カイコの受精生理  -精子の行動と雌の内部生殖器-

1. 
精子の形は種によって様々である(図1)
カイコの精子は有核精子と無核精子の精子二型がある。鱗翅目の他にこのような2型があるのは腹足類前鰓目(タニシ図1-I,J)。

図1 いろいろな精子 石原勝敏(1986

2. 雄から前立腺の分泌物とともに精子が交尾嚢(図7.bc)内に射精される。
交尾嚢内で精包(米粒のように見える)を形成する。

bc交尾嚢db交尾嚢導管,ds精子管、dt螺旋管,gr受精嚢付属腺,gm粘液腺,ip直腸嚢,
od1輸卵管,od2輸卵共通管,ov卵管, rs受精嚢v産卵管,vt前庭

3. 精包内で前立腺の分泌物をエネルギー源にして無核精子が運動を開始する。

4. 無核精子の運動により有核精子束(256本の有核精子が束になったもの)が次第にほどけてくる。

5. ほどけた有核精子は精子管(図2.ds)、前庭(図7.vt)、螺旋管(図7.dt)を通り 受精嚢(図2.rs)に到達する。

6.有核精子は再び螺旋管を降って、前庭部で卵に侵入する。

7. 昆虫は一般に多精受精であり、数個の精子が卵内に侵入する。
昆虫では受精膜を形成するような多精受精を拒む機構(多精拒否機構)がない。


調査項目
1
. カイコ蛾を交尾させる。

図3 交尾したカイコ蛾、左側が♂、右側が♀。


4.蛾の外部生殖器:a肛門,ac鉤器,cl捕握器,dp背面キチン板,l側唇,op産卵孔,p陰茎,
pc陰茎基部のキチン板,sl側胞,v陰門,vc腹面キチン板,vp腹板 雌蛾の誘引腺(矢印)

交尾をさせている間に未交尾雌を腹側から解剖して、内部生殖器を実体顕微鏡でスケッチする。

2. 30分後、90分後、割愛(雌雄を捩って引き離す)する。カイコは人為的に割愛しないと捕握器(3.cl)がなかなか外れない。

3.雌蛾を腹側から解剖する。
解剖皿に水を浸して、腹から解剖鋏で解剖する。

 腹部を開く。左右4対の卵管中に卵巣卵が300〜500個

水色の矢印辺りに受精嚢交尾嚢がある。

 

bc交尾嚢db交尾嚢導管,ds精子管dt螺旋管gr受精嚢付属腺gm粘液腺,ip直腸嚢,
od1輸卵管,od2輸卵共通管,ov卵管, rs受精嚢v産卵管,vt前庭

交尾嚢を摘出する。スライドガラス上で開き、皮膜を取り除き、 水を1滴滴下して、カバーガラスを軽く乗せる。

4.光学顕微鏡で有核精子束(赤矢印)、有核精子(直毛の髪状)、無核精子(ちじれた髪状)を観察
 
図5.交尾後30分の交尾嚢の状態 有核精子束はまだほぐれていない。

 
図6 交尾後90分の有核精子束 時間とともに束がほぐれてくる。