物理システム工学科3年次「物性工学概論」:火曜日1限 23番教室
第3回配付資料2002.4.30 佐藤勝昭教官(量子機能工学分野教授)専門分野:固体物理学
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4.1.3 光の屈折と反射
ここでは、光が2つの異なる媒体の間を通り抜けるときどのような現象が起きるかをのべる。よく知られているように誘電率の異なる媒体の界面では反射がおきるとともに、光が界面に斜めに入射すると屈折が起きる。一般に反射の際には光の位相の変化も起きる。反射率や位相の変化は媒体の屈折率と消光係数を使って記述できる。光が斜め入射するとき、偏光の向きが入射面に垂直か、面内にあるかで反射率や反射の際の位相の飛びが異なる。この性質を使って物質の屈折率や消光係数さらには薄膜の厚さなどを精密に求めることができる。この技術をエリプソメトリと呼んでいる。この節では境界における電磁波の連続性にもとづいて屈折や反射の問題を取り扱う。
A.光の屈折
図4.1.2のように等方性媒質1(誘電率ε1、屈折率N1)から等方性媒質2(誘電率ε2、屈折率N2)に向かって、平面波の光が入射するときの反射と屈折を考える。両媒質は均質であり、それぞれの媒質の比誘電率はε1、ε2であるとする。
境界面から媒質2の中に向かう法線方向をz軸にとる。光の入射面はxz面内にあるとする。入射光と法線のなす角(入射角)をψ0、反射光の法線となす角をψ1、媒質2へと屈折する光の法線となす角をψ2とする。
入射光、反射光、屈折光の波動ベクトルをそれぞれK0、K1、K2とすると各媒質において,波動ベクトルの大きさに成り立つ次の関係式を得る。
K0=K1=(ω/c)ε11/2=(ω/c)N1
(4.1.21)
K2=(ω/c)ε21/2
=(ω/c)N2
界面での電界成分と磁界成分の連続性から、
ψ1=ψ0 (4.1.22)
sinψ2/sinψ0=K0/K2
(4.1.23)
を得る。
いま話を簡単にするため媒質1は真空(ε1=1+i0)とすると、式(4.1.21)よりK0、K1は実数となる。これに対しK2は一般に複素数になるが、もし第2の媒体も透明(κ=0、従ってε2=n2)であるならば、K2も実数となる。このとき、(4.1.23)式は
sinψ2/sinψ0=1/n
(4.1.24)
となる。これはおなじみのスネルの法則である。
B.反射の公式
<一般の入射角の場合>
図4.1.2において、入射面(入射光と法線を含む面)をxzとしたとき、この面に垂直な電界ベクトルの成分(y成分)をEsと垂直を意味するドイツ語senkrechtの頭文字のsをつけて表し、入射面内の成分をEpとp(parallel)をつけて表す。入射側には0をつけ、反射光には1、屈折光には2をつける。入射光と反射光の電界の比を複素振幅反射率またはフレネル係数という。p偏光、s偏光に対するフレネル係数rp、rsは、斜め入射の場合異なった値をもち、それぞれ次式で与えられる。
rp=E1p/E0p=(K2cosψ0−K0cosψ2)/(K2cosψ0+K0cosψ2)
=tan(ψ0−ψ2)/tan(ψ0+ψ2)
(4.1.25)
rs=E1s/E0s=(K0cosψ0−K2cosψ2)/(K0cosψ0+K2cosψ2)
=−sin(ψ0−ψ2)/sin(ψ0+ψ2)
となる。ここに、rp=|rp|eiδp、rs=|rs|eiδsである。(上の式の導出は下の問題参照)
(4.1.23)式を利用してψ2をψ0で表すと、
rp={K22cosψ0−K02(K22−K02sin2ψ0
)1/2}/{K22cosψ0+K02(K22−K02sin2ψ0
)1/2}
(4.1.26)
rs={K0cosψ0−(K22−K02sin2ψ0
)1/2}/{K0cosψ0+(K22−K02sin2ψ0
)1/2}
が得られる。
光強度についての反射率Rは|r|2で与えられるから、
Rp=|tan(ψ0−ψ2)/tan(ψ0+ψ2)|2
(4.1.27)
Rs=|sin(ψ0−ψ2)/sin(ψ0+ψ2)|2
となる。上式において、もし、ψ0+ψ2=π/2であれば、tanが発散するためRp2は0となる。このとき、反射光はs偏光のみとなる。このような条件を満たす入射角をブリュースター角という。ブリュースター角を利用すると、斜め入射の反射光を偏光子を通して見ることにより偏光子の電界透過方向を決めることが可能となる。
(4.1.26)式を使って、第1の媒体が真空、第2の媒体の複素屈折率がNの場合についてp、s両偏光に対する反射率を求めると、
Rp=|N2cosψ0−(N2−sin2ψ0
)1/2|2/|N2cosψ0+(N2−sin2ψ0
)1/2|2
(4.1.28)
Rs=|cosψ0−(N2−sin2ψ0
)1/2|2/|cosψ0+(N2−sin2ψ0
)1/2|2
が得られる。図4.1.3は、(4.1.28)式にもとづいて計算したN=3+i0の場合のRp、Rsの入射角依存性である。Rpは入射角70゚付近で0となっており、ブリュースター角が70゚と決定された。
<垂直入射の場合>
垂直入射の場合、ψ0=0、従ってψ1=0。このとき電界に対する複素振幅反射率rとして、
r=rp=(K2−K0)/(K2+K0)
を得る。(定義により入射光のp成分E0pの向きと反射光のp成分E1pの向きとは逆になることに注意)
この式に式(4.1.21)を代入すると次式に示すようになる。
r=(ε21/2−ε11/2)/(ε21/2+ε11/2) (4.1.29)
媒質1は透明(屈折率1)、媒質2は吸収性(屈折率n、消光係数κ)とすると、
ε11/2=1、ε21/2=n+iκ
となるので、(4.1.32)式は
r=(n+iκ−1)/(n+iκ+1)≡R1/2eiθ (4.1.30)
と書ける。ここにR=|r|2は光強度の反射率、θは反射の際の位相のずれであって、次の2式のように表すことができる。
R={(n−1)2+κ2}/{(n+1)2+κ2}
(4.1.31)
θ=tan-1{2κ/(n2+κ2−1)}
以上から光が界面に垂直に入射したとき、反射光の強度は入射光のR倍となり、反射光の位相は入射光の位相からθだけずれることとが導かれた。次節で述べるように位相は反射率のスペクトルからクラマースクローニヒの関係式を使って計算で求めることができる。
C.偏光解析(エリプソメトリ)
(4.1.25)の2つの式の比をとると、
rp/rs=−cos(ψ0+ψ2)/cos(ψ0−ψ2)=|rp/rs|ei(δp−δs) (4.1.32)
ここで、tanΨ=|rp/rs|、Δ=δp−δs
とおくと
rp/rs≡tanΨeiΔ (4.1.33)
となる。ここにΨ、Δは実数である。
いま、真空中から、入射面から45゜傾いた直線偏光(Es=Ep)を、誘電率εr(複素屈折率N=n+iκ)の媒体に入射する場合を考える。反射光は一般には楕円偏光になっているが、そのp成分とs成分の逆正接角Ψと位相差Δを測定すればεrが求められる。(測定には1/4波長板と回転検光子を用いる。)この方法を偏光解析またはエリプソメトリという。
εr'=sin2ψ0tan2ψ0(cos22Ψ−sin22Ψsin2Δ)/(1+sin2ΨcosΔ)2+sin2ψ0
(4.1.34)
εr"=sin2ψ0tan2ψ0sin4ΨsinΔ/(1+sin2ΨcosΔ)2
(4.1.13)式を用いれば、nおよびκが求められる。
D.クラマース・クローニヒの関係式
誘電率、磁化率など外場に対する線形の応答を示すωの関数の実数部と虚数部の間には、クラマース・クローニヒの関係式が成立する。次の節に示されるように(図4.2.3)誘電率の虚数部は電磁波がある特定の周波数ω0を中心とした山形のスペクトルを示す。これはω0付近の周波数を選択的に吸収することを表している。これに対して、実数部はω0付近で正から負に符号を変える分散形の形状を示す。線形応答関数f(ω)=f'(ω)+if"(ω)の実数部f'と虚数部f"とのあいだには、
f'(ω)=(2/π)P∫
dω'ω'f"(ω')/(ω'2−ω2)
(4.1.35)
f"(ω)=(-2ω/π)P∫
dω'f'(ω')/(ω'2−ω2)
の関係式が成立する。第1式は、虚数部のスペクトルが(0,∞)の範囲で知られておれば、実数部が計算で求められることを表している。第2式はその逆のプロセスが可能であることを示す。Pは積分の主値を表す。
第1式を部分積分すると、
f'(ω)=(1/2π)∫dω'ln|(ω'+ω)/(ω'−ω)|df"(ω')/dω' (4.1.36)
となるが、ln|(ω'+ω)/(ω'−ω)|はω'=ω付近でのみ大きな値をもつので、f'(ω)はf"(ω)の微係数に対応する。これが、図4.1.4においてε'がε”の微分形のスペクトルとなる理由である。
複素振幅反射率r(ω)=R1/2(ω)eiθ(ω)の自然対数をとったlnr(ω)=lnR1/2+iθの実数部と虚数部に対してクラマースクローニヒの式を適用すると、
θ(ω)=-(ω/π)∫dω'lnR(ω')/(ω'2−ω2) (4.1.37)
反射率Rのスペクトルが広い波長範囲で得られておれば、反射の際受ける位相のずれθを計算で求められる。Rとθが得られれば、光学定数nとκが求められる。垂直入射の反射率(光強度)Rと、反射の際の位相のずれθが与えられたとき、n、κをRとθを用いて次式のように表される。
n=(1-R)/(1+R−2R1/2cosθ)
(4.1.38)
κ=2R1/2sinθ/(1+R−2R1/2cosθ)
消光係数κは(4.1.5)式によって吸収係数αと結びついているので、反射スペクトルRから吸収スペクトルが求められる。
