwell Boltzmann distribution)で近似される.エネルギー帯の端付近すなわちE=Egにおいては,μ=Eg/2,価電子数Ncとして,キャリアの数nc

                (21)

で与えられ,図14に示すように,活性化エネルギーE/2をもつアレニウス型の温度変化[4]になっていることがわかる.



[1] 固体の分類は,このほかに,誘電的性質や,磁気的性質によって分類することもできる.これらの分類は別の概念に基づいているので,固体を半導体・磁性体・誘電体と分ける分け方は正しくない.磁性体には絶縁性のものも,半導性のものも,金属性のものもあるし,誘電体にも絶縁性のものも半導性のものもある.金属でさえその光学的性質は誘電率で記述することができる.

[2] いま,考えたのは外殻電子についてのみであったが,内殻電子は,固体の中においても孤立原子中とほぼ同じ状態を保っていると考えられている.しかしX線光電子放出スペクトル(XPS,ESCAなどとよばれる)を使って内殻電子のエネルギー状態を見ると化学結合による若干の変化があることが知られ,これを化学シフトと呼んで化学結合状態の判定に使っている.

 



文末脚注

[1] ブロッホの定理の証明

(5)のポテンシャルV(x)は結晶の格子の周期関数であるから,

V(x)=V(x+na)    n:任意の整数)    (E1.1)

が成り立つ.これに対応する波動関数ψは,次のような並進対称性を示す.

ψ(x+a)=Cψ(x)                                             (E1.2)

ここにCは定数である.この関係を繰り返して適用することによって,

ψ(x+na)={x+(n-1)a} =・・・・・=Cnψ(x)         (E1.3)

 ここでは,N個の原子からできている1次元の鎖を考えており,巡回的境界条件が成り立つと仮定しているので,

ψ(x+Na)=CNψ(x)=ψ(x)                                 (E1.4)

が成り立ち,C1N乗根であることが導かれる.すなわち,

C=exp(i2πn/N)   (n:整数)                        (E1.5)

従って,

ψ(x+a)=exp(i2πn/N)ψ(x)                               (E1.6)

が導かれる.(3.3)で表されるブロッホ関数がこの式を満たしていることは次のように確かめられる.

     ψk(x+a)=uk(x+a)exp{ik(x+a)}=uk(x)exp(ikx)exp(ika)

=ψk(x)exp(ika)                                                (E1.7)

ここで,ブロッホ関数に巡回的境界条件を適用すると

    ψk(0)=uk(0)=ψk(Na)=uk(Na)exp(ikNa) =uk(0)exp(ikNa)                                                                   (E1.8)

となるので,kNa=2πn,すなわち,k=2πn/Naが導かれる.

 このkを式(E1.7)に代入すると

        ψk(x+a)=ψk(x)exp(i2πn/N)

となり,式(E1.6)の成立が確認された.

 

[2] 空格子近似

ブロッホ関数の式(4)をシュレーディンガー方程式(3)に代入すると

                                                   (E2.1)

となる.ここでV (x)は周期aの周期関数なので,フーリエ級数展開できて

                               (E2.2)

と書けるはずである.ここに,gは逆格子点でg=na*と書かれ、a*2π/aの整数倍である.また,格子の周期を持つ関数uk(x)もフーリエ級数展開できて

                              (E2.3)

と表されるはずである.ここに,g’は逆格子点である.式(E2.2),および,式(E2.3)を式(E2.1)に代入して,

     (E2.4)

もし,格子点の位置のポテンシャルエネルギーが十分小さければ,上式の右辺を0とすることができるであろう.これが空格子(empty lattice)近似である.このときの電子の運動エネルギーは(E2.4)においてVg=0とおくことによって,

                                 (E2.5)

となり,式(7)が得られた.

 

 

[3] バンドギャップの大きさ

前脚注の式(E2.4)において,ブロッホ関数のフーリエ成分Ugとしては,U0(g=0に対応)U1(g=2π/aに対応)2つのみを考慮し,周期ポテンシャルのフーリエ成分としてはV1のみをとると,

                (E3.1)

ブリルアン域の境界k=g/2においては,

     (E3.2)      

これより,E(g/2)の固有値として,

                             (E3.3)

 

を得る.従って,バンドギャップは2つの固有値の差として2V1で表される.

 

 

[4] アレニウス型の温度変化

 自然界にはアレニウスの式nn0exp(-Δ/kT)に従う温度変化を示す現象が多い.熱エネルギーkTを受けて,大きさΔのポテンシャル障壁を越えて状態の移動が起きるような場合にこの形になる.Δを活性化エネルギー(activation energy)n0を前指数関数因子(pre-exponential factor)とよぶ.

  実験データnがこの温度依存性を示す場合,上式の両辺の対数を取ると

    lognlogn0Δ/kT

となるので,logn1/Tに対してグラフにプロットすると直線となり,傾きから活性化エネルギーΔを,縦軸の切片からlogn0を求めることができる.