有江 力 研究内容の概要
Arie's Objectives

病原菌の植物侵害戦略に関する分子生物学的解析と
環境負荷の少ない病害防除システムの構築

  21世紀には、地球人口の急増により食料がひっ迫することが予測されている。食用植物生産における障害の一つである植物の病気を効率的にかつ少ない環境負荷で防ぎ、安全な食料を安定供給できるように対処することを目標に、以下の研究を推進している。実験対象としては、難防除病害の代表格である土壌伝染性の不完全性子のう菌Fusarium oxysporumを主に用いている。
  病原菌の植物侵害戦略の解析   F. oxysporumから、遺伝子タギング法(REMI法)等により病原性変異株を作出し、これを利用して病原性関連因子を分子生物学的に解析している。病原性因子がいつ、どこで、どのように発現・機能するかを調べることで、病原菌の植物侵害戦略を明らかにする。(東北農業研究センター吉田隆延研究員と共同研究)
Kew words:トマト−F. oxysporum f. sp. lycopersici系、キャベツ−F. oxysporum f. sp. conglutinans系、シロイヌナズナ−F. oxysporum系、 病原性関連遺伝子、ペクチン質分解酵素、アスパラギン酸プロテイナーゼ
  病原菌の交配と病原性進化の関連を探る   「交配 mating; cross」は、遺伝子を組換え新しい性質を獲得する場であると考えられている。菌類におけるこの交配のメカニズムを植物病原子のう菌をモデルに遺伝子レベルで解析する。さらに、交配不完全性の植物病原菌F. oxysporumおよびPyricularia griseaの交配関連遺伝子(群)を解析することで、交配が病原性の進化にどのように影響を与えてきたかを分析する。
Kew words:交配型遺伝子、フェロモン、G-タンパク質、MAPキナーゼ、完全世代、ヘテロタリック(heterothallic)、ホモタリック(homothallic)、asexual、病原性進化、系統樹、VCG
  病原菌に対する植物の防御システムの解析と利用の可能性   動物の免疫システムと同様に植物も外敵の侵入から身を守る防御システムを持っていること、「植物アクチベーター」と呼ばれる化合物が、この防御システムを活性化することが知られてきた。最近、F. oxysporum f. sp. lycopersiciによって引き起こされる萎凋病の発病をバリダマイシンA(武田薬品工業)のトマト茎葉への散布で抑制できることを見出した。この原因を解析することで、植物の病原菌に対する防御システムを解析し、実際に防除に利用する可能性を追究する。(武田薬品工業農薬科学研究所石川亮研究員と共同研究)
Kew words:トマト−F. oxysporum f. sp. lycopersici系、レタス−F. oxysporum f. sp. lactucae系、抵抗性誘導、サリチル酸、PR-タンパク質
  総合的防除システムの確立   植物病害防除の中心的役割は、これまで化学農薬が果たしてきた。しかしながら、農薬に対する社会的な風当たりの強さ、さらに特に土壌病害に対する特効的農薬の不在等の理由から、圃場の健康診断法、生物防除法(生きた生物を用いる)、前出の植物アクチベーター等、複数の方法を組み合わせて、単独では得られない相乗的な効果を導き出すことを目的に、環境負荷の少ない総合防除法の確立およびそれを構成する各方法の検討を行っている。
Kew words:生物防除、非殺菌性物質による病害制御、病原菌の免疫学的検診法、植物−微生物複合系による土壌中の環境汚染物質の除去