東京農工大学 植物病理学研究室
有江 力 授業開講情報

Modified: Jun. 18, 2002

平成14年度
植物保護学

6月18日クラス

質問と返答

ストロビルリン系薬剤の耐性が何故速やかにおこったか?
ストロビルリン系薬剤の作用点は、かびの呼吸系の中の電子伝達系で機能するチトクロームです。細胞小器官ミトコンドリアのチトクロームタンパク質は、ミトコンドリアが独自で持つ(かびの染色体とは異なる)DNAにコードされています。1つの細胞の中に含まれるミトコンドリアは、遺伝的に単一ではなく、それゆえ、その中のチトクロームタンパク質の構造などにも微妙な差が蓄積していると推定されています。殺菌剤にさらされたときに、このように元々多様性のあるミトコンドリアが選抜され、薬剤に強いミトコンドリアが優勢になることが推定され、これが、速やかな耐性菌の出現に繋がったと考えられています。染色体にコードされているタンパク質の場合はこうはいきません。

アイルランドジャガイモ飢饉とタイタニックの関係?
タイタニック号の沈没は、1912年ですが、特に3等船室には、100人余りのアイルランド人が乗り込んでおり、映画でもあったように船室に閉じこめられて多くが亡くなったと言われています。この中に、ジャガイモ飢饉でイギリス本土に移民し、さらに新天地アメリカを目指したアイルランド人の子孫が多く含まれていたといわれています。ちなみに蛇足ですが、タイタニックは(北)アイルランドで建造され、最後の寄港地はアイルランドでした。

漢方農薬・天然抽出物は危険か?
まずはっきりしておきたいのは、本日の授業で紹介したのは、すべての漢方農薬・天然抽出物(の類)についてでなく、「それらの一部にひどいものがあった」ということです。皆さんは「漢方農薬・天然抽出物」と言った名前や、そのうちの一部のものが人工化合物を含んでいることに惑わされず、個々を科学的に理解して、どのように危険で、どのように安全かを判断していただきたいと思います。「農薬が危険である」というような、十把一絡げな判断も科学的ではないと思います。

生物防除で水虫薬と同じ成分が使用されているのに驚いた
ピロールニトリンを産生するシュードモナス属最近は、生物防除資材として我が国では実用化されていません。しかし、海外では、ピロールニトリン生産増加によって生物防除活性を増強する研究も行われています。植物病害用生物防除資材と、水虫薬が同じ成分を利用していても不思議ではありません。病原はどちらも「かび」ですから。ただし、植物の病気の病原としては「かび」がメインであり、動物の病原としては細菌が一般的であることが特徴としてあげられます。

バリダマイシンAは人間にかかっても無害か?
化合物が無害である、ということは非常に困難(食塩を考えてみてください)ですが、バリダマイシンAは、経口で、体重1 kgあたり20 g以上(すなわち、体重50 kgの人でしたら1 kg)摂取しても大丈夫なようですから、まあ、常識的には無害といって差し支えないのでしょう。


プラントアクチベーターの様な機能で人間に効くものはあるのか?
もともとは、免疫力の向上、というのは人間で利用されている病気に対処する方法です。乾布摩擦や俗に言うドリンク剤の様なものも若干はそのような効果をもつかもしれません。免疫賦活剤もそうでしょうか?最近、言葉を良く聞くと思いますが、「腸内細菌などによるプロバイオティクス」は、まさに生物の潜在能力を利用した免疫力の向上であり、植物の病気で言えば、「病害に対する抵抗性を増強する生物防除資材」と同様な考え方です。

遺伝子組み換えによって農薬が不要になるのか?
殺虫タンパク質を組み込んだ植物で殺虫剤が不要になる例が提示されていますが、病害では、あまり「素晴らしい」例は示されていません。また、もし殺菌性タンパク質を組み込んだ植物を想定すると、耐性菌の出現が心配です。

日本のこうじかびがアフラトキシンを産生しない理由は?
詳しくは、応用生物科学科の竹内先生等、専門の先生にお聞き下さい。ただし、たとえ産生に関与する遺伝子のセットを持っていたとしても、コードされているタンパク質(酵素)の機能性が低い、あるいは発現しないように調節されている、ことによりアフラトキシンは産生されていないようです。これが長い選抜と育種の歴史の結果でしょうか。


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