令和2年度
植物病原微生物学授業情報

Modified: Oct 19, 2020

質問に対する回答など


第1回(10月 5日クラス)

質問と回答

ポストハーベスト病害のところで、収穫後、数か月間低温で貯蔵している間に例えばリンゴだと2〜50%がだめになるということだが、収穫後数か月も貯蔵せず、できるだけ貯蔵期間を短くし、迅速に消費者に届ければよいのではないかと思うのですが、何かそれができない理由があるのでしょうか?(同様なご質問複数)
貯蔵期間が長くなっているのは消費者の需要です。例えばリンゴでは、貯蔵期間を短くすると夏に食べられなくなります(昔はそうでした)。植物工場で周年生産したり、南半球から輸入すれば可能ですが、そのコストが長期保存で失われるコストよりかかるようでしたら普及しないです。最近はオセアニアから夏にりんごが入っていますが、まだ品質が日本の長期保存のものに及ばないですね。

Actual yield をEconomic yieldに引き上げるのは企業、Economic yield自体を引き上げるのは大学などの研究機関が中心になりそうだなといった感じがする。
Economic yieldを引き上げることを目指した研究は大学などが進めないといけないですね。また、「植物の医者にもAttainable fieldを目指す医者がいるのか?」というご質問もいただきました。樹木医のように、公園の樹木や歴史的な樹木、あるいは高価な盆栽など個人が大切にしているものに対しては、atteinable yieldを目指す場合があります。

新パナマ病のフザリウムは旧パナマ病のフザリウムの変異株ということですが、50年というスパンで新品種に有害な病原菌が出現するというのは、植物病では普通のことなのか?通常より短いのか長いのか、あるいは農産品の種類により異なるのか?また50年ほどで変異株が出現することは予見できたのか?
50年は長い方でしょうか。ただし、この間にも、SR4というTR4より病原性が弱いキャベンディシュを犯すレースが出ています。そういう新レースが出て来るであろうことは予見していますが、実際に出てこないと抵抗性品種の育種などは開始できない(どんな菌かわからないので)状況でした。しかし、ゲノム解析が容易になり、菌のゲノムのどこにどの程度の頻度で変異が起きることで新レースがでるかの予見をすることが可能ではないかと考えています。これまでの「疫学」は過去の病原のレース進化を解析してきましたが、ゲノム解析を駆使して未来の病原の進化を予見できるのでは無いかと考え、「未来疫学」分野を提案、農工大として商標登録をしました。コロナウイルスなどヒトの病原でも同様です。

バナナはほぼ遺伝的に同じ品種が栽培されているため病気が爆発的に広がりやすく安定的な生産が危ぶまれていると聞いたが、バナナ以外にこのような状況の農作物はあるのか?
食用に栽培している植物の特徴は、遺伝的多様性が少ないことですが、特に決まった品種をつくる傾向があり、すべての食用植物が同様な状況だと思っていただいて結構です。例えば、イネのコシヒカリ、トマトの桃太郎、リンゴのふじなど、、。。


第2回(10月12日)クラス

質問と回答

disease triangleについての質問です。宿主植物と、その植物に感染する病原が同じ場に居合わせたにもかかわらず、環境条件のおかげで病気を発症しないということはあるのか?もしそのようなことがあるならば、農薬など必要なく、ビニールハウスなどで環境条件を整えるだけで病害がなくなるのではないか?
環境条件は病気の発生の有無や程度に影響を及ぼします。この講義では、殺菌剤で病原体を排除しなくても環境条件の制御などで病気の発生を制御することができるのではないか、ということも考えていただきます。そのために、disease triangleを使って議論を進めていきたいと思います。実際に、農薬無しで完璧に病気が抑えるのは困難なので、どのように組みわせて行くかがポイントです。

コッホの原則は、未知の病原体を同定する際の方法という認識で合っているか?一度コッホの原則に従って病原体が同定されれば、二回目以降はコッホの原則ではなくゲノム解析によって同じ病原体かどうかを確認した方が早いのではないかと思う。
未知の病原体を知ることが最初コッホが行ったことですが、実際には本当にその病原による病気かどうかを確かめるためにも欠かせません。変異株を作ったりしたときもかならず病原性を確認するためにコッホの原則に基づく接種試験を行います。植物病理学の基本です。メタゲノム解析だと、病原体でなくても定着している多くの微生物が検出されてしまいます。分離で培地にたくさんのコロニーが出てきて、どれが病原かがわからない状況と同じです。ただし、検疫などではPCRやイムノアッセイも使います。

科学の進歩に伴い微生物の姿がどんどん解明されていくほど現在の分類体系の見直しが必要となってくるんだと思った。より解明が進むと分類上離れた種類の生物が融合し新たな種として生まれたりする水平伝播の現象が起こっていることが判明することで、分類の系統樹がより複雑になっていくのか?
分子系統は、細胞内共生や遺伝子や染色体の水平移動があると単純ではなくなります。実際、植物病原菌が生育に必要でないが病原性等に関わる遺伝子が乗った小型染色体を持つものがあることがわかっていて、その遺伝子や染色体の水平移動も示唆されています。

ヒトだと免疫が完成していない子供の頃の方が病気になりやすいというイメージがあるが、植物ではどの段階でも病気のかかりやすさというのはあまりかわらないか?
植物もやはり若いときの方が罹りやすい病気があります。また、生育ステージや季節によって罹りやすい病気が変わります。良い例が、第3回の冒頭でご紹介する根こぶ病は、関東平野ではハクサイを8月20日〜9月半ばごろに播種すると感染しやすいです。これよりかなり前に植えると暑すぎてハクサイが育たない、あるいは軟腐病など他の病気にかかって根こぶ病の症状を見るところまで育ちません。一方、9月終わりに植えるとハクサイが結球しません。根こぶ病はハクサイが若いうちに根に侵入すると考えられていて、このときに日長が12時間程度以上必要だと言われています。disease triangleで環境を誘因としてご説明しているのはこのようなことです。


第3回(10月19日)クラス

質問と回答

菌に特有の性質や機能は?
菌は動物に大変近縁の真核生物ですが、単細胞(胞子等)あるいは単細胞がつながった状態(菌糸等)で生命活動をしています。多くの場面で核相がn(単相)です。また、単相や異核共存状態でクローンを作ることができます(菌糸伸長や分生子形成)。擬有性生殖、異核共存でのセクター形成、生存に不要な染色体領域の保持など、真核生物としては興味深い性状や機能を持ちます。

どうすればFusarium oxysporumを交配することができるのか?(複数)
交配形遺伝子を持つ、機能する、両交配形の菌がぞんざいする等の事がわかっています。現在は、菌株ごとに染色体構造が大きく異なることが相同染色体の対合阻害になるのではないかと考え、その排除を試みています。


第4回(10月26日)クラス

質問と回答

病原が宿主となれる植物を見つけるのは化学物質の認識などによるか?(複数)
土壌中の病原は宿主植物を化学認識する例はありますが、茎葉病害の場合は、宿主植物上に落下する確立で宿主植物に到達できるかどうかが決まります。葉面などに付着した後は、宿主の化学因子、物理因子(凹凸、硬さ、疎水性等)を認識して侵入挙動を取る場合があります。

ソラマメ火ぶくれ病菌はソラマメにしか感染できないのか?(複数)
講義でご説明を忘れてしまい申し訳ありません。エンドウでも火ぶくれ病の報告があります。なぜマメ科植物だけを宿主とするのかも情報がありません。

絶対寄生性の病原菌の対策として作物を育てる前に強制的に発芽させるといった方法はとれないのか?
宿主植物が植えられていない時に発芽させてしまい、死滅させようというのは、生活環を考えるととても良いアイデアです。残念ですが、根こぶ病菌の休眠胞子発芽を効率で促進する物質が見つかっていません。効率よく発芽させる、かつ、安価に使える物質を発見・開発する必要があります。シストセンチュウでの試みを病害制御のところでご紹介します。


第5回(11月 2日)クラス

質問と回答

異種寄生をするさび病菌の生活環はどのように調査したのか?また,宿主と中間宿主がなぜペアになったのかまだわからないのでしたら,さび病菌は自ら新たな中間宿主を見つけて適応する可能性はありますか?
前者については研究者の地道な探索の結果です。今後は遺伝子解析(例えばメタゲノム解析)によって未知の中間宿主が見つかる可能性もあります。さび病菌が他の中間宿主を今後見出す可能性もあるのではないでしょうか。

黒穂病菌に感染したトウモロコシやマコモは食材とするようだ、黒穂病菌を接種してこれらを生産することは、健全な作物の生産に悪影響が出る危険性があるのでは?
マコモタケは、感染株を維持して毎年生産します。トウモロコシ裸黒穂病菌は黒穂胞子を形成して飛散させるため、通常の生食用・加工用・飼料用トウモロコシの生産や種子生産に悪影響があるので、わざわざ接種して罹病株を栽培することはないのでしょう。やはり、正常なトウモロコシの需要の方が遥かに大きいのだと思います。

黒穂病にかかった麦は他の健全な個体よりも背が高くなるのは、オーキシンの分泌量が多くなるからか?
Ustilago nudaが、IAAを生産するという報告(平田 1957)があります。他に、Ustilago nudaが感染した植物組織でIAA等のホルモンの生産が増えるという報告もあります。。

白絹病菌は分生子を作らないとのことだが生存上不利でないのか?(複数)
担子菌類では、分生子をつくらないものが多いです。この場合は担子胞子等他の手段で広がることができるため、分生子は不要なのかと思われます。白絹病菌は菌糸の伸長が速いので、胞子で増やさなくても良い戦略をとっているのでしょう。

木材腐朽菌はリグニンを分解するとのことだが、リグニンの再利用に木材腐朽菌などの担子菌が利用されることはあるのか?
リグニンの担子菌による分解は、環境資源科学科の吉田誠先生がご専門です。きのこ栽培などが利用例です。リグニンをバイオマスとして発電などに利用することを目的とした研究も行われています。


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